第8話「少年についての追憶」
俺は特殊だった。何も過大評価しているわけではない。
事実、本当に特殊であり、特別なのであった。
それは今に至っても変わりはしない。
生まれても。成長してからも。
そして、あの出来事が起きてしまった後でも。
それでも矢張り変わりはしないのだ。
俺は特殊。
俺は特別。
そんなレッテルを貼られながら今迄の薄っぺらな人生を歩んできた。たった数ヶ月の間だけれども細やかに幸せを感じたこともあった。
その幸せに永遠を願うことは間違っているだろうか。然し、願えば願う程、脆い存在に成り下がるのが現実である。そうなってしまうのが。現実である。
矢張りそれは搾取された。当然だ。幸せは壊れるに決まってる。
搾取される。それ自体は当然だろう。当たり前だ。こんな俺に幸せを感じる権利などない。そういう存在なのだ。俺は。神にさえ忌み嫌われる存在。それが俺。俺にレゾンテートルなんてものは、ない。というか必要ない。居なくなろうと思えば居なくなる存在でいたい。閑話休題。
だが搾取したのが仲間だったら。仲間だったらどうすればいい。
俺の幸せを搾取したのが仲間だったのなら、俺にレゾンテートルを押し付けたのも仲間だったのだ。
奴は、アレスはその張本人である。俺の幸せを搾取したのは、他でもないアレスなのだ。
憎い。
恨めしい。
許せない。
呪ってやる。
怨霊よろしく、俺はアレスを嫌悪した。途轍もない程に。忌み嫌ったのだ。そんな権利などないくせに。
然し、その嫌悪感は今になっても変わりない。色褪せてなどいない。
だから、アレスの死を目の当たりにした時の、あの涙は何だったのだろう。
純粋に彼の死を悼んだのか、それとも。それとも、彼女の事を想い出したからなのか。
判らない。俺には、判りかねる。
兎に角、彼奴が。アレスが全ての引き金だった。
前回も。そして。今回も。
普通、赤目の能力というのは一人に一つしかない。一人の赤目は一つの能力しか使えない。それが当たり前だった。
然しながら、俺は特殊である。ここが他の赤目との大きな違いなのであった。
俺には能力が二つある。たったそれだけだが、明らかに大きな違いである。
二つあるといっても、一つは常時使えるわけではないのだが。
俺が普段使えるのは『目を染める』能力である。これは簡潔に説明すると、対象の視点を自分が視ることができる能力だ。その人物が何を視ているのか。それを知ることができる。主にサポートに使える能力なのだろう。
そしてもう一つ。『目を貪る』能力だ。これを持っているのは即ち、不幸に他ならない。今回、あの団体やアレスの死体を消し去ったのも、全てこれの所為だ。これは突然その牙を剥く。そしてその場を貪る。何もかも。貪る。常時使えるわけではないのが、利点といってもいいだろう。それ程、危険極まりない能力である。多分、これを留められる人物はこの世にいないであろうことは推察できる。近づいたもの皆全て貪るのだから。
これは多分、感情の起伏に反応しているのだろう。今回もそうだった。
アレスの死に反応して起こったのだろう。使った後は決まって記憶が曖昧になる。そして。
そして。
あらん限りの睡魔が襲って来る。ほら。もう、やって来たようだ。またあの日を想い出すのか。そんな風に怯えながらも、心地よいあの日を回想するべく俺は意識を失った。




