第7話「非行の備考」
「嘘・・・だろ?」
否定したかった。俺は全力で奴の死を否定したかった。
あの男が、アレスを殺したあの男が生々しくそう呟く。
「あ、コレってお前の知り合い?」
そうだ。この変わり果てた死体は、先刻まで会話を交わしていたアレスだ。
「無茶するなよ、馬鹿野郎が・・・」
何故か。何故か涙が頬をつたう。涙の勢いは収まることなく、ただただ流れていく。
「ごめんごめん。てっきり変質者かなにかだと・・・」
この男は人の命を軽く視ている。しかし、それに対しての怒りは起こらなかった。替わりに悔しさが込み上げる。俺がしっかりしていれば、リークの細工にさえ気付けていれば・・・。
「ま、いいじゃん!こんな男の代わりなんていくらでも・・・」
「いるわけない。いるわけないだろ・・・」
あの男に発した言葉がそれだった。
「居るわけない!居るわけないんだよ!」
激昂していた。あの男にかもしれないし、不甲斐ない自分に対してかもしれない。もうそんな事はどうでもよかった。兎に角、鬱憤でも晴らしたかった。
瞬間、殴りかかる俺がいた。
それは宣戦布告の号砲であった。
途端にあの二人が俺に掴みかかって来る。
そうだ。奴等がいたのだ。一対一ならまだしも、三人が相手では勝つ術がないだろう。もう駄目だ。俺もアレスのように殺されるのだろうか。イシカに怒られるんだろうなあ。クレアにも散々言われるのだろう。せめて一言遺しておきたかった。
ゆっくりと。しかし確実に奴等が近づいてくる。
その時であった。
プツンと。
プツンと何かが切れる音がした。
途端、視界が紅く染まっていく。
紅く染まると共に、意識は朦朧と遠のいていく。
あの能力が発動した証拠だった。いつもそうだ。あの能力が発動するとこうなってしまう。
気付くとそこにあったのは、否、何もなかった。
小高い丘に一人寝転んでいた。
眼を開くと満天の星空。綺麗だった。
立ち上がると背後には廃墟。どうやら俺が壊したらしい。いつものことだ。
多分中には、あの三人も、そしてアレスもその姿を消散させているだろう。
まただ。またやってしまった。
またあの能力を使用させてしまった。
軽く消失感を憶える。
「やったよ、リーク」
気付くと俺はそう呟いていた。リーク。君を愛してる。今でも。
仇は死んだ。思い残すことは、ない。
追憶を混ぜ合わせ、またも深い眠りへと吸い込まれていった。