第6話「滑稽に廻り廻る」
「やあ、久しぶり。ヤマト。」
間違いない。間違えるはずもない。今目の前に立っているのは、正真正銘本物のリークだ。
「どうしたの?だんまりしちゃって。」
「リ、リークなんだよな?」
「そうだよ。当たり前じゃん。なんか今日のヤマトおかしいよ?」
「嘘だ。だってリークは死んだはず・・・」
「ひどいなぁ。人を死人扱いするなんて。お仕置きだぁ。」
リークが笑う。口を三日月形にして。あれ、リークってこんな笑い方はしないのに・・・。
そう思った刹那、首筋に激痛が走る。そのまま虚しく地面に五体を叩き付けた。痛い。すんごく痛い。体も動こうとしない。全身の力を振り絞り、顔を上げる。
すると、リークの横に人影が・・・。
不意に頭が思考することを拒否した。同時に世界が暗転する。こんなところで倒れてはいけ・・・。
「おい起きろよ。」
声が聞こえる。誰だこの声。
「起きろってば。」
なんで起きなきゃいけないんだ?それより俺にはやることがあるんだ。あれ、やること?やることってなんだっけ?
「あー、あー、聞いてますかぁ?」
五月蠅いなぁ。急いでイシカのところに行かなきゃいけないのに・・・。イシカのところ・・・?
そして全てを思い出した。あの紙切れのことも、リークのことも。
「無視とか酷いねぇ。この野郎・・・。」
すぐに意識を覚醒させ、恐る恐る目を開く。
そんな俺の目に映ったのは、殺風景な部屋、俺の正面に座る男、そしてその奥でテレビを見ている女だった。
「うわ!いきなり起きた!びっくりさせるなよぉ。」
正面の男はわざとらしく驚く。
「だ、誰なんだ?」
当然の疑問を口にした。とりあえず手足が拘束されていないことが幸いだが、これでは逃げようにも逃げられない。
「僕たちは赤目。偽りの平和を砕くものたち。」
赤目!?驚愕の言葉がいとも簡単にこの男の口から吐き出される。
「僕とそこにいる女、ヘカートは君をここへ招待するために待ち伏せて捕まえたんだ。」
へ?どういうことだ?待ち伏せってことはつまり・・・。
「だから君が見た『リーク』は偽物。僕が魅せたものだよ。」
納得したくはなかった。しかし、納得せざるを得ない。
「僕には『目を魅せる』能力があってね。対象者の欲している人物になることができるんだ。すごいでしょ?」
そうか。あの時俺はリークに会いたいと思っていた。それでリークが。
「おい、ステン。喋りすぎだ。」
ヘカートと呼ばれた女が顔を動かさずに呟く。
「へいへーい。で、ヤマトくんは他に何か質問ある?」
好奇心・・・まるでカエルのホルマリン漬けをいじくりまわした時のような顔で聞いてくる。
「とりあえず、なんで俺はこういう状況下にいるんだ?」
奴の思惑通りに動くのは癪だったが、ここはそうするしかないだろう。
「さあね。団長の指示だからさ。」
団長?他にも赤目がいるってことなのか?
「その団長さんってのはどこにいる?」
「えーと、今日は料理教室の日だからもうすぐ帰ってくるよ。」
へ?料理教室?なんか拍子抜けだ。赤目の団長が料理教室に通っているとは。
「だから喋りすぎだ、馬鹿が。」
ヘカートという人物が今度は顔をこちらに向け、冷ややかな眼差しを浴びせてくる。
「わ、わかったよ。じゃあヤマトくん。団長が来るまで暇だから僕とにらめっこでも・・・」
ガチャ。奥の方でドアの開閉音が響いた。
「あ、団長お帰り!」
「団長お帰りなさい。」
しかし団長はいっこうに現れない。
「どうしたの、団長?」
ずるずると何かを引き摺る音がする。
「団長何を持って・・・うわあ!!」
玄関の方に行ったステンが驚いている。一体なんだ?
「なんか家の近くで能力使おうとしてたから捕まえてきた。」
え?能力?
玄関へと続く廊下から、団長と思わしき人物が姿を現す。思っていたほど屈強ではなく、どこにでもいそうな普通の男にしか見えない。
しかし彼は人間を、死体を引き摺っていた。
「抵抗されたからちょっと時間かかったけど、大したことはない奴だったよ。面白くない。」
その死体はアレスそのものであり、俺が一番最後に会話した些端羅メンバーであった。