第1話「夏のはじまり」
「ヤマト、そっち行ったよ!!」
「ラジャ!」
トランシーバーを握りしめ、俺は疾走する。しかし、奴はひょいと身軽なフットワークで逃走しやがった。身軽過ぎるよ。サーカス団に推薦しようかな。嘘だけど。でも、延々と走り続けると疲れる。ホントニシンドイヨ。おっと、失礼。許してちょんまげ☆
思えば、ここで状況を説明しておかないと、珍粉漢粉だよね?
簡潔に言うと、逃走犯を捕まえようとしている。以上。・・・・・・分かった、分かった。冗談だよ、冗談。俺を見くびらないでくれ。ま、強ち嘘ではないんだが。
俺はある人に依頼され、奴を捕獲することを任務としている。
「ヤマト、何してるの?早く!」
おっと、ぼやっとしてた。危うく、トランシーバーがあの世に逝くところだったぜ☆
とりあえず、「猫の捜索を依頼された何でも屋、些端羅団の団員」ってことだね。ほらね?事実とピッタシ、見事にドンピシャ!っていうわけでもないか。うん。というわけで俺、ヤマトは同じ些端羅団のクレアと一緒に、猫くん捕獲に勤しんでいるわけなんです。
それにしても何時間、憎たらしい猫くんに、俺は半永久的なランニングをコーチしてもらってるだろう。いやぁ、有難いね。でもそろそろ、お開きにしたいな。
「おいクレア、そっちに行ったぞ!後は頼む!」
「全く、後でアイス奢りだからね!!」
ふぅ。アイスで休めるなら、安い安い。
「ヤマト、聞こえる?捕まえたよー♪」
早っ!ちょい待ち、まだ五秒ぐらいしか経ってないぞ?猫くんに一体何が!?鬼のような形相で猫くんを脅しているクレアを想像しながら、猫くんの安否確認へと急いだ。
しばらくして現れたのは、猫くんと戯れるクレアの姿だった。
「へ?何ひてんの?」
あまりの突飛さに喋り方がおかしくなった俺に対してクレアは、
「本当の何でも屋は、ここを使うのよ♪」
と、頭を指差した。手にはキャットフードが握られていた。なるほど、そういうことでしたか。てっきり、猫くんが汗だくで座禅させられてるのかと。
「わかった、わかった。じゃあ、無駄な自惚れはいいから、早く団長に報告しようぜ。」
ゴスッ!!ぐはぁ………
「自惚れは余計かも」
どうやら言葉のあやというやつのようだ。多分。
「というわけで、依頼された猫の捜索及び捕獲は無事成功しました。」
「ご苦労様。猫は依頼人が後で引きとりに来るそうだ。だが、この炎天下の中、よく頑張ったよな。」
俺らは些端羅団団長、イシカのもとへと来ていた。
「それはもう、ほとんど俺g」
「ゲホッ、ゲホッゲホッ!!」
「・・・補助に徹してましたからね」
「そうか。」
おぉ、危ない。もう少しで半殺しになってた。九死に一生を得たり。
ここで、些端羅団について少し注釈を。些端羅団とは、「サハラ」の当て字であり、陰でひっそり依頼達成の意が込められている。何故、「サハラ」なのかは、永遠の謎だが。メンバーはイシカ、クレア、俺の他にも両手の指じゃ足りないほどの人数が居る。些端羅団の団員は皆、『後悔』を持っていた。だがイシカはそれを、『希望』へと変えてくれた。かくいう俺もその一人だ。
「おい、ヤマト何をニヤニヤしている?変だぞww」
「キモッ!」
上司と同僚に攻められる今日この頃でありまする。モテるな、俺って。はい、嘘です。
「コンコン。」
「お、来客だ。すまんがヤマト出てくれ。」
「ほーい。」
ドアのもとへと、のそのそ歩く俺でした。
現在、8月1日、午後3時18分。いつも通りの日々が続くと思っていた俺にとって、とてつもない物語が始まったのだった。