その6 三種のじんぎ3
『お笑いを強制するビデオカメラ』を再び止めることに成功した頃には
すでに開店時間を過ぎていた。
「あーあ、時間過ぎちゃったね。」
「・・・・・・。」
「シャッター開けてよ。」
「・・・・・・。」
「・・・まだ機嫌直らないの?シロー?」
「・・・うるさい。」
おれは今、不快の絶頂にいる。「腐快」と変換してもよし。
ビデオカメラを陳列棚に置きながら喋るみゆきに
返事もしたくないぐらい、深い不快・・・なんちゃって。
ああ、ほら、くだらないギャグが口をついて出てくるっ!
「いいじゃない。所詮あれはビデオカメラなんだから。」
そうだな。・・・でもな。
「その所詮ビデオカメラがおれ達を鼻で笑ったんだぞ!?
でもってその次は苦笑いだぞ!?腹立たないのかよ!?」
そう、あのカメラ、苦笑いまで浮かべやがったのだ。
あやうくまた逆上してスイッチを押すとこだったのだ。
「うーん。べつに立たないよ?」
みゆきは平然としてる。
「・・・・・・なんでだよ。」
「だって、ネタを考えたのは全部シローだもん。」
絶世の笑顔でおれの胸をぞぶりとえぐるみゆきさん。
「・・・・・・シャッター、ぐらい、自分で、開けろ。」
「うえぇぇぇ?」
「・・・・・・・。」
だんまり。
「・・・もう、わかりました。開ければいいんでしょ?」
みゆきはしぶしぶとてとてと踏み台を持ってシャッターを開けに行く。
「・・・・・・。」
*
まあ、シャッターが開いたからといって、開店しているかといって、
客がすぐ来るわけでもなく、暇なわけだ。
「最後はこのマスクだね。」
なにやらバナナの絵がでんと描かれた悪趣味なガーゼマスク。
「・・・やるわけ?」
なんか、嫌な予感がするわけだけど。
「やるよ。暇だもん。」
「そーだけどさぁ・・・。2度あることは3度あるって言うじゃん?」
「3度目の正直とも言うよ?」
・・・ああ、なんてオールマイティでいい加減なことわざ。
「大丈夫だよ。これはそんな大変なマスクじゃないよ?」
「どんな?」
「『俳句でしか喋れなくなるマスク』だって。」
「俳句?」
「5・7・5じゃないと声が出せないの。」
結構大変なマスクな気がする。
「あー、だからバナナの絵が・・・。」
バナナ→芭蕉→松尾芭蕉→俳句
あのビデオカメラのせいか、くだらないことには冴えてるぞ、おれ。
「つけてみてよ?」
なんと?おれにそのマスクをつけろと?
「何でおれが?みゆきがつけろよ。」
「えー、だってー。2度あることは3度あるって言うでしょ?」
うん。おれのセリフだった。
「3度目の正直とも言うだろ?」
「うん。あたしのセリフだった。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
2人の目が光る!きらーん。
「「じゃーんけーんっ・・・」」
*
「ふ、ふん。俳句しか発音できないだけで、害はないもん。」
みゆきがぶつぶつ言いながらマスクをつけようとする。
「おう。がんばれよ。」
そしてみゆきの口にバナナが装着される。
「喋れるか?」
「・・・・・。」
みゆきは口を動かしてはいるが、何も聞こえてはこない。
「すごいな。なんにも聞こえないぞ。」
「・・・・・。」
みゆきが両手を突き出す。
ジェスチャーか?
「ちょっと待てと言いたい?」
うんうんとうなずくみゆき。
俳句を考えているのだろう。
「古池や 蛙飛び込む 水の音。」
みゆきが喋った!
「おお、たしかに俳句は聞こえてくるな。」
「うれしいよ 声が出たから うれしいよ」
続けてもう一句。
・・・みゆき本人の俳句の才能は0っぽい。
低レベルにもほどがあるぜ。
「よし、本物みたいだな。みゆき、もうマスクはずしていいぞ。」
こくこくとうなずくみゆき。
「しかし、本当に害はなかったな・・・って、みゆき?」
なにやらみゆきが苦しんでいる。
「・・・!!・・・・・!」
なにか言いたげだけど、さっぱり分からない。
「・・・取れないのか?マスク。」
ぶんぶんとうなずくみゆき。
「そりゃ大変だな。なんで?」
くいっと首をかしげるみゆき。
「・・・・・そういえば ダメな俳句は 怒らせる」
みゆきが5・7・5で発言した。
「怒らせるって何を?」
数秒考えて、
「このマスク とれなくなるって 言ってたよ」
みゆきもすこし慣れてきた。
「なんでそんな大事なことを忘れるんだよ・・・。
そうかー。いやつけなくてよかった。」
いや、ほんと。
みゆきはジャンケンでは必ずグーかパーしか出さないから助かる。
「・・・・!」
あ、みゆきが涙目になりながらこっちを見てる・・・。
「わるいわるい。冗談だって!あはははは!
で、ダメな俳句って?」
「わからない レベルが低い かも知れない」
確かにそれならみゆきのはだめだめだ。
「どうやってはずすんだ?」
「・・・・・・・。」
口は動いてるけど何も聞こえない。
俳句にするのを失敗したのか?
「ダメなのと 同じ数だけ 良い俳句」
「つまり、レベルが低い俳句を言ったぶんだけ
レベルの高い俳句を言わなきゃいけないてことか。」
ふんふんとうなずくみゆき。
「・・・ん?なんだ、これ。」
よく見るとマスクに描かれたバナナに数字の4と書いてある。
「なんのこと? マスクになにか ついてるの?」
「あ。」
バナナの数字が1増えて5になった。
「もしかしたら、この5って数字がレベルの低い俳句の数かも」
「本当に? 数字はいくつに なってるの?」
「やっぱりそうだ。今の俳句でまた1増えたから6だ。」
つまり、あと6句詠まなければいけないのか。高レベルな句を。
*
「みゆき、とりあえず俳句は季語を入れないとダメなんだ。
なにか発言したいときは、せめて季語を入れろ。」
みゆきはしばらく悩んで、
「わかったよ 季語を入れるね 夏の空」
・・・数字が7に増える。
「・・・もういい。喋るな。」
「・・・・・・。」
「ちょっとまってろ。ちゃんとした俳句を探してくるから。」
こくこくとうなずくみゆき。
*
松尾芭蕉、西行法師、正岡子規などの俳句を拝借して、みゆきに詠ませた。
「ぷはぁ・・・。」
マスクの外れたみゆき。
「あー。あー。うわぁ、言動の自由って大切なんだなぁ・・・。」
なんか違う気がする。
「よかったな外れて。」
「うん。やっぱり、2度あることは3度あるのほうが正しかったね。」
「そうだな。
・・・いやしかし、みゆきの俳句の才能のなさには驚いた。」
「・・・・なに?」
「いやだから、みゆきの俳句の才能のなさには驚いたって。」
「・・・・。」
あ、またみゆきが涙目でこっちを見てる。
「わるいわるい。冗談だって。」
「シローのばかああっ!」
だだっとみゆきが陳列棚のほうに走る。
そんなに傷つけてしまったのだろうか・・・?
「み、みゆき?」
声をかけてみると、返事の変わりに何かがとんできた。
ぽん。
それをおれは見事にキャッチ。
「なにすんだよ、危ないな・・・・って、これは!?」
おれがキャッチしたのは、
・・・『お笑いを強制するビデオカメラ』のそれだった。
「しかも、またスイッチ押してるーっ!!」
またしてもスイッチはおれの手の上に。
『ただいまより30分以内にネタを3つ披露しなさい。』
「うわあっ。ほんとに2度あることは3度あるのかっ!?」
どさっ
おれがわめいているともうひとつ、なにかが飛んできた。
あの黒い箱状のものは!
「『好き嫌いの激しいランドセル』!?
しかも口が開いてる!!」
『うわあああ!人形ボクんだああああっ』
もごごっ
おれがさらにわめいていると、いきなり後ろから口を押さえられた。
「・・・・!?」
みゆき!?と言おうとしたのに声が出ない。
ま、まさか・・・『俳句でしか喋れなくなるマスク』だ・・・。
「あはははは!人を馬鹿にしたらいけないんだよ?」
みゆきが冷たい笑顔でおれに告げる。
「もし、2度あることは3度あるんだったら、
ランドセルとマスクはあと一回ずつあるね!」
あはははは、とみゆきは店から去っていった。
「・・・・・・!!」
謝る、謝るから、許してぇえええっ!!!
なんだか3話目はぐだぐだになってしまいました。
以後、気をつけます・・・・・。




