Episode1 「辞令」
不定期更新にするつもりなのでよろしくお願いします。
街は炎に包まれ、建物は倒壊しありとあらゆるものが原形を留めていない。そんな街の中心に一人の男が立っていた。背丈は高く、細身で髪の色は鮮やかな黒色をしていて真っ直ぐに髪を下ろしている。
「・・・・ここはどこだ?」
黒髪の男は全く状況を掴めていない様子だったが男はすぐに自分が危険な場所に居ることに気づく。男の周りに人が大勢倒れていたからである。男は近くに倒れている女性に近づき、体を揺さぶってみたが反応は無く、今度は怪我をしていないか確かめる為に女性の体を仰向けにした。女性の状態を見た男は驚き一歩後ろに下がった。男が驚いた理由は女性の顔が焼けただれ、腹部に大きくえぐられて内臓が飛び出ていたからだった。
「死体の損傷が激しいな。この傷は・・・・爆発に巻き込まれない限りできないな。」
男がその場から離れようとした時だった。遠くから爆発が起き、耳を塞ぎたくなるほどの爆音が響いた。
「一体何が起きてるんだ?」
男は混乱していたがすぐに自分が危険が迫っていることに気が付いた。空を見上げると何かが落ちてくるのが視界に映っていて、逆光のせいで見づらかったが男にはすぐにそれが何かわかった。
「ミサイル!?くそ、もう間に合わないじゃねぇかよ・・・・」
男は逃げても間に合わないと悟り、覚悟を決め静かに目を閉じた。
「お~い、起きろ。点呼に遅れるぜ、坊や。」
聞き覚えのある声に起こされ、目を開けると目の前には金髪でオールバックの男が俺の顔を覗き込んでいた。
「ん?もうそんな時間か。」
男はすぐに起き上がり、軍服に身を包み身支度を始めていた。
「愁恋〔しゅうれん〕、うなされてたようだけど悪夢でも見てたか?あっわかったぞ、夢の中で軍曹の歌でもきかされてたんだろう。」
金髪の男は笑顔でそう言いながら、右手の親指を立て白い歯を輝かせていた。反対に愁恋は不機嫌そうな表情を浮かべながら身支度を終わらせていた。
「アレックス勘弁してくれ、そんなのを聞いたら泡を吹いて倒れちまう。それと起きてすぐにお前のジョークは聞きたくない。」
(はあ・・・・溜め息が出る。嫌な夢を見た次はアレックスのジョークか。全く朝からツイてないぜ。)
愁恋は苦笑しながらアレックスと部屋を出た。
午前9時 愁恋は射撃場で射撃訓練をしていたが、何故か苛々している様子だった。
(くそ、射撃は得意なほうなんだけどな、隣で口笛を吹いてるやつのせいで全く集中できない。)
「アレックス、口笛がうるさくて全く集中できないんたが。」
「ふっ、口笛程度で集中力を切らすなんてさすが坊やだな、愁恋。」
アレックスは愁恋と話しながらも正確に的を撃ち抜いていた。現在、この基地でアレックスに射撃で勝てる者は誰一人居ない。アレックスは狙撃手としての能力が群を抜いて高く、通常なら観測手とペアになり、観測手に周囲の状況把握を任せて狙撃に専念するのだがそれを一人でこなし狙撃できるらしい。アレックスは1500m以上先まで狙撃ができると言われている。この距離まで狙撃できる狙撃手は凄腕でアレックスもその一人という事となる。
アレックスの挑発で愁恋は余計に苛々して結局、的に全く当たらず残念な結果となった。
正午 愁恋とアレックスは軍曹に呼び出されていた。
「なあ愁恋、お前軍曹に何かしたか?まさか、軍曹の奥さんに手を出したか?」
アレックスのジョークを聞き、愁恋は呆れた表情を浮かべていた。
「お前じゃあるまいしするわけがない。軍曹の前で同じ事言ってみろよ。間違いなく頭を撃ち抜かれるぞ。」
「ハハハ、言うじゃねぇか坊や。まだ死にたくないんでね、遠慮するよ。」
愁恋はアレックスのジョークを軽くあしらいつつ、考え事をしていた。
(はあ・・・・本当にアレックスのジョークには呆れる。アレックスとは俺が軍に入隊したときからの付き合いで、腐れ縁らしく今までの転属場所が全て一緒だった。今回も何か嫌な予感がしているが気のせいだと信じたい。)
愁恋が考え事をしている間に軍曹の部屋の前に着いていて、アレックスが扉をノックした。
「軍曹殿、よろしいでしょうか?」
アレックスが扉越しで軍曹に話しかけると扉の奥から「入れ」と聞こえたため、愁恋とアレックスはすぐに部屋へ入っていった。
愁恋とアレックスは軍曹に敬礼をし、アレックスから階級と名前を名乗り始めた。
「アレックス・ワンダーランド兵長。」
「愁恋一等兵、ただいま参りました。」
「楽にしろ。アレックス兵長、愁恋一等兵お前らに辞令書が出された。後で読むといい。」
軍曹から辞令書を受け取り、部屋を出ようとしたときアレックスは何故か軍曹に呼び止められた。
「愁恋、廊下で待っててくれないか。ちょっと軍曹と女性の好みについて語りあってくる。」
「はいはい、勝手にしてこい。」
愁恋が部屋から出ると軍曹は鋭い眼光でアレックスを睨みつけた。
「アレックス兵長、俺の所に来る前に俺の妻の事を何か言っていたみたいだが何を話していたんだ?」
愁恋に対しては余裕に対応するアレックスでもさすがに軍曹を前にすると焦りの表情を浮かべていた。
「いっいや~、軍曹の奥さんは綺麗だなって話してたんですよ。」
「そうか、それは良いとして今夜はお前らの送別会をするからしっかり参加しろよ。」
アレックスは自分の眉間に銃弾が撃ち込まれなかった事に安心すると軍曹の部屋を後にした。
アレックスは愁恋と合流すると軍曹と何を話していたか説明していた。
「本当、軍曹の地獄耳には驚いたぜ。マジで頭撃ち抜かれるかと思った。」
「自業自得ってやつだろう、てか何でさっきからスキップしてるんだ?何かキモいぞ。」
アレックスは愁恋と合流してからずっとスキップをしながら移動していて、それを疑問に思っていた愁恋は理由を聞いたのである。
「ふっ、そんなの俺達の送別会があるからに決まってるじゃねぇか!!女の子達に声かけ放題だぜ?テンションが上がってスキップするに決まってるだろ。」
愁恋は溜め息をつき、呆れた表情でアレックスを見ていた。
(アレックスは絡みやすい性格で慕われやすく、ハンサムな顔で女性にモテると思れているけど実際は違う。アレックスは自他共に認める女好きで暇さえあれば女性に声をかけているがいつも断られている。だけど懲りずにまた声をかけ、断られるを繰り返していて、正直そのタフの心を見習いたくなるよ。)
「俺は部屋で寝てるから、お前一人で行ってこいよ。」
愁恋の一言でアレックスは残念そうな表情を浮かべたがすぐに笑顔で愁恋をからかい始めていた。
「ツレないやつだな~、そういうノリの悪い所が坊やなんだぜ愁恋。」
アレックスは上機嫌で愁恋をからかい、からかわれている本人は不機嫌そうな表情を浮かべている。
「悪いな、今日は朝から気分が悪いからマジでパスする。」
(あの夢を見てから何故か気分が悪い。後、夢の中で見た景色に見覚えがあるような気がする。まあ、考えても仕方がない、とりあず部屋に戻って寝るか。)
「そうか、なら仕方ないな。ゆっくり休めよ。」
愁恋はアレックスの意外な一言に驚いていた。普段はからかってくるばかりのアレックスが自分の心配をすると思っていなかった愁恋は思わず「明日は大雨になるな」と言いかけたが早く部屋に戻りたい気持ちが優先され、黙ったまま部屋に戻っていった。
愁恋は部屋に戻ってからすぐにベッドに横になり受け取った辞令書に目を通していた。
「新日本軍第三基地配属だって!?」
愁恋は予想していなかった配属場所に驚き、声を上げたがすぐに冷静になり辞令書を見直していた。
愁恋は現在、アメリカ軍に所属しているがJ.E.Uの取り決めで各国の兵士をそれぞれの軍に配属することが可能とされているためアメリカ軍に所属していても新日本軍に配属されることもある。そのため愁恋は新日本軍に配属となったのである。この取り決めがされたのは戦闘時の連携をしやすくするためだと言われている。
新日本は戦争時には移動要塞となり防衛機能は世界でも最高クラスと言われている。そして、兵士達は実戦経験は少ないがチームワークが良く、更に個人の能力が高いため単独での任務も可能である。その能力の高さの理由は訓練の厳しさが尋常ではないからである。その厳しさはまさに地獄と噂される程だ。
(あんな所に配属になるなんてな、本当にツイてない。)
愁恋は溜め息をつくと、辞令書をしまい眠りについた。
~To be continued~
今回はアレックスについての説明が多くなってしまいました。もっと文章力を上げれるよう頑張ります