雲耀の滑落
やや短めですね。
再び、リムジンに乗り込んだ面々が向かったのは、きらびやかなネオン輝く繁華街のど真ん中だった。
「いかがわしい所から、またいかがわしい所ですわね。せめて、行き先くらい教えてくれませんの?」
慣れない異国と、長旅による疲れ、そこに美月から加わった精神的圧迫で、当人からしてみればかつて無い疲労にみまわれているフランカは、先ほどの事もあり、おずおずと尋ねた。
逆に言えば、先ほどの様な事があってもそう言う風に尋ねる事が出来るだけ、彼女の心臓は強いと言えるのかもしれない。もしくは、単純に周りの空気とかが読めないか、そのどちらかだろう。
「カジノだ」
その言葉に、へなへなと崩れる彼女は、単純に空気が読めないだけだろう。むしろ、積極的に場の空気を壊して、自分がダメージを喰らうタイプのようだ。
「カ……」
立ち止まるフランカを捨て置いて、美月と晃一郎は先へ進んでいく。
ハッと気が付いたフランカは、足早に晃一郎に駆寄ると、声を潜めて言った。
「貴方方の業界は、ギャンブル全てはご法度のはずでしょう?宜しいんですの?」
「何事にも、例外と言うのがあってな」
そう言うと、ダンスプールの中に入っていき、店員に何かを見せている。大音量のダンスナンバーが流れ、半裸の女性がバーに抱きついて踊っている様に、フランカが呆然と眼を向けていると、店員が耳に付けているレシーバでどこかに指示を出していた。
そのまま促されるままに、奥にあるVIPルームへ入ると、既に中にいた男が壁を指した。
「カジノに行くんではないんですの?」
「まぁ、見ていろ」
どんどん上昇するいかがわしさに、フランカは心配そうに問いかけるが、晃一郎も美月もニヤニヤと笑って取り合わない。
晃一郎が、部屋にいた男にうなずいて見せると、男の指し示した壁から機械音がして、壁が開いた。布や飾りで分かり難くなってはいたが、どうやら防火壁だったらしい。
晃一郎は、男に目線で軽く礼を取ると、防火壁をくぐった。その奥にはエレベーターがあり、皆が乗り込むと、晃一郎は迷わず下のボタンを押した。
下へゆっくりと下っていくエレベーターの中で、フランカは不安そうに問いかける。
「カジノに、ホテルのカジノに行くんではないんですの?こんないかがわしい場所に」
「回答その1、ベトナムのカジノはゲームセンターだ。しかもレートが低い、そこに行ってもしょうがないだろ。そして」
「回答その2、お仕事も兼ねてるんだよ。大丈夫だよん、問題無い」
「いや…問題無いって」
「まぁ、見てろって」
エレベーターのドアが開くと、古い映画に出てくるような。悪哭栄饗のカジノが存在していた。
「さぁ、こっちの世界を垣間見させてやる」
「刹那に後悔し、雲耀の速さで嵌るんさぁー。ニッシッシ」
顔に笑みを貼り付けた2人に、フランカは後に述懐する。私の人生は、あの数日で年単位で減少した、と。
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