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限りの宰 かぎりのつかさ  作者: kishegh
第1章~紫の目~
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四つの平にて

せめて週1で更新が出来るよう頑張りたいと思います。


私は考えていた。


ある田舎の、いや地方大学の一教授として。


生徒のレポートを読み、何処かからコピーしただけのレポートを軒並みペンで切り捨てていった。


ため息をつきながら、何とか補習とレポートの再提出で済むように註釈を書き込んでいく。


ため息をつきたくなる位だ、何時から研究と学習の場は、職業訓練とモラトリアムのみを追求する場所へと変わり果てたのか。


電話が鳴った。


「はい、窪塚です・・・・・ああ、君か。分かった今から出よう」


教務室へ外出を伝えて、車へと乗り込む。


今から、私の思考は変わる。教授と言う、ひよこのお守り役の立場ではない。


私は考えていた。


京を中心とする、宿寮。神秘と畏れに立ち向かう者達の一角として。



田舎の町には、時折魔法のように潰れない喫茶店と言うものが存在する。客は常にいない、主人は常にそこに居る、しかし、どうやって日々の糧を得ているか皆目見当も付かない、そんな店がある。


喫茶「ベニー」もそんな店だ。窪塚はそのベニーのドアを開けた。


「用事は終わったのかね?」


「ああ、助かりましたよ。滞りなくとは…言い難いですがね」


「晃一郎君の事だ。問題にはならないだろう」


「場所の片付けも済みました。すいませんね、立場を悪くしたかもしれません」


「そんな事はないさ、少なくとも私達の中では十分に益のある話だ。君達との事はね」


「感謝します」


「美月は…無茶をしていないかね」


辺りには静けさだけが流れる。前の道を通る車の音すら聞こえない。


店の主人が、テーブルに2杯のコーヒーを置いていっても、2人の会話は再開しない。お互いに、コーヒーを1口2口と飲み、漸く晃一郎は口を開いた。


「無茶はしていますね」


「だろうね」


「帝釈天…いや、源真たるインドラか」


「おかげで、こんな似合いもしないサングラスを掛ける羽目になっていますよ」


晃一郎は、サングラスをずらして眼を見せる。普段カラーコンタクトで色を隠しているその右目は黒く、暗く、血の様に濁っていた。


「世界を狂わす雷を喰らったか。信じがたい、信じたくない話だ」


「少なくとも半年、私は動けません。美月も同様でしょう。今回はそのあたりの調整をお願いしたいんですが、可能ですか?」


窪塚は背広の内ポケットからシガーケースを出し、葉巻を取り出した。軽く、目線で許可を取るとフラットカッターで吸い口を取って吸い出した。


「半年…少し難しいかも知れない」


晃一郎も、ポケットから葉巻を取る。こちらは既にカットもされた安葉巻だ。


「キングエドワードか」


「安くても良い物と言うのはありますよ」


「同意だね」


「なるべく急ぎましょう。その為に、少し便宜を払って貰いたい事があります」


「何かね?」


「3ヶ月で済ませます。そこで、ベトナムと話をつけてください。不可侵で放って置く。お互いに」


窪塚はテーブルを指で叩く。店主がコーヒーを注ぎ直し、テーブルへ置く。


「幾ら掛かるやら」


「手数をかけます」


ため息交じりに応えた窪塚に、晃一郎は深々と頭を下げた。



店を出た窪塚が、走り去るのを確認する。再び葉巻に火を点すと、小さな車に乗り込んでいく。デュエット、狭苦しい1000ccの車には、ひざを抱えた美月が乗っていた。


「まだ拗ねてるのか」


「晃ちゃん、怒るんだもん」


「当然だ。あんだけの事をしておいて、怒られもしないと思ったか」


「褒めてもらえると思ったのに」


頬をプクッと膨らませる。少なくとも20代半ばの者がやる事ではない。しかし、その姿は違和感無く、晃一郎にそれ以上何かを言うのを躊躇わせた。


「そうだな、お前も頑張った……等と言うと思ったか」


しかし、やった事に対しては対応せねばなるまいと、今後の事も考えてきっちりお仕置きをしておいた。内容はこめかみに拳をあててグリグリである。


「いっ、痛いよ晃ちゃん」


「痛くしとるからな」


「すごく痛いよ、晃ちゃん」


「怒っとるからな」


「もー」


「それは俺の言葉だ」


拳に入れていた力を抜くと、そのまま頭を抱き、胸に包み込んだ。


「お前が死んでも、俺が死んでも、そこで全部終わりだ。俺達は互いのために、自分の命を賭けてはいけない。お前の焦る気持ちも分かる、俺だって同じだ。でもな、それだけはしちゃいけないんだ」


「うん」


本当の幼女の様に、バツの悪そうに美月は頷いた。


しかし、不機嫌な様子は長く持たない。


耳が、恥ずかしさと照れで真っ赤になっていた。どうやら、めったに言ってくれない、「お前を大事にしているよ」発言が嬉しかった様だ。エヘヘッと笑って顔をあげると。


「何を喜んどる、バカモノ!」


再び、こめかみをグリグリとやられた。


「痛いよ」


「反省しろ」


「は~い」


「のばすな。言い切れバカモノ!」


晃一郎も照れた様で、サングラスを深く掛け直すとキーを回し、車を出した。


「エヘヘッ」


「ったく。帰りに何食うんだ。決めておけ」


「うん!」


結局の所、晃一郎の方がばつが悪くなったようで、東京に帰るべく高速のI.Cへと向った。




読んでいただきありがとうございます。

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