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限りの宰 かぎりのつかさ  作者: kishegh
第1章~紫の目~
3/9

優しいとまり木

ほのぼの話、良いですなぁ、ほのぼのは。

書いてて和みます。



お下げの様に髪をたらした少年の乗るロボットが、バッサバッサと他のロボットを切り倒していく。大鎌を構えた黒いシルエットは、子供向けと言うには禍々しくはないかとは思うが、同時にそれが格好良さにも繋がるのだろう。


何はともあれ、撮り溜めておいたアニメを見ている女性はご満悦である。


「関さん、そこだー、いよーっし、そうだ、そこだ!」


食後にデザート代わりにナタデココゼリーを食べている女性は、いまだにラフな格好のままで、テレビに噛り付いている。どうやら海外に行っていた間、よほどアニメに飢えていたらしい。再放送されているアニメをHDDに予約録画していた物を、鋭意消化中である。ちなみに腹中でも先ほど食べた大量の食料を鋭意消化中である。


よく太らないものだ、羨ましい。


「ねぇー」


「あん?」


「結局さっきのお客さんなんだったのぉー?」


「ああ、あれはオイゲン爺さんの孫とそのお目付け役だ」


どうやら心労の極みに達したらしい、フランかは既に引き上げていた。完全なお嬢ちゃんとはああ言った物なのだろうか?しかし、贔屓目に見ても精神的に打たれ弱すぎる。


「オイゲン爺さんの所も、あれじゃあ廃業かな?」


「ふーん、あの子が跡継ぎ?」


「ああ、フェルディナントがバックレタらしいよ。おかげであの子にお鉢が回ってきたらしいな。爺さんも心労で胃を痛めてるんじゃないか」


「ふ~~ん。まぁ、どうでも良いや」


「確かにな」


あっさり興味をなくした様で、再びテレビ視聴に全力を傾ける様子だ。およそ3回分、CMカットしていてもあと1時間はそのまま見続けることだろう。


「ソースの作り置きでも作っておくか」


本来であれば先ほどやっておくはずだった作業を再開するらしい、早速たまねぎの皮を剥き始めた。合計で10個ほど剥き終わると、それをざく切りにしてフードプロセッサーにかける。ドロドロになったたまねぎを、バターと共にフライパンで炒め始める。これまた晃一郎の要望で、一般家庭にはあまりない中華用の強力なガスコンロが実装されている。あっと言う間に色が透き通り、さらにはあめ色へと変わっていく。


「作りすぎかなぁー?まぁ、良いか」


どうせ保存して置くのだから良いだろう。そう思った様で、作業を続ける。色の変わったたまねぎに、少しだけ塩コショウをしてローリエを入れる、そして固形のブイヨンを入れてもうしばらく火を通す。


横には大きめの鍋が置いてある、しかしそのコンロにはまだ火は入っていない。大き目のボールで、牛乳と小麦粉を混ぜては鍋に漉して入れる。何度か繰り返して、鍋には3リットルの牛乳と小麦粉の混合液が鎮座した。


その中に先ほどのたまねぎと、クリームチーズさらには生クリームも加え塩コショウなどで味を調えて行く、ほんの少し昆布出汁も入れる。ああ、たまねぎを加える前に、中に入っていたローリエは取っておいた方が良い。ともあれ、後は火にかけながら混ぜ合わせるだけである、このときは弱火から始めてゆっくりと火が通るようにすれば、だまにならないホワイトソースの完成というわけだ。本来の作り方ではないが、大量に作るのには向いている。


「出来た。ついでに俺の晩飯にしよう」


耐熱皿に、洗ったほうれん草と薄くスライスしたジャガイモを並べ、塩コショウを振ってからホワイトソースをかける。大量の粉チーズを振りかけてオーブンで焼けばあっと言う間に1品出来る。


「うん、普通」


適当に摘みながら、白ワインを流し込んでいると、テレビを見終わった女性が擦り寄ってきた。


「かまえ」


「飯位食わせてくれ」


「やだ、かまえ」


「一緒に飲むか?苺とシャンパン買ってあるぞ」


晃一郎が冷蔵庫を指すと、嬉しそうに何度も首を振ってから、グラスを二個とシャンパンを持ってくる。苺を軽く洗うと、皿に盛ってテーブルの上に置いた。


「買い物行ったでしょ。買い込みすぎだよ、冷蔵庫がいっぱいだよ」


「あー、でもまぁ、その分作るから良いよ」


「そうだねー。晃ちゃん料理好きだもんね」


「他に趣味らしい趣味もないからな」


「あたしが趣味で良いじゃん」


「……」


「何で黙るのぉ~~」


この後2時間ほどは、2人とも食卓で酒を楽しんでいたようである。



すずめが鳴いている。


いわゆる文学的表現の、朝が来たという時に多用される物である。通称は朝チュン。


ともあれ朝チュンが起こった以上は、夜が明けて朝が来たわけであるが、同時にこれは早朝も表している。つまり現在は翌日の早朝である。厳密に言うなら朝7時半……早朝?


晃一郎は朝食を作っている。むやみに台所に立つ主人公だが、それが趣味だから仕方がない。現状は粥を作っている、昨夜の酒がまだ残っているのか、あまり食欲がないので粥で朝を済ますようだ。


「うむ、上出来」


「上出来では有りませんわ!客を待たせて何をやっているんですの」


「飯を作っとる」


昨日のショックから立ち直ったようで、朝も早いうちからフランカ嬢が突撃してきた。無論、マリアも同席している。前日日本酒を5合は飲んだはずだが、一切変化がないところを見ると酒には強いのだろう。


「大体昨日の女性は何だったんですの。話の腰をどんどん折っていって」


「ん?オイゲン爺さんから聞いてないのか?あれが俺の相方だ」


「それではあの方が太極の目の、女性だったんですのね」


どうやら、聞いていた内容や相方という言葉から、勝手に男性だとでも思っていたらしい。


「ああ、陽の目持ちだ。人探しならあいつに頼みな、もっとも、まず引き受けないだろうが」


「それは…恋路をどうのこうのって奴ですの?」


晃一郎は、しっかりと頷くと話を進めた。


「それにあいつ、駆け落ちとか大好物だし、むしろ手助けするんじゃないか?」


その時タイミングよく、奥の部屋から出てくる姿があった。


「晃ちゃんおはよー。ああ、また来てるんだ、おはよう」


「お前、まだちゃんと挨拶していないだろ。ついでに、今挨拶しておけば良いんじゃないか?」


「そうだね。どうも、菅原美月です。よろしくね」


「マリア・ハイルマンです。以後お見知りおきを」


即座に反応し、礼を返したマリアに対してフランカは半瞬対応が遅れた・


「フランカ・ハイゼンベルクです。奥様ですの?」


「そうだよー。晃ちゃんのお嫁さんだよ」


「結婚されてたんですのね。意外でしたわ」


そのフランカの言葉が、なにやら琴線に触れたらしい。どうも、機嫌が悪くなったようだ。


「もー。晃ちゃんがちゃんとラブラブしないから意外に思われるんだよ」


「いや、それとこれとは別問題だろ」


恐らく、フランカが言った意外というのは、美月の見た目の年齢や、晃一郎の風体から結婚していそうには思えなかったからだろう。


美月は、黒髪黒目の純日本人顔だが、特に童顔でパッと見は高校生みたいな容姿だ。反して晃一郎は、顔が整っていない訳ではないが、何処か覇気を感じさせない容姿とあいまって実年齢よりも上に見られがちだ。二人が並べば同い年と思う人間は少ないだろう。


ちなみに2人とも25歳だ。


夜中に店で酒を飲んでいたら、美月が補導員の目に留まり、晃一郎共々補導されそうになったことがある。補導の理由は飲酒だけではなく、援助交際等の様に見えたという事も無くは無い。


「んで、礼の件でフェルディナントを見付けて欲しいんだと」


「やだ」


「だよな」


「うん」


あっさりと首を振り、今回の対応はお気に召したようで、機嫌がよくなった美月は、椅子の上で胡坐をかいて体を前後に揺すっている。顔には笑みが浮かび、とても楽しそうだ。


「何でですの!」


当然の感想として、あっさり否定されたフランカは声を上げる。


「だってぇー」


「だってーではありません。お願いしますから探して下さい」


色々と心に堪える事が多かったのだろう。土下座とまでは言わないが、深々と頭を下げる姿には哀愁も感じられる。


「あたしと晃ちゃんも駆け落ちみたいなもんだったしさぁー。やっぱり、恋路の邪魔って嫌だしさぁー。それに、今は他にしなくちゃいけない事もあるしさぁー」


だんだん可哀相になって来た様で、少しずつ声は小さくなっていく。


「別に良い職業だと思うよ。ほら、その、お金になるし。特別な感じじゃん。あとは、そうだねぇー、うーん、何かあるっけ?」


とうとう、かける言葉が見つからなくなり、晃一郎に尋ね始めた。


「困っている人の助けになれるとかじゃね?」


「そうだよぉー、人助け人助け」


如何考えても、こんなその場限りの言葉で説得されるはずも無い。既に意思表示から説得へ、そして請願へと美月の行動はシフトしていた。そこに声をかけたのは晃一郎だった。


「自分で修行して捜せば良いんじゃないか?少なくとも、百眼と呼ばれはオイゲン爺さんの孫だろ。比較的早く見つけられるんじゃないか?」


「て言うか、オイゲンのじっちゃんだったら、簡単に後追える筈だよね。何でそうしてないの?」


「訳ありと言う事かな?」


「どーかなぁー?じっちゃんはよく分からない人だからね」


オイゲンも、美月には言われたくあるまい。


「一応探してやるか?場所を言うかどうかはまた別として、何か訳があるかも知れんし」


「だね」


その時のフランカの顔は、キリストの復活を目の当たりにした信者の様に光り輝き、頭上からは光が降っている様だったと、後にマリアは述懐した。


「で、美月」


「ん?」


「話はついているんだろ」


「ばっちりさぁー。完璧って奴だよ」


「それじゃあ、さっさと原因究明と行くか」


「だね」


バタバタと、荷造りを始めた二人に呆気に取られていたフランカは、そのまま玄関から蹴りだされた。


「用意できたら呼んでやるから、4,5日待ってろ。あ、マリアさんの携帯番号だけください」


渡された名刺を手帳に仕舞うと、扉は閉められて中からは荷造りの音だけが聞こえてくる。


「なんですのよ」


「まぁ、お待ちしましょう。探しては下さるようです」


「そうね」


先日とは打って変り、スキップをしそうな勢いで、軽やかに車へと戻っていく。少なくとも自分では、修行して見つける選択肢を取る気は無いらしい。



読んでくださりありがとうございます。

御意見御感想、また誤字脱字につきましてもお待ちしております。

頂戴した際には、歓喜の踊りを踊り狂いますので、どうか良しなに。


それでは、またよろしくお願いします。


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