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王様、税金を払ってください

作者: 大豆
掲載日:2026/08/25

「王様、税金を払ってください」


玉座の間に、静寂が落ちた。


数秒前まで談笑していた大臣たちも、護衛の騎士たちも、まるで時間を止められたかのように動かない。

玉座に座る国王も同じだった。


「……今、何と言った?」


「ですから、税金を払ってください」


俺は持ってきた書類を一枚めくった。


「国王陛下の未納税額は、今年で三百二十七年分になります。延滞金を含めまして、金貨四億八千万枚です」


玉座の間がざわめいた。


「よ、四億……?」


「金貨四億八千万だと?」


「そんな金、王家の財産を全部売っても……」


大臣たちが口々に騒ぎ始める。

俺は静かに待った。


俺は王都財務局に勤める、ただの下級役人だ。

そして今日、俺は三百二十七年ぶりに王へ税金を請求しに来た。


「お前」


国王が低い声を出した。


「余を誰だと思っている?」


「国王陛下です」


「ならば分かるだろう。国王に税金を課す者など、この国にはいない」


「はい。ですが、国王に税金を課さないという法律もありません」


「……」


俺は書類を差し出した。


「税法第十二条。

『王国に居住し、王国の領地から収入を得る者は、身分を問わず納税の義務を負う』

陛下は王宮にお住まいで、王領から毎年莫大な収入を得ています。納税してください」


「余に命令するのか?」


「法律に従ってお願いしています」


国王の顔が引きつった。

そのときだった。


「無礼者!」


大臣の一人が立ち上がった。


「貴様、王に向かってそのような口を利くとは何事だ!」


「では質問します」


俺は大臣を見る。


「大臣閣下は納税されていますか?」


「当然だ!」


「では、陛下も同じように納税していただけますね」


「それとこれとは話が違う!」


「何が違うのでしょう?」


「王は特別なのだ!」


「法律より上ですか?」


「当然――」


そこまで言って、大臣は口を閉じた。

俺は微笑んだ。


「ありがとうございます。今の発言、記録しておきます」


「なっ……!」


俺は書類に一行書き加えた。


「財務局への報告書に添付しますので」


「待て!」


玉座の間は大混乱になった。俺は別に喧嘩をしたいわけではない。ただ、税金を払ってほしいだけだ。


そもそも、この国には昔から妙な習慣があった。

農民も。商人も。貴族も。騎士も。聖職者も。みんな税金を払っている。

なのに、なぜか王だけは払っていない。理由を聞けば、いつも同じ答えだった。


「昔からそうだから」


俺はそれが嫌いだった。

税金とは、国を維持するために皆で負担するものだ。

道路を造る。橋を直す。魔物から街を守る。孤児院を運営する。そのために金が必要なのだ。


だから俺は、三年前からこの問題を調べ始めた。

そして一つの事実に気づいた。


王家は、納税義務を免除されてなどいなかった。

ただ、誰も請求していなかっただけだった。三百二十七年間、誰も、一度も。


「では陛下」


俺は最後の書類を差し出した。


「こちらが納税通知書です」


国王はそれを受け取らなかった。


「……四億八千万など払えるわけがない」


「存じています」


「ならばなぜ持ってきた!」


「分割払いがあります」


「……何?」


「年間五百万枚。約九十六年です」


国王が頭を抱えた。


「余は今年で七十二だぞ……」


「では王太子殿下に引き継いでいただければ」


「それはもっと困る!」


玉座の間に笑い声が漏れた。俺も少しだけ笑った。

ところが。国王はしばらく黙ったあと、意外なことを言った。


「……分かった。払おう」


大臣たちが一斉に国王を見る。


「陛下!」


「よろしいのですか!」


国王は苦笑した。


「三百二十七年間、誰も余に税を請求しなかった。それを当然だと思っていた。だが、今日初めて気づいた。余が国民に納税を命じておきながら、自分だけ払わないというのは、確かにおかしい」


俺は何も言わなかった。


「ただし、一つ条件がある」


「何でしょう?」


「過去三百二十七年分の税金を、本当に払わなければならないのか?」


「法律上は、そうなります」


「そうか。では、余の先祖たちが払わなかった分も含めて、全部払おう」


俺は驚いた。


「よろしいのですか?」


「ああ」


国王は立ち上がった。


「王が法律を守らない国で、民に法律を守れとは言えんからな」


その日、王家は三百二十七年ぶりに納税した。

正確には、王家の財産だけでは足りなかったため、王宮の不要な美術品や土地の一部まで売却することになった。


当然、国中が大騒ぎになった。

新聞は一面で報じた。

『国王、税金を払う。王家、四億八千万枚を納税。財務局の若手役人、国王から税金を徴収』

なぜか俺の名前まで有名になった。


数日後、俺は国王に呼び出された。


「頼みがある」


「何でしょう?」


国王は一枚の書類を差し出した。


「これを見てくれ」


そこには、王国の税制に関する大量の書類が並んでいた。


「……これは?」


「調べてみた」


国王は真顔だった。


「税金を払っていないのは、どうやら余だけではないらしい」


俺は書類をめくった。そこには、大貴族たちの名前が並んでいる。

特権。免税。古い勅令。例外規定。その数、数百。


「……陛下、これは」


俺は額を押さえた。


「かなり面倒ですね」


国王もため息をつく。


「そうだな」


そして二人で顔を見合わせた。


「やるか」


「やりましょう」


その翌月、王国財務局に、新しい部署が設立された。


名称は――


「特権整理課」


仕事は簡単。税金を払っていない者を探し出し、払ってもらう。

その最初の調査対象は、大貴族の中でも特に権力を持つ公爵家だった。

俺は書類の束を抱えて、公爵邸の門を叩いた。


「財務局です」


門番が怪訝な顔をする。


「何の用だ?」


俺は納税通知書を取り出し、そして、いつもの言葉を口にする。


「税金を払ってください」


門番の顔が青ざめた。


この国で、長い長い間誰も言わなかった言葉。

それを、俺はこれから何度でも言うことになる。

王様にも。公爵にも。大商人にも。誰に対しても。


「法律は、身分を選びませんから」


俺はそう言って、次の屋敷へ向かった。

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