堕天使
天使とはその名の通り、天からの使いだ。
人々を護り、助け、そして時に正しい未来のため破滅へと導く。
天使は既に完成している未来を描くために、神から使命を与えられる。
そしてその与えられた使命以外のことをした天使は──
「罰として地獄へと送られる」
「おっ、もしかしてナルナルも聞いた?」
「うん」
「第一天使のハヅキが地獄行きって話!」
「いやぁ、まさかあのちょーぜつエリートの第一天使様が地獄とはヨモスエだね」
「世も末って…その世界を創るのが私たちの仕事でしょ」
「そりゃーそうなんだけどさぁ……」
天使には序列が存在する。
第一天使から第十天使、そしてその下に上位天使、中位天使、下位天使と続く。
第十天使以上は各1人ずつ。
そして今回はその中でもトップ、第一天使が地獄送りとなったのだ。
ただでさえ滅多にない地獄送り、その上第一天使だ。
どこもかしこもこの話で持ちきりである。
「おい聞いたかあの話」
「もちろんさ。あれだろ、第七サマの…」
「ちげえよ馬鹿!第一の話だよ!!」
「ああ、アレ…」
「アレってお前なぁ……」
そしてそれは勿論、本人も同じく。
見渡す限りが白で構成されている天界。
そこに1人、罪人の証である黒を纏った天使がいた。
そこへ1人の天使が話しかける。
「ねえハヅキ、あの話、本当なの」
「ん…あ、リズ……。うん、本当だよ」
「──っ」
第二天使、リズはハヅキ本人からの告白に返す言葉もなく吃る。
この2人は序列の存在する社会の中でありながらも対等な友達だった。
どうしても信じたくなかった。
嘘だと思いたかった。
どんよりとした空気感の中、重い口を開いたのはハヅキだった。
「私はただその光景がどうしても見過ごせなかった。ただそれだけだよ」
(第一天使にまでなっておいて天今更どうしても見過ごせないって…。これまで散々辛い任務だってやってきてるのに、?)
(こんなことを言うのは憚られるけど…どうかしている)
「…っハヅキの馬鹿!!!!」
だからこそ、ハヅキの頬を思いっきり叩くと痛々しい乾いた音がする。
「いっ…!!り、ズ……?」
「だからって!だからってなんで地獄送りになるようなことしたのよ!!」
「そんなこと言われたって私はただ見過ごせなかっただけで!」
「知らないわよそんなの!!」
リズがハヅキの胸ぐらを掴んで悲痛に叫ぶ。
そしてそのままズルズルと座り込んで今にも泣きそうな声で言った。
「ただでさえこんなクソみたいな縦社会なのに、なのに、なのに…!!」
「リズ…」
どちらも本心で、どちらも心からの叫びだった。
誰もが自分に対して敬意を払って、そして畏怖を込めた視線で見上げてくる。
─それはどれほど幸せで、どれほど辛いだろうか。
「……ハヅキ、貴方がいなくなったら序列の繰り上げが行われるわ。そうしたら私は晴れて序列第一天使よ」
「あ、そっか、良かったじゃん。ずっと憧れてるって言ってたし」
「でも私は、貴方と、このクソみたいな社会で唯一対等に話せた友達の、ハヅキと一緒にいられるほうが何倍も良かった。」
またしても沈黙が襲う。
幾分か雰囲気は和らいだもののやはり気まずさは拭えない。
今回先に口を開いたのはリズのほうだった。
「ごめんなさい、言いすぎた。……きっとハヅキがやるべきだと思ったからしたんでしょう?私はハヅキが堕天になった経緯を知らないけれど、ハヅキが本気ですることなら私はずっと応援しているから」
(ああ、やっぱりリズは最高の友達だ。ありがとね、こんなヤツでもまだ信じてくれるって)
「そうだ、ねえリズ。1つだけ、叶わないならそれで良いんだけどさ、お願いしてもいいかな。」
「何?」
「地獄ってさ、人間として悔いを改める更生システムがあるんだって。だからさ、」
「もし私が人として死んだ時はさ、リズが迎えに来てよ!」
「えっ…?」
「あー、そろそろ時間だ。行かないと。あんまり話してると余計に名残惜しくなっちゃうな」
ハヅキはあははと笑って振り向かないまま歩みを進める。
『またね、リズ。』
そしてハヅキはまるで系が解けるように消えていった。
「ハヅキ…?」
別れの一言すらままならないまま、友達と今生の別れになるかもしれないというのに随分とあっさり終わりが来てしまった。
そして最後の一片すらも見えなくなった瞬間、少しだけ心が軽くなったような気がした。
天使という真善美掲げただけの腐った世界で唯一分かち合えた友達とはきっともう会えない。
結局口約束など何の意味も為さない。
「……頑張らないと、ハヅキよりも、誰よりも」
(そうじゃなければ、せっかくハヅキが残してくれた第一天使の座を他の人に奪われるかもしれない)
そしてまた、何事もなかったかのように今日が始まる。
初めまして、ななみんです!
よろしければ次回以降もよろしくお願いします!!




