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『カオスノイズ:東京拠点化計画~拠点を東京に移し、自分を殺せる勇者の育成に励むことにしました~』  作者: 猫寿司
第6章 満月は照らす獣を選んでる

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第十話:石畳の終焉、潰えし理想と論争

バマーの街は、夜を拒絶するように赤く燃えていた。

 崩れ落ちた広場の中央。皮肉にもかつての「処刑台」が、今は人間と亜人種が互いの思想をぶつけ合う「演壇」と化していた。


 片や、血に汚れた剣を杖代わりに立ち、憎悪の炎を瞳に宿した人間解放連盟のリーダー、二代目ゼット。

 片や、燃え盛る火の粉を浴びながらも、知的な眼鏡を指で押し上げ、冷徹に「グロリア法」の法典を抱える鹿族の裁判官。


 二人の周囲では、武器を手にした群衆が、息を呑んでその言葉の応酬を見守っていた。


歪んだ「保護」の歴史


裁判官「……ゼットと言ったか。貴公らの行っていることは、単なる破壊だ。このグロリア法が、かつてどれほどの混沌から貴公ら人間を『救った』か、その無知な頭で考えたことはないのか?」


ゼット「救っただと……? 『無知蒙昧なお前らは、放っておけばすぐに争い始め、互いに殺し合う愚かな種族だ』。そう決めつけ、俺たちの家族を『繁殖用の種』や『交換可能な部品』として台帳に並べ、魂に勝手に値札をつけたのはお前たちだろうが!」


 ゼットの声が、怒りで激しく震える。


ゼット「俺の息子は、道を歩いていてお前たちにぶつかった、ただそれだけの理由で見せしめに腕を切り落とされた! そして誰にも助けられず、石畳の上で血を流しながら、そのまま野垂れ死んだんだ!! 労働効率が落ちればゴミのように廃棄し、逆らえば『管理コストの削減』と称して首を撥ねる……その血塗られた歴史のどこに慈悲があるんだ!」


裁判官「歴史を紐解け。数百年前、人間族は自らの無知と内乱によって絶滅の危機に瀕していた。それを『動産』として管理し、最低限の生存権と労働の機会を与えたのは、我ら亜人種の慈悲だ。グロリア法は、貴公らを効率的に『維持』するための最適解なのだよ」


 裁判官の声は、震えることもなく淡々としていた。


裁判官「右側を歩くという掟もそうだ。中央を歩く強大な亜人と衝突すれば、脆弱な人間は死ぬ。あの路地端の溝は、貴公らが踏み潰されないために用意された『安全圏』だったのだ。我々は、管理することで貴公らの種を守ってきたのだよ」


数字にされた尊厳


ゼット「……安全圏だと? 笑わせるな。その安全圏で、俺の息子は『修繕コストに見合わない不良品』として清算された! 俺の妻は、『所有権の行使』という名目で、お前たちの娯楽に供された! お前たちの言う『管理』とは、俺たちが『人間』であることを忘れさせるための、緩やかな虐殺だろうが!」


 ゼットが地面を強く踏みつける。石畳の隙間から、彼らの流した血が滲み出していた。


ゼット「権利? 権利とは強者が定義するものだ。自然界を見よ。捕食者が被食者を管理するのは摂理に過ぎない。我々がいなければ、貴公らはただの『餌』に戻るだけだ」


暴力の濁流


 二人の議論が臨界点に達しようとしたその時、広場の四方から地鳴りのような怒号が上がった。

 それは言葉を排した、純粋な破壊の意志だった。


「法なんて知るか! 殺せ、奪い返せ!」

「人間どもを一人残らず排除しろ!」


 どちらの陣営から放たれたものかさえ定かではない暴力の波が、演壇へと押し寄せた。

 議論を続けていた裁判官と二代目ゼット。システムの体現者と、反逆の象徴。その二人は、突如として飛来した数条の槍によって、同時に貫かれた。


「が……はっ……」

「……そんな……馬鹿な……」


 二代目ゼットの胸を貫いたのは、亜人兵士の槍だった。

 そして裁判官の喉を貫いたのは、かつて彼が「保護」していたはずの人間の男が投じた、錆びた農具の槍だった。


 石畳の上に、二人の鮮血が混ざり合いながら広がっていく。

 法も、大義も、積年の憎しみさえも、ただの肉体の破壊という無機質な結末の前に等しく沈黙した。


 二人が息絶えた瞬間、広場は完全な無秩序カオスへと反転した。もはやリーダーも、裁く者もいない。あるのは、ただ目の前の異種族を殺すという本能だけだ。


勇者の無力


 離れた影で、ヴァレリアはその凄惨な光景を、震える瞳で見つめていた。


ヴァレリア「……死んじゃった。二人とも、あんなにあっけなく……」


 ウサギの少女を抱きしめる彼女の腕に、力がこもる。

 必死に言葉を尽くしても、結局、世界を動かしたのは最も野蛮な暴力だった。


ユウサク「……結局、どっちの時代になっても、一番最初に割を食うのは、この子たちみたいな奴らなんですよ」


 ユウサクが漏らした呟きは、激しさを増す火柱の音にかき消された。

 リーダーを失い、制御不能となったバマーの街。

 一行は、血の雨が降り注ぐ石畳の上で、次なる絶望と向き合わざるを得なかった。


(第十話 終了)

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