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『カオスノイズ:東京拠点化計画~拠点を東京に移し、自分を殺せる勇者の育成に励むことにしました~』  作者: 猫寿司
第6章 満月は照らす獣を選んでる

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第六話:泥にまみれた代償と三年の懲役

魔法都市ひどうん 治安維持局 捜査報告書


事件名: 酒場『魔導の揺り籠』における大規模公序良俗破壊および集団わいせつ事件

発生日時: 聖暦××××年 某月某日 深夜

被告: ヴァレリア、ネネ、ユウサク(他、身元不明の全裸泥酔者多数)


■ 被告人別の罪状および罰則規定


1. 被告:ヴァレリア(自称・勇者)


傷害罪および暴行罪: 酒場内の客および店主に対し、ムエ・サイアム式の格闘技を用いて重軽傷を負わせた疑い。特に客一名の鼻骨を粉砕した行為は悪質とみなす。


公務執行妨害: 現場に駆けつけた当局の衛兵に対し、全裸であることを厭わず背負い投げ等の暴行を加え、鎮圧を著しく妨げた疑い。


不法投棄罪(対人): 複数の人間をカウンター内および酒樽へ向かって物理的に投棄した行為。


2. 被告:ネネ(魔導士)


広域公然わいせつ教唆および実行: オリジナル魔術『全服剥離オール・ディスローブ』を展開し、公共の場において無差別に多数の男女を全裸にした疑い。


魔術不適切使用罪: 市街地、特に酒場内での高位魔術の使用を禁じる「ひどうん魔導管理法」への抵触。



3. 被告:ユウサク(自称・師匠)


公然わいせつ罪: 自ら全裸の状態で公共の場を徘徊した疑い。


性的嫌がらせおよび追跡つきまとい行為: 逃げ惑う女性スタッフに対し、「おっぱいが揺れている」等の卑猥な言動を浴びせつつ、執拗に追跡した疑い。


治安乱麻罪: 現場の混乱を煽り、最低限の倫理観を放棄して騒乱を助長した疑い。


■ 捜査官による状況所見


現場は文字通りの「阿鼻叫喚」であり、魔法都市ひどうんの数千年の歴史において、これほどまでに知性と品性を欠いた騒乱は前例がない。

特に被告ユウサクの言動は「史上最低のラッキースケベ」と揶揄されるべき破廉恥なものであり、教育的見地からも厳罰を推奨する。


なお、被告ヴァレリアが叫んだ「私に勝ったら寝てやる」という発言は、現地の男性市民の闘争本能を異常に刺激し、結果として収拾不可能な乱闘を招いた主因であると断定する。


■ 処分案


罰金刑: 酒場の修繕費および被害者への慰謝料として、金貨5,000枚(現在、被告らは無一文のため強制労働を検討)。


強制奉仕活動: 全裸にされた衛兵の衣服の洗濯、ならびにひどうん全域の排水溝掃除を命じる。

陽光の下の地獄


 燦々と降り注ぐ太陽の光が、これほどまでに恨めしいと思ったことはなかった。


 翌日。魔法都市ひどうんの美しい石畳の下、網の目のように張り巡らされた地下排水路の中で、三人の姿があった。

 そこにあるのは神話の神秘でも魔導の輝きでもない。数千年の歴史が蓄積させた、鼻を突くヘドロと正体不明の汚物の山だ。


ユウサク「……ふぅ。労働って、意外と……うっ、うっぷ……! 気持ち、いい……ね……げほっ」


 ユウサクは、ドロドロのヘドロがこびりついた腕で、額に流れる汗を拭った。その拍子に顔面へ黒い泥が塗りたくられたが、もはや気にする気力も残っていない。


ユウサク「うっぷ……! 鼻が、鼻がもげる。さすがは……うぷっ、三億年の蓄積だ……」


ヴァレリア「う、ううっ……うわあああああん!! うっぷ……おえぇっ……!」


 その隣で、泥まみれのヴァレリアが突然泣き出し、そして激しくえずいた。彼女がさっきまで必死に磨いていた床へ向かって、胃の中のものを全てぶちまける。


ヴァレリア「……あ、だめ。う、うぷっ、おろろろろろろろッ!! 掃除する……うぷっ、いみないじゃんかよぉ……!!」


ネネ「……うっぷ。その音と……匂い、だめ……。もらいげろ……おえぇっ!!」


 ネネまでもが、ヴァレリアの背中に向かって連鎖するように胃液を吐き出した。ユウサクも耐えきれず、地下水道には三人の嗚咽と「おえぇ」という地獄の三重奏が響き渡る。


ネネ「……ふふ、ふふふふふ。気持ちいいね……労働。ごしごし。ごしごし。うっぷ……」


 ネネは、もはや完全に壊れていた。虚空を見つめ、自分の吐いたものの横を一心不乱に床を磨き続けている。


ネネ「汚れを……全部、消算デリート……うぷっ……するの。みんな綺麗になれば……うっぷ……清算なんてしなくていいのよ……。おえぇっ……!」


衝撃の再会


 その時だった。頭上のマンホールから差し込む光を遮るように、一人の男が覗き込んできた。


「……おいたわしい。師匠のそんなお姿、見たくはなかったですぞ……!」


 重厚で、どこか聞き覚えのある声。三人が「うっぷ」とえずきながら顔を上げると、そこには昨夜の騒乱に呼び出され、一行を睡眠魔法で眠らせた、あの「偉そうな髭のおじさん」が立っていた。昨夜はネネの魔法で無惨な全裸を晒していたが、今は最高級の魔導衣を纏い、威厳に満ちた姿に戻っている。


ユウサク「……え?」

ヴァレリア「……おじいさん、だれ?」


 髭のおじさんは、汚れきり、虚空を見つめて「ごしごし」と床を磨きながらえずいているネネを見つめ、ハンカチで目元を拭いながら、深々と頭を下げた。


おじさん「昨夜はあまりの乱心ぶりに、やむなく魔法をかけましたが……。まさか、かつて私に魔導の深淵を説き、この魔法都市の礎を築く知恵を授けてくださったネネ師匠が、このような肥溜めでヘドロと格闘していようとは……!」


 ヴァレリアとユウサクが、同時に目を見開き、泥だらけの指でネネを指差した。


ヴァレリア・ユウサク「「……し、師匠ぉぉぉおお!?」」


ヴァレリア「おじさん、今……この、もらいゲロしてるネネのことが、あんたの師匠だって言ったのか!?」


おじさん「左様! ネネ様こそが、我が人生の導き手。……ああ、師匠! 喋らなくて結構です! 今すぐその汚い場所からお出ししたいのは山々なのですが……」


 おじさんは周囲を憚るように声を潜め、苦渋に満ちた表情で続けた。


おじさん「一週間だけ、一週間だけしんぼうしてくだされ。昨夜の騒ぎ、特に全裸にされた件で未だ熱り立っている兵士長に、ころあいを見てわしから頭を下げ、話を通しますゆえ……!」


ネネ「……ごしごし。うっぷ……。おじいちゃん……だれ……? ごしごし。うぷっ、おえぇぇ……!」


 自分が誰の師匠だったかも忘れて掃除と嘔吐を繰り返すネネ。

 三年の懲役は、ネネの「教え子」であるこの街の権力者の登場によって、予想だにしない方向へと転がり始めた。

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