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『カオスノイズ:東京拠点化計画~拠点を東京に移し、自分を殺せる勇者の育成に励むことにしました~』  作者: 猫寿司
第6章 満月は照らす獣を選んでる

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第五話:魔法の発祥地、酔いどれの咆哮

そこは、石造りの街並みが魔法の灯火に照らされた、幻想的な場所だった。

 神話の時代から続く魔導の源流。人間たちが知恵と誇りを持って築き上げた聖域――城下町「ひどうん」。


 しかし、その美しい街の一角にある酒場では、およそ神話とは程遠い、野卑で荒々しい怒号が飛び交っていた。


「ふざけるなッ!! あんな国、今すぐ滅んじまえばいいんだ!」


 ジョッキをテーブルに叩きつけ、ヴァレリアが叫んだ。彼女の顔はひどく赤く、その瞳は怒りとアルコールで濡れている。


ネネ「そうよ、クソ野郎ばっかり! 人間様を家畜みたいに扱って……思い出しただけで虫唾が走るわ! 酒! もっと強いの持ってきなさいよ!」


 ネネもまた、普段の冷徹さはどこへやら、椅子にふんぞり返って管を巻いていた。

 二人の叫びは、もはや理性を失った「叫び」そのものだった。


泥酔の浄化


 ユウサクは、二人の狂乱をぼんやりと眺めながら、自分もまた深い杯を煽っていた。

 やっと、人間の街に辿り着いた。

 右側を歩くことを強要されず、言葉を解さぬ家畜として蔑まれることもない。ただ「人間」としてそこに存在していい場所。その安堵感が、抑え込んでいた怒りを一気に爆発させていた。


ヴァレリア「ユウサク! お前も何か言え! あいつら、私たちをギロチンにかけようとしたんだぞ! 街を救ったのに……救世主を、殺そうとしたんだぞ!」


ユウサク「……えぇ、そうですね。最高にクソったれな思い出ですよ。……乾杯しましょう、そんなクソみたいな世界に」


 ユウサクが投げやりにジョッキを突き出すと、三人の杯がガチリと鈍い音を立ててぶつかった。

 酒に呑まれ、不条理を呪い、叫ぶ。

 そうでもしなければ、あの「右側の掟」があった街での記憶に、心が焼き切られてしまいそうだった。


爆発するカオス


ユウサク「……でもネネさん、あんたも大概ですよ。ワイバーンは呼ぶし、不死の軍勢で襲うし……あれ、客観的に見たらただの大量虐殺じゃないっすか。あはははは!」


ネネ「うるさいわね! あれは正当防衛よ!」


 ネネは酔った手つきで、どこから取り出したのか、身の丈に合わない「微シャント杖」を振り回し、ユウサクの頭をポカポカと殴り始めた。


ヴァレリア「おりゃあああーーッ!!」


 その横で、ヴァレリアの「酒乱」がついに臨界点を超えた。

 彼女はムエ・サイアムで培った技術を、あろうことか味方に向けた。ユウサクの首を強引に抱え込む「首相撲」の形から、容赦のない膝蹴り(テンカオ)をお見舞いする。


ユウサク「ぶはっ!? ヴァ、ヴァレリアさん、それマジのやつ……!」


ヴァレリア「このクソ男ども! 私に勝ったら、寝てやるぞ! がはっはっはははあは!」


 その瞬間、酒場の空気が爆発した。

 どれほど酒に溺れていようとも、ヴァレリアの美貌はこの場においてひときわ輝いていた。その絶世の美女が放った最悪の誘い文句に、店内にいた男性客たちが野獣のような咆哮を上げて一斉に色めき立った。


「おおおおおっ!! マジかよ!!」

「俺が勝ってやる! どけ野郎ども!」

「死なすな! その女を捕まえろ!!」


 我を忘れた男たちが、津波のようになだれ込み、ヴァレリアに襲いかかる。だが、彼女は一切怯まない。むしろ好都合だと言わんばかりに、不敵な笑みを浮かべて迎え撃った。


ヴァレリア「こいよ! まとめて面倒見てやるわ!」


 飛び込んできた最初の一人の顎を、鋭いアッパーが粉砕する。続けて二人の襟元を掴み、そのままカウンターの向こう側へ豪快に投げ飛ばした。


 ユウサクは「ひぇーーっ!!」と情けない悲鳴を上げながら、荒れ狂う男たちとヴァレリアの間を必死に逃げ惑った。


 ユウサクが絶叫する中、ヴァレリアの拳闘士としての本能が荒れ狂う。突進してくる大男の鼻柱に強烈なストレートを叩き込み、鮮血を散らして鼻骨を粉砕した。投げ飛ばされる客、殴られて鼻を折る客、踏みつけられる客……。酒場は瞬く間に、血と怒号が飛び交う阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。


「ぎゃああ! 何だこの女、強すぎる!」

「乱闘だ! 乱闘が始まったぞ!」


 酒場内が手の付けられないパニックに陥る中、ネネがフラフラと立ち上がり、不敵な笑みを浮かべて杖を掲げた。


ネネ「……ふふ、うふふ。もっと賑やかにしてあげるわ……。『全服剥離オール・ディスローブ』!!」


 一瞬、酒場が眩い光に包まれた。

 光が収まった後、そこにいた全員が――店主も、客も、衛兵も――例外なく「真っ裸」になっていた。


ネネ「あはははは! ラッキースケベね! 全員まっぱだかよ!」


 ネネが腹を抱えて笑い転げる中、裸になったユウサクは、恥じらいを捨てたのか、あるいは酒の勢いか、そのままの姿で、同じく全裸になってカウンターの下にガタガタと震えながら隠れていた受付のお姉さんを見つけ出した。「ねえ、お姉さーん」と、ユウサクはニヤニヤしながら彼女へと絡み始めた。


「キャーーーッ!!」


 悲鳴を上げて逃げ惑うお姉さんを、ユウサクは全裸のまましつこく追いかける。


「おっぱいが左右に揺れてるよー! うふふふふっ!」


夢現のカオス


 揺れる景色が、次第にぐるぐると回り出す。

 ユウサクの視界は、酒と魔法と乱闘の熱気に侵食され、色彩が混濁していった。

 その混乱の中に、騒ぎを聞きつけた街の兵士たちがどたどたとあらわれた。


「なんだこの騒ぎは! 貴様ら、公序良俗を……っ、うわああ!? なんだ俺の服は!」


 ネネの魔法の効果範囲に足を踏み入れた兵士たちまでもが、次々と全裸にされていく。しかし、ヴァレリアはそんな彼らの事情などお構いなしだ。


「おりゃあ! 邪魔だーーっ!」


 飛びかかってきた裸の兵士たちを、ヴァレリアさんは軽々と投げ飛ばした。投げられた兵士たちは空中で手足をバタつかせ、そのまま酒樽へと突っ込んでいく。さらなる阿鼻叫喚に、酒場は「うはははあ!」という一行の狂った笑い声に支配された。


 ふと見れば、酒場の入り口に、偉そうな髭のおじさんが立っていた。  立派な法衣を纏っていたはずの彼は、たいそうな身ぶり手ぶりで何かを叫び、魔法でこの暴動を鎮めようとしていたようだが……その姿もまた、一瞬にして見事な全裸へと変貌していた。


「……あ、れ? 髭のおじさんも真っ裸だー!」


 ユウサクの意識が遠のいていく。

 回る天井、消えゆく罵声。

 魔法の発祥地、しんわの城下町「ひどうん」。

 歴史と神秘に彩られたはずのその街の夜は、一行が撒き散らす史上最低の「ラッキースケベ」と泥酔した罵声と共に、深い闇の中へと溶けていった。


 ……zzzzzz。


 いつしか。

 三人の意識は、ひどうんの騒乱を置き去りにして、深い眠りの中へと落ちていった。

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