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『カオスノイズ:東京拠点化計画~拠点を東京に移し、自分を殺せる勇者の育成に励むことにしました~』  作者: 猫寿司
第五章:The First Step(ザ・ファースト・ステップ)

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第三話:悪徳プロデューサーの憂鬱

狂乱の連勝街道


 最初の勝利から、すべてが一変した。

 二戦目、三戦目と、ヴァレリアは「無自覚な暴力」をリング上で振りまき続けた。

 本来、人間という種族は亜人たちにとって「愛玩用」か「労働力」でしかなかった。しかし、ヴァレリアが屈強な亜人戦士たちを――技術も何もなく、ただ圧倒的な質量と圧力だけで――文字通り「粉砕」する様は、観客たちの歪んだ憎悪と好奇心を刺激した。


「劣等種の人間が,俺たち選ばれし民を叩き潰す」

 その倒錯したカタルシスが、莫大な金を生んだ。五戦目を勝ち抜く頃には、彼らの懐には山のようなファイトマネーが転がり込み、ヴァレリアの名はムエ・サイアムの「異端の怪物」として轟いていた。


 現在、ユウサクは自らを「敏腕プロデューサー」と称し、悪徳の限りを尽くす興行主のごとく立ち振る舞っていた。


「ふはははは! 見ろ、ネネさん! 金だ、人が俺たちにひれ伏しているぞ! 時代の寵児とはまさに俺のことだな!」


VIPルームの静寂


 場所は、競技場に併設された最高級ホテルのVIPルーム。

 プライベートプールのサイドで、ユウサクは派手なアロハシャツにサングラスをかけ、ピーチジュースのグラスを傾けていた。その姿は、成金趣味に染まりきっている。


 その隣。

 同じくブランド物のサングラスをかけ、金の刺繍が入った派手なガウンを羽織り、優雅にピーチジュースを飲むネネがいた。その佇まいは、短期間で手にした富と名声の毒にどっぷりと浸かった「悪徳興行主のパートナー」そのものであり、退廃的なオーラを放っている。

 だが、その口から漏れる言葉は、外見の不真面目さとは真逆の、至極真っ当で真面目な正論だった。


「……あなたね。あまり調子に乗りすぎないで.今のあなたは言葉と言動、それにその趣味の悪い格好が、何一つ一致していないわよ」


 ネネは自分の指にはめられた大粒の宝石の指輪をかざし、その吸い込まれるような輝きにうっとりと見惚れていた。


「それに、ヴァレリアを働かせすぎよ。少しは休ませなさい。あの子が壊れる前に、この街の亜人が絶滅するわ」


「いやいや、ネネさん。まだですよ。上には上がいる。この街にはまだ、絶対的な『チャンピオン』が君臨しているんですから。こんなところで満足して負けていたら、彼女を『勇者』になんて育てられませんよ」


「勇者……?」


 ネネが怪訝そうに眉をひそめる。


「勇者って、この一行の中ではユウサク、あなたの担当じゃないの? 囮だろうが何だろうが、一応はあなたがその役回りでしょ」


「……はは、冗談はやめてください」


 ユウサクは鼻で笑った。

「俺がそんな面倒な役、やるわけないでしょう。勇者はヴァレリアさんですよ」


海辺の修羅場


 ――場所は変わり、ムエ・サイアムの白い砂浜。

 照りつける太陽の下、ヴァレリアは一人、苦悩に満ちた表情で砂を蹴り上げていた。


「剣よ……。まさか、お前がこれほど拳闘の技術に精通していたとはな」


 砂浜に深く突き刺された無骨な剣にヴァレリアが語りかけると、地面の底から野太い声が響いた。


『まかせてください。あっしには、ありとあらゆる技術の情報が詰め込まれているんでさぁ。それからあねさん、これから名前で呼んでもらえますかね? 「聖剣デュランダル」……そう呼んでくださいよ』


 自らをデュランダルと称する剣의指導に従い、ヴァレリアはシャドーを繰り返す。

 右ミドルから左ミドル。さらに右ローから左ハイキック。空想の敵を想定した鋭い蹴りが空を切り、凄まじい風切り音を立てる。


『あねさん、いいですか。常に緊張感を持って集中を絶やさないでくだせぇ。一発一発が本気です。じゃないと、子供の頃から戦っている亜人種には勝てません。質も量も最大限に高めないと、ここから先は無理でさぁ。次戦は上位ランカーですからね』


 午前中のシャドーが終わり、午後はジムでの対人稽古へと移る.


『午後はスパーです。……いいですか、これは殺し合いですよ。スパーで負けるようなら、もう試合をやる意味なんてありやせん』


 ジムに入ったヴァレリアは、薄いヘッドギアを装着し、屈強な亜人のトレーナーと向き合った。デュランダルの怒声にも似たアドバイスが脳内に響き渡る。


『あねさん! 肘、死角から狙ってきますよ! 切り裂くように来ます、気をつけて! ほらミドル、ミドル! ミドルが強くないと賭け金が増えやせん! 相手のどてっ腹めがけて……だめだ、真正面じゃいけねぇ! フェイント、騙し、何でもしてタイミングをずらしなせぇ! 足の位置を悟られないようずらして、死角に入るんですよ!』


 剣が喋るという異様な光景も、この狂ったジムでは日常の一コマに過ぎなかった。

 スパーの最中、鋭い一撃を浴びてヴァレリアが膝を突く。その瞬間、デュランダルの叱咤が飛んだ。


『泣くな! ダウンしたくらいで、ここで諦めたら負け癖がつく。死ぬ気で立て……! 勝つまで相手にスパーを挑むんでさぁ!』


 血を拭いながらも、ヴァレリアは震える声でこぼした。

「……もうだめだ。つよすぎる。このジムで一番つよいゴリーヌさんじゃないか。もっとつよくなってから、あした、がんばるよ……」

 

 何度も立ち上がり、ゴリーヌがふと集中力を欠いたその時だった。ヴァレリアは苦しまぎれの回し蹴りを放つも、それは大きく空を斬る。だが、彼女はそのままの勢いで体を一回転させ、遠心力を乗せて放った後ろ回し蹴りがゴリーヌを捉え、ついに倒してしまった。


「……かった、勝った……!」

 あまりの嬉しさに、ヴァレリアはその場に崩れ落ち、子供のように泣き出した。すると、リングサイドに立てかけられたデュランダルから烈火のごとき怒声が飛んだ。


『おい、この馬鹿野郎! 勝って泣いてんじゃねぇ! 相手が倒れたからって気を抜くんじゃねぇよ。起き上がって反撃されることだってあるんだ。ダウンしたからって油断すんな、ここは戦場だぞ!』


『それに、さっさと相手を気遣いやがれ! そんな態度じゃ次からスパーの相手がいなくなっちまうぞ。ほら立て、相手を称えるんだ、この馬鹿者が!』


 ヴァレリアは慌てて涙を拭い、ふらつく足取りで倒れたゴリーヌに歩み寄った。


「……す、すまない。感謝する。いい稽古だった……」


 彼女はリングサイドに立てかけられた剣に向き直ると、深々と頭を下げた。


「師匠、ありがとうございました」


 その後、ヴァレリアはよろめく足取りでシャワー室へと向かった。

 一人きりの空間で、熱いシャワーを浴びながら、彼女の胸には再び抑えきれない喜びがこみ上げていた。鼻の奥がツンとし、お湯に混じって大粒の涙が頬を伝う。


(勝てた……。あのゴリーヌさんに、勝てたんだ……)


 一人泣きじゃくるヴァレリアの声を,リングサイドでデュランダルが静かに聞いていた。

『悪意で人を塗り替えるのも、闘争心と使命感で塗り替えるのも、結局は同じことでさぁ……』

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