第七話:ウホホの神託と、全裸の軍師
猛り狂う「神」のパフォーマンス
バナナの葉をまとい、未だ混乱の真っ只中にいるヴァレリアとネネを余所に、ユウサクの「現人神」としての熱演は続いていた。
「ユウサク:うほほほ! うほ! うううううほほほ!!」
全裸のまま、堂々と自分の胸をドカドカと叩き――ドラミングを披露して、猿人たちを威圧する。その滑稽かつ迫真の演技に、周囲を囲む数十頭のゴリラたちは恐れおののいた。
「ゴリラたち:うほおほおおおお! ほほっ……!!」
ゴリラたちは地面に額をこすりつけ、ユウサクを拝み倒している。その異様な光景に、ネネがついに耐えきれず噴き出した。
「ネネ:……なにそれ! あははは! なにその動き! 面白すぎるわよ!!」
バナナの葉で身体を隠しながら、腹を抱えて笑うネネ。緊迫していたはずの調理場は、一転してシュールな喜劇の舞台へと変貌していた。
偽りの神託の内容
呆れ顔のヴァレリアが、必死に胸元の葉を握りしめながらユウサクを問い詰める。
「ヴァレリア:……笑い事ではないぞ、ネネ。……で、内容は? ユウサク、貴公は一体、この猿どもになんと伝えたのだ?」
ユウサクは一度「うほほほ!」と叫び、ふんぞり返ってから、神妙な顔で振り返った。
「ユウサク:うほほほ……じゃなかった。えーと。『まもりがみ。女、柔らかい。たべる、かみのつかい、おこる!』」
「ネネ:……あははは! なんで片言なのよ! おっかしい!!」
ネネは涙を流しながら笑い転げ、ヴァレリアはこめかみを押さえて天を仰いだ。
「ユウサク:こまりましたね、この状況……。あいつら、実際に俺たちを『山の神』にお供えする料理として、まさに今、調理の儀式をしてた最中だったんですよ。それを俺が『神の使い』だって言いくるめちゃったもんだから、さあ大変です」
ユウサクは困り果てたように首を振った。
「ユウサク:『山の神へのお供え(料理)』を絶やすと神が激怒する。……食べると神の使いを殺したことになって神が怒るし、お供えしなくても山の神が怒る。ゴリラたちは今、その板挟みでパニックになってるんですよ」
黄金の暴君
怯えるゴリラたちに案内されたのは、森の奥深く、日光さえ遮るほどに木々が鬱そうと茂る場所だった。
そこに君臨していたのは、一際巨大な体躯を誇る、突然変異と思しき金色の毛並みのゴリラだった。ボスの周囲には多くのメスが侍り、まさに絶対的な支配者として君臨している。
「ネネ:……なにあれ。情けないわね、あんなボスの言いなりになって。集団で反抗すればいいじゃない」
ネネが吐き捨てるように言うと、ユウサクは肩をすくめた。
「ユウサク:仕方ないですよ。弱い者は上手く生きないと。ねえ、ネネさん。……いやー、それより。ネネさんやヴァレリアさんのバナナの葉から見える『たわわな実』を眺められて、僕は今、最高に幸せですよ(笑)」
「ヴァレリア:貴公……っ! この期に及んで何を!!」
ヴァレリアが怒りに任せて突っ込んだ。何も考えず、腰に唯一残されていた剣を携えて。しかし、相手は森の暴君だ。
「ユウサク:ヴァレリアさん、危ない! 無策で突っ込んじゃダメだ!!」
「ヴァレリア:はあああーーっ!!」
ドバキィッ!!
凄まじい衝撃音が響き、ヴァレリアの身体が宙を舞った。ボスの剛腕が直撃したのだ。ヴァレリアは地面に叩きつけられ、血を吐きながらうずくまった。
「ネネ:ヴァレリア!! このデカブツがっ!!」
ネネが慌てて浮遊し、魔力を練り、呪文を詠唱し始める。ボスゴリラは吠えながらユウサクへと飛びかかり、ユウサクは「うわあああっ!」と逃げ惑った。
喋る剣と空気の砲弾
膝をつき、血を吐きながらも立ち上がろうとするヴァレリアの脳内に、いや、今や周囲にも聞こえるほどの「声」が響いた。
『剣:……力が欲しいか、小娘』
「ヴァレリア:……っ、うるさい! 黙れ! 自分の力でなんとかしなければ、意味がないのだ!!」
『剣:へっ、だったら俺を使うなよ。ヘボが』
なんと、ヴァレリアの持つ剣が直接喋りだしたのだ。その罵り合いはユウサクにも丸聞こえだった。
「ユウサク:……おいおい。何だその剣。せっかくのシリアスな雰囲気がぶち壊しですよ」
『剣:第三者は黙っていろ、全裸野郎』
剣にまで毒づかれるユウサク。その間、ネネは必死に周囲の酸素と窒素を圧縮し続けていた。
「ネネ:……できた! くらえっ! 『空気圧縮砲』!!」
ドドドドンッ!! と三発連続で放たれた不可視の空気の塊が、ボスゴリラの肉体に直撃した。凄まじい圧力により、ゴリラの巨体に三つの風穴が開き、黄金の暴君は断末魔すら上げられずに崩れ落ちた。
静寂が戻った森。
ボスを倒した安堵よりも先に、ヴァレリアがボロボロと涙をこぼし始めた。
「ヴァレリア:……私は、弱い。剣にまで馬鹿にされ……守られるだけの、無力な女だ……」
「ユウサク:……。……あー、もう。泣かないでくださいよ、ヴァレリアさん。……よし、解決したことだし、戻りましょうか」
ユウサクは困ったように頭を掻き、全裸のまま彼女たちを促した。
忘れ去られた犠牲者
一行がゴリラたちの最初の宴会場(調理場)へと戻ると、そこには信じがたい光景が広がっていた。
「ユウサク:あ……忘れてた」
焚き火のそば、バナナの葉でぐるぐる巻きにされ「蒸し焼き」の準備を整えられていた船長――。
そこには、綺麗に骨だけになった無残な姿と、香ばしい匂いを漂わせる調理済みの肉が転がっていた。
「ネネ:……嘘でしょ。た、食べられてるーーーっ!!?」
ネネの悲鳴が響き渡る。ボスとの戦いに夢中で、誰も「予備の食材」として放置されていた船長のことを思い出さなかったのだ。
すると、近くにいたゴリラの一頭が、ユウサクに親しげに近寄ってきた。
「ゴリラ:ウホッ。ウホホ(お前も食うか?)」
そう言ってゴリラが差し出してきたのは、こんがりと、実に美味しそうに焼き上がった「船長の足」だった。
「ユウサク:……。……いらないっす」
差し出された「こんがり焼けた足」を前に、ユウサクは深い虚脱感に襲われた。神の使いになった代償は、あまりにも、あまりにもシュールで残酷なものだった。




