第十三話:真実の開示と、歪んだ栄誉
旅路の増員
バトマニアを後にする街道、ユウサクの数歩後ろには、蒼い鎧を鳴らして歩くヴァレリアの姿があった。
「いいのかい、お姉さん。俺たちについてきても。故郷は平和になったんだろ?」
「勘違いするな。私は、お前が何者なのかを見極めると決めただけだ。それに……」
ヴァレリアは腰の剣に手を当て、鋭い視線をユウサクの背中に向けた。
「あの絶望的な状況で、お前が見せたあの力……あるいは、あの変態的な振る舞い。私はまだまだ修行が足りないと痛感した。世界を見て、より強くなって故郷を本当に守れる騎士になりたいんだ」
「ははは、殊勝だねぇ。だが気をつけてくれよ、お姉さん。剣の道は険しいぞ」
ユウサクがどこかの賢者のような口調で忠告すると、横を歩いていたネネがたまらず吹き出した。
「なにそれ、どの口が言ってるのよ。昨日、全裸で『ぬるぬるだー!』って叫びながらヘビに食われてたおじさんが」
「……あれは、その、演出ですよ」
ユウサクは照れ隠しに鼻を啜った。自分の中に時折湧き上がる、この「もっと高みから世界を論じたい」という謎の欲求。その正体を思い出そうとすると、やはり頭の奥に霧がかかったような違和感が残るのだった。
仕込まれた巻物
ザ・ベラの街に帰還する道中、ネネは黙々と作業を続けていた。
「よし、できたわ。『反転開示魔法』の術式を封じ込めた特製の巻物よ。これを投げれば、詠唱なしで広範囲の偽装を暴けるはず」
ネネは手際よく巻物をまとめ、それを懐に忍ばせた。
バトマニアの領主が蛇だったのだ。城の深部……王の傍にも、必ず「内通者」がいる。ユウサクが予言めいた口調で言ったことが、ネネを突き動かしていた。
「……ゆうさくさん。お城に戻ったら、これを投げるわよ。いい?」
「いいのかな……。まあ、正解を暴くのは勇者の仕事ですからね」
ユウサクは他人事のように頷いた。彼にとってこれは、これから起こる「イベントムービー」の準備に過ぎなかった。
謁見と「カエル」の開示
ザ・ベラ王宮、謁見の間。
王の前に跪き、バトマニアの怪物を討伐したことを報告する一行。王が満足げに頷き、周囲の家臣たちが称賛の声を上げる。
その「静寂」が訪れた一瞬の隙を見計らい、ネネがおもむろに懐から巻物を取り出した。
「いっけえぇぇ!!」
「あ! それテロと間違われるやつ!!」
ユウサクの叫びも虚しく、ネネが放り投げた巻物は、玉座の脇に立つ大臣たちの足元で激しく発光した。
衛兵たちが色めき立ち、剣を抜こうとしたその瞬間――光の粒子が周囲を埋め尽くし、大臣の一人の輪郭が不気味に歪み始めた。
「ギギッ……グ、ゲロォォォォォ!!」
豪華な装束を突き破り、現れたのは人間大の「巨大なカエル」だった。
ぬらぬらとした緑色の皮膚、飛び出した目玉。内通者の正体は大蛇ではなく、より湿り気を帯びた両生類だった。
「バレたか……ゲコゲコ……!!」
カエル大臣は素早い動きで長い舌を伸ばした。その標的は、最前列にいたヴァレリア。
「っ、離せ!!」
舌がヴァレリアの腰に巻き付き、彼女の身体を強引に引き寄せる。そのまま大きな口が開かれ、ヴァレリアは下半身から「ごっくん」と飲み込まれてしまった。
「あああ!! ヴァレリアさんが!! ……って、うわああああ!! ぬるぬるだーー!!」
ユウサクは恐怖を置き去りにして興奮を爆発させると、吸い寄せられるように自分もカエルの口の中へとダイブした。
「この二人……どうしたものか……」
ネネが頭を抱えた瞬間。
案の定、カエル大臣の腹が異常に膨れ上がり――。
――パンッ!!
豪快にはじけ飛んだ。中から現れたのは、これまた全身粘液まみれの、ぬるぬるのユウサクとヴァレリアだった。ユウサクの手は、どさくさに紛れてヴァレリアの胸を何度も往復するように撫で回し、その粘り気のある極上の感触を心ゆくまで味わっていた。
「……死ねッ!!」
次の瞬間、ヴァレリアの怒りの一撃が爆発した。粘液を撒き散らしながら放たれた渾身の拳がユウサクの顔面を捉え、彼の体は再び独楽のように回転しながら、王の目の前の大理石の床をゴロゴロと転がっていった。
歪んだ「勇者」の称号
静まり返る謁見の間。あまりの光景に、王さえもが言葉を失っていた。
だが、内通者を暴き、討伐したという事実は揺るぎない。
「……見事だ。そなたこそ、真の勇者と言うに相応しい」
王の声が響き、ユウサクに「救世勇者」の称号が授与されることになった。
そして、褒賞としてネネとヴァレリアに特別な武具が贈られた。
ネネに贈られたのは、不気味に脈打つ肉のような装飾が施された、生物的な杖。それは時折、生きているかのように熱を帯び、表面には竜の鱗のようなものが貼り付いていた。
ヴァレリアに贈られたのは、同じく不気味な脈動を繰り返す肉の装飾が柄に施された、禍々しくも美しい生物的な剣だった。
「……なんだ、これ。趣味が悪いな……」
ユウサクは自分用の報酬(勇者の称号付きのメダル)を受け取ると、それには目もくれず、ネネに杖を、ヴァレリアに剣を押し付けた。
「いいのか……? 救世主としての褒賞だぞ。こんなすごい剣、私に譲って」
「いらないですよ、俺には。それは勇者に渡すべきやつだよ、きっと。俺はただの、お付きの四十男ですから」
(……なんだろう。この不気味な脈動。どこかで、見たことがあるような……。まあ、いいか)
ヴァレリアの言葉に、ユウサクは「ははは」と照れ笑いを見せる。
狂騒の祝杯と、忘れ去られた絶鳴
その夜、王宮を後にした一行を待っていたのは、再び「出会いの酒場」での凄まじいどんちゃん騒ぎだった。
勇者の称号を得たユウサクは、今やザ・ベラの英雄として、酒場の酔っ払い共から「神よ!」「仏よ!」と拝み倒されていた。
「ゆーさく! ゆーさく! ゆーさく!」
巻き起こるユウサクコールの大合唱。当の本人はといえば、既に泥酔しており、ギルドの受付嬢の懐へ無理やり人差し指を突っ込んでいた。
「ヒック……ヒック……。ねえ、お姉さん、ちょっと失礼。ここの服の、隙間から……さきっぽ、さきっぽを見せて……。何色かなぁ……。ぐへへへ……」
必死な形相で受付嬢の胸元を広げようとするその姿は、英雄のそれではなく、ただの最低な酔っ払い、あるいはアホそのものであった。
「……あいつ、本当に救いようがないわね」
「ああ、同感だ。無視しよう」
カウンターの隅で、ネネとヴァレリアは冷ややかな視線を交わし、完全にユウサクを放置して自分たちの武具の調整に没頭していた。英雄として崇められながらも、身内からは蛇蝎のごとく嫌われる……。ユウサクにとって、それはある種の居心地の良さすらあった。
宴が最高潮に達し、ユウサクコールが夜の街に響き渡っていた、その時だった。
「ぎゃあああああああ!! 誰だ! 貴様、誰だああああ!!!」
静かな夜の空気を切り裂き、少し離れた「大家の家」から、この世のものとは思えない絶叫がこだました。
「……あ。……忘れてた」
ネネがジョッキを口にしたまま、動きを止めた。
彼女が父親にかけた「変化の魔法」の期限。美少女に化けさせ、大家へと売り飛ばしたあの魔法が、ちょうど今、切れたのだ。
大家の寝室で、毎夜嫌がる少女を蹂躙し、今日もまさに挿入しようとした矢先の出来事だったらしい。可憐な少女が突然、赤ら顔のハゲた酔いどれ親父へと「再構成」される……。その絶望と、その後の修羅場を想像し、ユウサクは「ははは……」と再び乾いた照れ笑いを浮かべた。




