第十二話:暴かれた真実と、蛇の胎内
領主の変貌
ネネの放った『反転開示魔法』の光が霧となって宴会場に満ちた、その瞬間だった。
――ギギギ、ギギッ……!!
豪華な椅子に座っていたバトマニアの領主が、耳障りな音を立ててのけぞった。その皮膚が陶器のようにひび割れ、内側からどす黒い粘液が溢れ出す。
「領主様!? いったい何を――ぎゃあああ!!」
悲鳴が上がる。領主の身体は急速に引き伸ばされ、服を突き破り、鱗に覆われた巨大な「大蛇」へと変貌を遂げた。その頭部はかつての領主の面影をわずかに残しながらも、裂けた口からは長い舌がチロチロと覗いている。
「……バレたか。ははは、やはりあの女が言っていた通り、お前たちは厄介な連中だ」
領主蛇は嘲笑い、近くにいた街の住人を一飲み(ごっくん)にした。あまりにも呆気ない捕食。それを見たユウサクは、恐怖を通り越して「うげ、へびだよ……」と引きつった声を上げた。
「……ネネ、予想が当たったわね。この街の『おさ』そのものが、内通者だったわけだ」
ヴァレリアの窮地
混乱の渦中、ヴァレリアが鋭い金属音を鳴らして飛び込んできた。
「貴様……領主を騙って、街の人々を食い物にしていたのか!!」
ヴァレリアが渾身の力で斬りかかるが、大蛇の鱗は鈍い光を放ち、鋭い剣撃を軽々とはね返した。
「無駄よ、ヴァレリア! 魔法が弾かれる……いえ、吸収されているわ!」
ネネが焦燥を露わにして叫ぶ。攻撃の手を緩めないが、領主蛇は魔力を糧にするかのように身をくねらせ、すべての衝撃を無効化していく。
「危ない!! ネネさん、空へ! ヴァレリアさん、離れて!!」
ユウサクの警告も虚しく、領主蛇の動きは救世主たちの想像を絶していた。巨体でヴァレリアを床に押し潰すと、暗黒のような大口を広げる。
「ぐ、ああ……離せ、この化け物……!!」
ヴァレリアの抵抗を嘲笑うかのように、彼女の下半身が大蛇の顎に飲み込まれていく。必死に剣の柄を横に噛ませて喉奥への侵入を食い止めるが、ヴァレリアの顔には死の恐怖が張り付いていた。
だが、その凄惨な光景を凝視していたユウサクの瞳に、場違いな光が宿った。
「……なんだ、この感触。……ぬるぬるだ。ぬるぬるだぞ、これ……!!」
胎内へのダイブと、はじける終焉
ユウサクは恐怖で動けなくなるどころか、その「ぬるぬる」とした生理的な感覚に突き動かされ、あろうことか自ら大蛇の開いた口へと猛ダッシュで突っ込んだ。
「ちょっ、ユウサク!? 何してるのよ!!」
ネネの叫びが響くが、ユウサクは迷いなく、ヴァレリアを飲み込みつつある大蛇の喉奥へとダイブした。
「……なっ、ごういんに入るんじゃない!! 二人まとめて飲み込んでやるわ!!」
領主蛇は怒り狂い、二人をまとめて丸呑みにした。蛇の腹部が、二人の大人が入ったことで異常なまでに大きく膨れ上がる。
勝負は決まった――。誰もがそう確信した。
だが。
急に大蛇の動きが止まり、もがき苦しみ始めた。腹部が内側から異様なまでに膨張し、はらが限界を超えてでかくなっていく。まるで風船のように膨れ上がったその鱗が、内側からの圧力に耐えきれず、白く引き詰められ――。
――パンッ!!
凄まじい音と共に、大蛇の腹が内側から豪快にはじけ飛んだ。ユウサクがスライムのように不定形に膨らんだのか、あるいは未知の変異が起きたのか。肉片と粘液が周囲にぶちまけられ、街の領主だった大蛇は、一瞬にして無惨な残骸へと成り果てた。
ぬるぬるの救出劇
はじけ飛んだ大蛇の残骸の中から、ぬるぬると滑り出すように二人の人間が現れた。
「……ぷはっ! ……死ぬかと思ったわ……」
ボロボロになった蒼い鎧を纏い、全身が蛇の胃液と粘液で「ぬるぬる」になったヴァレリア。彼女は混乱と恐怖で震えていた。
そんな彼女に、同じく全身ぬるぬるのユウサクが、満面の笑みで抱きついていた。さらにユウサクは、自身のぬるぬるとした足を、彼女の股間めがけて執拗にすりすりと擦り寄せる。
「いやぁ、最高にぬるぬるでしたね、ヴァレリアさん! 一体感というか、種の共鳴というか……最高ですよこれ!」
「……死ねッ!! このドブネズミがぁぁぁ!!」
股間に感じる異様な感触と男の妄言に、ヴァレリアの理性が完全に吹き飛んだ。
――バッチィィィィィン!!
粘液を撒き散らしながら放たれたヴァレリアの渾身の拳が、ユウサクの顔面を捉えた。
「あべしっ!?」
ユウサクの体は独楽のように激しく回転しながら、宴会場の床をバウンドするように転がっていった。
ゴロゴロゴロゴロ……!!
壁に激突して止まるまで、ユウサクは「ぬるぬる」の軌跡を床に残し続け、最後はひっくり返ったカエルのような無様な格好で静止した。
救世主によって街は救われた。だが、その光景を見た住民たちは、感動よりも先に、目の前の「ぬるぬるの抱擁からの激しい一撃」という異様な光景に、ただただ、ぽかんと口を開けていた。




