第十一話:歪んだ説教と、真実の鏡
前代未聞の凱旋
バトマニアの正門をくぐった一行を待っていたのは、割れんばかりの歓声だった。
先頭を行くのは、蒼い鎧を誇らしげに鳴らすヴァレリア。その隣には、大魔導士としての風格を(なんとか)保とうとしているネネ。そしてその後ろには、救出された大勢の子供たちが続いていた。
だが、その光景はあまりにも異様だった。
救出された子供たちは一様に、なぜか自分たちの「お尻」を痛そうに押さえており、何より彼らを率いる「救世主」ユウサクが、煤だらけの全裸だったのである。
「おお……! 怪物オナリスを倒した英雄よ!」
「ありがとう! 我が子を救ってくれてありがとう!」
熱狂する群衆の中、ユウサクは不機嫌極まりない顔でむくれていた。
種の繁栄と、領主への怒り
凱旋の儀式として、バトマニアの領主がユウサクの前に進み出た。
領主は深々と頭を下げ、保身と安堵が混ざったような卑屈な笑みを浮かべる。
「よくぞ……よくぞやってくれた。これでこの街も安泰だ。週に一度の犠牲も、もう必要ないのだな……」
その言葉を聞いた瞬間、ユウサクの中で何かが弾けた。
「……安泰? 犠牲が必要ないだと?」
ユウサクは全裸のまま、領主の胸倉を掴み上げた。
「この街の長は、週に一人の子供を犠牲にしてでも自分たちが生きながらえたいのか!! 自分の子供も守れない街なんて、いっそ滅んじまえ!!」
ユウサクの怒号に、広場の喧騒が凍りついた。
ネネは驚き、ユウサクを見つめた。
(この人、こんなに正義感が強い人だったの……? でも、言っていることが少し……)
「生きながらえることが目的か? 違うだろ! 次世代のために、子供のために生きるのが種の本来の目的だろうが!! 種の繁栄こそが第一だ!! ……あれ?」
ユウサクはふと、自分の言葉に違和感を覚えた。
――種の繁栄? これ、俺の言葉か?
空回りし始めた思考と、制御の利かない言葉。ユウサクは混乱し、領主を放り出すと、呆然と自分の手を見つめた。
空回りの自覚
その後、無理やり開かれた宴会の席から、ネネはユウサクを強引に連れ出した。
街外れの静かな場所で、ユウサクはようやく貸し与えられた粗末な服を纏い、力なく座り込んだ。
「……ねえ、ゆうさくさん。さっきのは少し言い過ぎよ。弱い人たちの気持ちも、少しはわかってあげなさいよ」
「……すみません。あんなこと言うつもりじゃなかったんです。ただ、なんていうか……勝手に口から出たというか……」
ユウサクは頭を抱えた。自分の中に、自分ではない「魔王としての本能」が根を張り始めているような、薄気味悪い感覚。それを誤魔化すように、彼はネネに問いかけた。
「……ネネさん。この世界に『真実の鏡』みたいな魔法ってありますか?」
「真実の……はて? なにそれ。聞いたことないわ」
「ほら、さっきの『変化する魔法』があったじゃないですか。その逆ですよ。化けてる奴の正体を暴く魔法。……だって、この街にもどうせいるんでしょ? 内通者が。お城に帰ったって、どこにだっているはずだ」
反転の術式:真実の鏡
ネネは杖を顎に当て、考え込んだ。
ユウサクの言う「内通者」という不穏な言葉に、魔導士としての好奇心が反応する。
「変化する魔法の反転……。そうね、術式を逆回転させて、そこに霧魔法で粒子を散らせば……対象の本来の姿を強制的に具現化させる『場』を作れるかもしれない」
ネネは地面に指で数式を書きなぐり、ぶつぶつと独り言を漏らし始めた。
「……霧魔法で拡散……変化のエネルギーを中和……。うん、わかったわ。できるかもしれない」
ネネは杖を掲げ、月光を吸い込むように構えた。
「……あまねく偽りを暴く、無垢なる大気よ。
虚飾の皮を剥ぎ取り、隠された真実をその身に刻め。
霧の帳よ、真実を映す鏡となれ!!
【反転開示魔法:スペキュラム・ヴェリタス】!!」
杖の先から放たれた淡い光が、霧となって夜の空気に溶け込んでいく。
ユウサクはその光景を眺めながら、自分自身の正体もまた、この魔法で暴かれてしまうのではないかという、奇妙な期待と恐怖を同時に感じていた。




