第十話:救出の代償と、無慈悲な一撃
焦土の決着
ネネの放った電撃超魔法『ケラウノス・テンペスト』の残響が、洞窟内に空気を震わせるような重低音を残して消えていった。
霧が完全に晴れたそこには、炭化し、痙攣を繰り返す二体の『蹄の鬼』が膝をついていた。ネネの魔法は、鬼たちの強固な魔力耐性を力ずくで貫通したのだ。
「……はぁ、はぁ。……とどめよ!」
霧の中に身を潜めていたヴァレリアが、雷撃の隙を突いて飛び出した。蒼い剣が閃光を描き、抵抗する力を失った鬼たちの首を確実に跳ね飛ばす。
ドサリ、と巨体が倒れ、バトマニアを恐怖に陥れた番犬たちは物言わぬ肉塊へと変わった。
「……ユウサク、大丈夫か!?」
剣を納めたヴァレリアが、戦場の中心に立つ影に声をかけた。
だが、振り返ったその姿を見た瞬間、ヴァレリアは顔を真っ赤にして絶句し、ネネは杖を落とした。
「……あ、ヴァレリアさん。大丈夫ですよ、これくらい。……でも、やっぱり服が燃え尽きちゃいました。これ、どうしましょう」
そこに立っていたのは、ネネの雷撃をまともに浴び、服が一切合切消失した「フルチン」のユウサクだった。
全身が煤で黒ずみ、所々から煙が立ち昇っているが、本人は至って元気そうに、唯一燃え残った「黒焦げの手斧」を手に持っている。
「……お、おまえ……その格好でよくも……」
ヴァレリアは引きつった笑いを浮かべ、視線をどこに向ければいいのか分からず苦悶していた。
オナリスの終焉
「ち、ちょっと……! 来ないで頂戴!! 何なんですの、その卑猥な姿は!!」
後方の岩陰で震えていたオナリスが、悲鳴に近い声を上げた。
ユウサクは、全裸のまま「大家の斧」を携え、一歩、また一歩とオナリスへ歩み寄る。その無機質な歩調は、恐怖を煽るには十分すぎる威圧感を放っていた。
「……ちょっ、待ちなさい! お待ちなさいって言ってるでしょ! あなた、まさか本当に……まお……」
オナリスがその正体……自分が跪くべき「根源」の名を呼ぼうとした、その時だった。
――スパンッ!!
軽い音が響いた。
ユウサクが振るった黒焦げの斧は、何の抵抗もなくオナリスの身体を脳天から股下まで、一閃のもとに真っ二つに断ち切った。
「……あ……?」
オナリスは自分が斬られたことすら理解していないような顔で、左右に分かち、倒れ伏した。
あまりのあっけなさに、一同はただ、しんと静まり返った。とどめを刺す準備をしていたヴァレリアも、魔力を回復させていたネネも、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
「……あ、斬れちゃった。これ、結構いい斧ですね」
ユウサクは斧に付いた汚れを、自分の剥き出しの太腿で無造作に拭った。
洞窟に響く泣き声
静まり返った洞窟の奥から、かすかな啜り泣きが聞こえてきた。
三人が警戒しながら奥へ進むと、そこには厳重に鍵の掛けられた檻があり、中にはこれまで生贄として攫われてきたバトマニアの子供たちが大勢閉じ込められていた。
「助けに来たわ……! もう大丈夫よ!」
ヴァレリアは檻の鍵を叩き割り、中の子供たちを解放した。弟のアルはユウサクが身代わりになったため無事だったが、ここにいるのはこれまでの数週間、週に一度の儀式で消えていった「犠牲者」たちだ。
多くの子が声を殺して泣いており、なぜか一様に自分たちの「お尻」を痛そうに押さえている。
「……あぁ、かわいそうに。あの青髭の趣味の犠牲になったんだな……」
ユウサクは(全裸のまま)深く頷き、慈愛に満ちた目で子供たちを見つめた。
「大丈夫だよ、みんな。悪い怪物は、僕たちがやっつけたからね」
その光景は、一見すれば救世主による感動の救出劇だった。
だが、血の海と内臓がぶちまけられた惨状の中で、真っ黒に焦げた全裸の中年男性が「正義の味方」として微笑んでいるその図は、子供たちの心に新たなトラウマを刻み込むには十分すぎるほどに、狂気に満ちていた。
「……ねえ、ヴァレリアさん。あのおじさん、やっぱり殺しといたほうがよくない?」
「……今は、何も言うな。ネネ。早くここを出るぞ……」
二人の美少女は、喜びよりも先に、言葉にできない深い疲労感に包まれていた。




