第九話:霧の中の雷鳴と、逆転の布石
鬼の猛攻とオナリスの視線
「これでも食らいなさいッ!」
合流するなり、ネネは杖を突き出し、凝縮された火の剛球を放った。続いて無数の火の玉が雨あられと降り注ぐが、二体の『蹄の鬼』はそれを無造作な動作で払い落としていく。
「なっ……あたしの火炎魔法が、ただの火種みたいに……!?」
ネネが驚愕に目を見開く。だが、鬼たちは再生を終えたばかりのユウサクには目もくれず、標的をネネとヴァレリアに定めた。
「ちょっと、そこの不潔なおっさんより、その生意気な娘たちを先に片付けなさい!」
オナリスが扇子を広げて命じる。鬼たちは地面を蹴り、空中へ逃れたネネを追うように跳躍し、次いでヴァレリアへと襲いかかった。
ヴァレリアは蒼い剣でその爪を受け止めたが、鬼の圧倒的な剛力に弾き飛ばされ、洞窟の壁へと叩きつけられた。
「くっ……なんて力だ……!!」
一方、戦場の端で取り残されたオナリスは、時折ユウサクの方をチラチラと見ていた。
その瞳には、先ほど目撃したユウサクの再生能力、その異様な「形状」に対する戸惑いと、抑えきれない戦慄が混ざり合っている。
「(はて……? なんであのおじさん、俺のことをあんなに見てるんだろう。やっぱり俺、イケメンなのかな……?)」
当のユウサクには全く心当たりがなかった。
奪われた手斧と、霧の再編
「おい、ヴァレリアさんが大変だ! やめろ、このトカゲ……じゃなくて鬼!」
ユウサクはヴァレリアを助けようと、腰の「大家の斧」を引き抜いて鬼の背後から斬りかかった。だが、鬼は振り向きざまにユウサクの腕を掴むと、力任せにその斧を取り上げた。
「あ、あああ!! 俺の……俺の数少ない冒険の思い出が!! 返して、それ返してよ!!」
ユウサクは必死に飛び上がり、鬼の手から斧を取り戻そうとじたばたする。その無様な姿を盾に、ネネは叫んだ。
「ヴァレリア! 逃げちゃだめよ、態勢を立て直すわ! 霧に隠れて!」
ネネは杖を振り、洞窟内を一気に視界不良にする『霧魔法』を展開した。
深い霧が立ち込め、オナリスや鬼たちの視界を遮る。その隙に、吹き飛ばされていたヴァレリアは身をかがめて岩陰へと隠れ、呼吸を整えた。
「……逃げないのか。いい度胸ね。なら、この霧の中で死になさい!」
オナリスの罵声が響くが、霧の奥からはそれ以上の圧力を伴ったネネの詠唱が響き渡った。
電撃の超攻撃魔法
「……逃がさないわ。ここで一気に決めるわよ!!」
それは彼女がザ・ベラで見せた氷の龍をも凌ぐ、大気中のエネルギーを極限まで引き出す電撃の超魔法だった。
「……集え、万象を潤す水分よ。
あまたの小さき粒たちが、互いに擦れ合い、激しくぶつかり、
天の裁きをその身に宿せ。
今こそ、その猛り狂う力を解放せよ!!
【電撃超魔法:ケラウノス・テンペスト】!!」
ドォォォォォォンッ!!
洞窟内に、巨大な雷柱が落ちた。
凄まじい衝撃波と光が溢れ、霧そのものがプラズマ化して爆発する。
「ギャアアアアア!!!」
直撃を受けた鬼たちの悲鳴が上がる。そして――。
「あばばばばばばばば!!? びりびりする! ビリビリくるよネネさぁぁぁぁん!!」
当然のようにユウサクもその雷撃に巻き込まれ、全身を激しく痙攣させながら白目を剥いていた。
だが、その閃光に照らされた彼の肉体は、炭化しては再生し、崩壊しては再構築されるという、この世のものとは思えない超常的な光景を繰り返していた。
霧が晴れたとき、そこには焦げ付いた大地と、膝をつく鬼たち、そして黒焦げのまま立ち尽くす一人の「勇者」の姿があった。




