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『カオスノイズ:東京拠点化計画~拠点を東京に移し、自分を殺せる勇者の育成に励むことにしました~』  作者: 猫寿司
第3章 出発(たびだち)のバラード

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第八話:バトマニアの生贄と、籠の中の居眠り

静まり返った商店街


 南の街、バトマニア。

 ザ・ベラより大きくはないが、そこそこ商店のような軒先もあり、本来ならにぎやかなはずの街並みだった。だが、今は人影もなく、不気味なほどにしずまり返っている。


 ヴァレリアは迷いのない足取りで路地を抜け、一軒の質素な家へと辿り着いた。


「姉さん!!」


 扉が開くや否や、中から飛び出してきた子供がヴァレリアに抱きついた。弟のアルだ。再会を喜ぶ姉弟の姿を眺めていたユウサクの口から、余計な一言が漏れる。


「……いやぁ、なんかそそるんだよなぁ、ヴァレリアさん。その母性っていうか……」


 ユウサクはニヤニヤしながら、自然と手が伸びて、彼女のおしりを――。


 ――バッチィィィィィン!!


「……ゴロゴロゴロゴロ!!」


 ユウサクの体は、音を立てて家の外まで転がり出た。それを見た弟のアルが「あははっ!」と笑い出し、ネネは冷ややかな目で呆れ果てていた。


囮作戦:籠の中の勇者


「さて、まかせてください」


 頬を腫らしたユウサクが戻ってきて提案した。広場に置かれる、子供が入る程度の大きさの「生贄の籠」に、アルの代わりに自分が入るという作戦だ。


「なんで俺が……なんて言いませんよ。別にわざわざ入る必要もない気がするけど、他の子が生きているかもしれないだろ?」


 夕方。バトマニアの中央広場には悲しむ人々が集まり、偽りの儀式が始まった。人々は、籠の中にヴァレリアの弟が入っていると思い込み、絶望に暮れている。

 だが、当の籠の中でユウサクは、狭苦しさに耐えているうちに、いつの間にか寝てしまった。


「……スピー、スピー……ムニャムニャ……」


最悪の目覚めと、麗しき「オナリス」


 どれほどの時間が経っただろうか。ガタゴトと揺れる激しい振動が、ユウサクの意識を覚醒させた。


「……んぅ……揺れる振動が、きもち……悪い。きもちわるい。うぷ……がまん、がまん……」


 脂汗を流し、口を押さえて耐え忍ぶ。やがて籠がどこかに降ろされ、蓋が開いた。ユウサクは飛び出すと同時に、


「げぇーーーーーっ!!!」


 盛大な嘔吐。それは、目の前にいた主の磨き抜かれた靴への、最悪の挨拶となった。


「あらやだ!! なんですの、この不潔な物体は!!」


 甲高い、お姉言葉が響いた。そこには、豪華な上着を完璧に着こなし、丁寧に整えられた「青い髭」を蓄えた男、オナリスが立っていた。


「ちょっと、見て頂戴! 私の特注の靴が台無しよ! 町のやつら、私をだましやがったな――!!!」


 オナリスの左右には、二体の『蹄の鬼(ひづめの鬼)』が控えている。周りは深い森、奥には不気味な洞穴。


「……げぇぇ……。はぁ、スッキリした。……ここ、ありきたりな拠点だなぁ……」


「お黙りなさい! 私の『愛の巣』をありきたりなんて! お行きなさい、あなたたち! このゴミをお掃除して頂戴!」


断たれる肉体、蠢く混沌


 オナリスの号令で、二体の鬼がユウサか襲いかかった。

 鋼よりも鋭い黒い爪が、ユウサクの肉体を捉える。


 ――スパ、スパ。


 軽快な切断音が響き、ユウサクの身体は一瞬で真っ二つに、さらに細かく切り裂かれた。地面に崩れ落ちる、沈黙した肉の塊。


「……いてて。服がまたボロボロだなぁ」


 地面に転がったユウサクの頭部が独り言を漏らす。すると、バラバラになった断面から何かが溢れ出した。


 じわじわ、じわじわ。


 それは意志を持つかのように蠢き、離れたパーツ同士を強引に引き寄せていく。断面同士が磁石のように「ぴたっ」と密着し、ユウサクは「じわじわ」と肉体をくっつけながら立ち上がった。


オナリスの戦慄と合流


「……あ、あなた。……???」


 優雅に扇子を動かしていたオナリスの動きが、凍りついたように止まった。彼は再生したユウサクの姿を、ただ一点、凝視している。


「その、けいじょう……まさか……???」


 オナリスは顔面を土気色に変え、ガタガタと震えながら後ずさった。その瞳には、自分の仕える絶対的な存在の片鱗を見たかのような、筆舌に尽くしがたい恐怖が宿っている。


 ユウサクの体が完全にくっつくのと同時に、ネネとヴァレリアが洞穴内へと飛び込んできた。


「ゆうさくさん!! 無事なの!!?」

「ユウサク! 今助け――」


 二人が目にしたのは、ズタズタの服で平然と立ち尽くすユウサクと、戦慄して動けないオナリスの姿だった。

 仲間たちがようやく追いついたようだった。

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