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『カオスノイズ:東京拠点化計画~拠点を東京に移し、自分を殺せる勇者の育成に励むことにしました~』  作者: 猫寿司
第3章 出発(たびだち)のバラード

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第五話:英雄の凱旋と、因果応報の清算

誇らしげな「英雄」の凱旋


「見たか! これがザ・ベラの救世主、大魔導士ネネさんの実力だ!」


 ザ・ベラのメインストリートを、ユウサクはこれ以上ないほど胸を張って闊歩していた。

 その肩には、岩山に君臨していた「火とかげ」の巨大な首が担がれている。返り血と煤でドロドロになり、服もボロボロの無惨な姿。しかし、その手で高々と掲げられた「竜」の首――剥き出しの牙と、死してなお熱を帯びた黄金の瞳を持つその頭部は、何よりも雄弁に彼らの勝利を物語っていた。


「おい、あれを見ろ! 火とかげ……いや、もはや竜じゃないか! 本当に討ち取ったのか!?」

「信じられない……。あんなデカい首を担いで……あの男、何者なんだ?」


 沿道の人々が、畏怖と感動の混ざり合った声を上げる。ユウサクはそれらの視線を一身に浴びながら、わざと大げさに竜の首を掲げ直した。首から滴る血がユウサクの頬を汚すが、彼はそれを拭おうともしない。これこそが巨大な功績を上げた勇者の歩む道、成し遂げた者だけが許される栄光の凱旋なのだ。


「当然だろ! 俺がしっかりサポートして、ネネさんの究極魔法をぶち込んでやったんだ! これでこの街に平和が戻るぞ!」


 ユウサクはギルドの受付に辿り着くなり、その重厚な首をカウンターへ誇らしげに叩きつけた。


 ドォォォォン!!


 ギルド内は一瞬の静寂ののち、地鳴りのような歓声に包まれた。国が放置していた災厄を打ち倒したのだ。人々が興奮し、ネネを、そしてその「相棒」を称賛するのは、当然の帰結だった。


栄光の「謁見」と、新たな依頼


 この功績は、すぐに街の最高層へと届いた。国が長年手をこまねいていた難題を、たった二人で解決したのだ。王が動くのは必然だった。


 翌日。ユウサクとネネは、城の重厚な門をくぐり、豪華絢爛な「謁見の間」へと足を踏み入れた。


「これより、竜を討伐せし英雄、ネネ殿の表彰を行う!」


 儀典官の声が響き、ネネは緊張で顔を強張らせながらも、レッドカーペットを進む。ユウサクはその数歩後ろで、満足げに周囲を見渡していた。玉座に座る「王」は、どこか人形のように整った顔立ちで二人を迎え入れた。


「勇気ある魔導士よ。そなたの功績により、この地は救われた。その栄誉を称えよう」


 王がネネの首に立派な勲章をかける。だが、表彰が終わると同時に、王の隣に控えていた大臣が一歩前へ出た。


「ネネ殿、そしてその従者よ。王より、折り入って頼みたい儀がある。ここザ・ベラより南に位置する『バトマニア』……そこからの連絡が途絶えたのだ。何が起きているのか、様子を見に行ってはくれぬか?」


 その言葉に、周囲にいた他の大臣の一人が慌てて口を挟んだ。


「王様! このような素性も知れぬ見ず知らずの平民なぞに、国の命運に関わる調査を任せるなど、あまりに無謀でございます!」


「よいではないか」


 王は事も無げに、大臣の反対を退けた。


「竜を屠る実力があるのだ。それ以上の信頼が必要か? ……ネネよ。もしこの件を解決したならば、報酬はこの城の宝物庫から、好きな『宝』を授けよう」


「……お城の、お宝……」


 ネネの目が、野心に揺れる。ユウサクは背後からその様子を見つめ、確信していた。

(これだよ。悪い奴を倒して、王様に信頼されて、次の冒険へ。完璧なファンタジーだ)


親愛と復讐の「変化する魔法」


 表彰式を終え、二人はネネの自宅へと戻った。

 そこには、赤ら顔でガリガリに痩せ、ハゲ上がった頭を光らせた父親が、酒瓶を片手に待ち構えていた。


「お父さん! お父さんのおかげで、王様に表彰されたよ!」


 ネネはこれまでにないほど明るい声で、駆け寄った。


「大好き、お父さん。お礼に、お父さんが幸せになれる魔法をかけてあげるね」


「へっ……勲章じゃと? そんなもん、一文の金にもならんわ!」


 父親は不遜な態度で娘を睨みつけ、吐き捨てた。だが、ネネは微笑みを崩さない。彼女の手には、ユウサクが提案した理論を組み上げた杖が握られていた。


「……万象の源流よ、集いて組み直せ。我は命じ使役する。其は幼き乙女の形を司り、君臨せよ――『変化する魔法』!!」


 刹那、部屋の中をまばゆい光が満たした。


 ボォォォォンッ!!


 煙が晴れると、そこにはあのみすぼらしい父親の姿はなかった。代わりに、絹のような肌と長い睫毛を持つ、年端もいかない可憐な少女が、酔っ払ったまま呆然と座っていた。

 自分の姿が変わったことにも気づかず、鼻を鳴らしている。


「お父さんはここで待ってて。……さあ、商談に行こうか、ゆうさくさん」


因果応報の「商品」


 ネネは、少女となった父親の手を優しく引き、そのまま大家の元へと向かった。

 何も分からず、ただ幸福感に包まれている「父親」の隣で、ネネは大家――あのニョマニアと対峙する。


「……ほう、これはまた、ネネよりずっと素晴らしい逸材じゃないか!」


 大家は少女(父親)を舐めるように眺め、鼻の下を伸ばした。これなら借金帳消しどころか、追加の金貨を積んでも惜しくない。


「今まで育ててくれてありがとう。……だいすきだよ」


 ネネは少女の頬に優しく口づけすると、その手を離し、大家の腕へと押しやった。何も分からず、ただ新しい飼い主に引き取られていく「商品」を背に、ネネはユウサクの元へ戻る。


「……三日で魔法が切れるわ」


 ネネは冷めた声で、小声でユウサクに囁いた。


「明日一番で、この町を出るわよ。それまでに用意をしておいて」


 ユウサクは、その光景を満足げに眺めていた。

 自分を売ろうとした親が、より高い価値の少女として売られていく。やられた分を倍にして返す、完璧なフェアトレード。


「いいことしていれば、きっといつか、本物の勇者に会える。……ネネさん、君もこれで本当の自由だね」


 ユウサクは満面の笑みで、新たなクエストの地「バトマニア」へと続く空を見上げた。

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