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『カオスノイズ:東京拠点化計画~拠点を東京に移し、自分を殺せる勇者の育成に励むことにしました~』  作者: 猫寿司
第3章 出発(たびだち)のバラード

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第四話:灼熱の岩山と、焦げた救世主

背水の陣の討伐行


 ザ・ベラの街外れにそびえる荒々しい岩山。その中腹を目指して歩きながら、ユウサクは隣を行く小さな背中に問いかけた。


「ネネさん。借金が帳消しになってお釣りがくるほどの賞金首……巨大な『火とかげ』。どうして今まで、腕利きのあんたが一人で倒しに行かなかったんですか?」


 ネネは杖を握りしめ、苦い表情で吐き捨てた。


「無理よ、あんなの生物の枠を超えてるわ。熟練のパーティが十人がかりで挑んでも全滅するって言われてるのよ。ギルドで募集しても誰も組んでくれない……。国だって『月に一人誰かを食べさせれば大人しくなる』って、生贄を黙認して放置してるんだから」


 ネネの瞳に、悲壮な決意が宿る。


「……あたしも、このまま大家の変態マニアに体を弄ばれるくらいなら、死ぬ覚悟を決めたわ。今日、あたしの全魔力を込めた究極魔法を試して、それで死ぬ。それがあたしの最後よ」


「やだな、そんな縁起でもないこと言わないでくださいよ。死ぬなんて禁止です。俺が……僕がなんとかしますから」


 ユウサクは腰に差した、あの「大家から貰った手斧」を軽く叩いて見せた。


究極のファンタジー、究極 of 熱線


 岩山の山頂を乗り越えた瞬間、ユウサクは思わず足を止めた。

 視界の先に、溶岩のように赤黒く脈打つ巨体があった。


「……うわ、でっか……。こわっ……」


 火とかげが、剥き出しの牙を鳴らして唸っている。


「……うわっ、すっげぇ! 本物かよこれ、解像度高すぎだろ!」


 ユウサクは、目前の怪物を前にして、恐怖よりも先に感動を漏らした。自分を殺そうとしている猛獣ではなく、最新鋭の映画の特撮でも見ているような、完全な他人事の興奮だ。


「見てよネネさん、あの鱗! CGじゃ絶対出せない質感だよ。本物のファンタジーはやっぱり迫力が違うなぁ。口の端から火花まで出しちゃって、演出も凝ってるし!」


 巨大な顎が、暗黒の洞窟の入り口が開くように、ゆっくりと展開されていく。


「お、大きく開いたな! 喉の奥まで丸見えだ。サービス満点だなぁ……あんなに口を開けて、これから何が始まるんだろう。……ん? なんだか、どんどん眩しくなってきたぞ。」


 ユウサクがその光景を悠然と眺めていた瞬間、火とかげの喉の奥に、太陽の欠片を凝縮したような光が灯った。


「え!! ちょっ!! ターゲット、俺かよ!!? まさか自分を狙って……!!?」


 ――ドォォォォォン!!


 ごぉぉぉぉぉ! と凄まじい咆哮と共に、巨大な火柱がユウサクを飲み込んだ。

 直撃だった。周囲の岩がドロドロに溶けるほどの超高温が、他人事として観察を続けていたユウサクの地点を完全に焼き尽くす。


 やがて炎が収まると、そこには衣服をチリチリに焼かれ、全身煤だらけになったユウサクが、呆然と立っていた。


「熱っ!! 熱いですよこれ! 殺す気かよ!! 普通に中継見てる気分だったのに!!」


 ユウサクがパニックで走り回る中、ネネは遥か上空で呆然としていた。


「え!!? ね、ネネさん、いつの間に空に!? ず、ずるいーーー!!」


 ネネは浮遊魔術で避難していたが、それ以上に、丸焼きにされてなお五体満足で騒いでいるユウサクに戦慄した。


「……あなた、どんな防御魔法をかけているのよ!? 規格外すぎるわよ、そのタフさ!!」


「知らないよ、そんなの!! とにかく早くなんとかして!!」


凍てつく究極、転じて泥臭い一撃


 ユウサクが地面を転げ、なりふり構わず逃げ惑う。その無様な「時間稼ぎ」は、期せずしてネネに究極の好機を与えていた。


(……信じられない。あの火柱を浴びて生きてるなんて。喜びを爆発させたいけど、おかげで時間が稼げたわ……!)


 ネネは杖を天に掲げ、全身の魔力を注ぎ込む。ユウサクが火とかげの注意を惹きつけている間に、大気中のASG粒子がネネの杖の先で臨界点まで練り上げられていく。それは彼女が長年温めていた、一度も成功したことのない「試作段階の超攻撃魔法」だった。


「……天に舞う湿気よ、空ろなる渇きを癒せ。万象を凍てつかせ、命の鼓動を永久の沈黙へ誘え! 【究極極大凍結魔法:グレイシャル・ドラゴン・バースト】!!」


 ユウサクの逃走によって十分な準備時間を経た魔法は、ネネの想像を超える密度で完成した。空中の水分が一瞬で凝縮され、巨大な氷の龍へと姿を変える。その圧倒的な質量と冷気が、火とかげを逃さぬよう上空から降り注いだ。


 ――ドォォォォォンッ!! ぐさぁぁっ!!


 氷山のような塊が火とかげの背中に突き刺さる。

「ぐえええええええ!!」

 火とかげは血を噴き出しながら、苦し紛れに逃げ惑うユウサクをその巨体で踏みつけた。


 緊迫した場面。

 手負いの火とかげと、空中に留まるネネが互いに隙を窺い、視線で激しく牽制し合う。


 その巨大な足元では、踏みつけられたユウサクが「痛い痛い! 重いって!」と声を上げながら、鋭い鉤爪の隙間で必死にじたばたと暴れていた。

 死なないまでも、その圧倒的な質量に押し潰され、身動きが取れずにいたのだ。


 そんな膠着状態の中、ユウサクは関節をありえない方向に曲げながら、ヌルリと隙間から這い出してきた。


「……よいしょ。危ないなぁもう。もうちょっと配慮して動いてくれよ、このトカゲ」


 ユウサクは手にした手斧を無造作に振り上げた。

 あの大家から貰った、ごく普通の、いや、大家にとってはただの凶器だったはずの斧だ。


 ――ズバッ!!


「……え?」

 ネネの時が止まる。

 熟練のパーティの剣でも傷ひとつつかなかった火とかげの強固な脚が、まるで柔らかいバターのように、ユウサクの手斧一本で真っ二つに切断されたのだ。


「あわわ、ネネさん、今だ!!」


 ネネは開いた口が塞がらないまま、我に返り、火とかげの剥き出しになった切り口へ向けて、残る魔力をすべて雷撃に変えて放った。


「――落ちろ!!」


 凄まじい雷光が傷口を焼き、数秒後。

 そこには、内側から黒焦げになった巨大な「火とかげの残骸」が横たわっていた。


「……うそ……」


 着地したネネは、腰を抜かしたまま火とかげを見つめた。

 どんな魔法も弾き、どんな名剣も通さなかったあの鱗を。

 あんな、どこににある錆びかけの斧で……。


 ネネは震える瞳で、煤だらけのまま「服がボロボロだよ……」と愚痴をこぼしているユウサクを凝視した。


「……あなた、本当に何者なの……?」


 強いのか、弱いのか。

 救世主なのか、それとも。

 ネネの不信感と驚愕は、もはや処理しきれない領域に達していた。

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