第16話「異形の親愛と、永き眠りの果て」
乱入する「娘」の渇望
品川浄化ゲートの最上層。ユウサクがスライムとなってアナスタシアとシズクを包摂し、混濁した快楽の渦を作り出している玉座の間へ、重厚な扉を押し開けて一人の少女が踏み込んできた。
「お父様、ずるいです」
四枚の羽を苛立たしげに羽ばたかせ、薄緑の肌を露わにしたレアが、熱気を帯びた空間を見渡して唇を尖らせた。彼女の瞳には、生存競争を勝ち抜いた者特有の、純粋で飢えた色欲が宿っている。
「レアも混ぜてください。お父様の精髄、レアも欲しいです」
彼女はスライム状のユウサクの表面に歩み寄ると、膝をついて顔を近づけた。そのまま、質量の一部が人間の形を保っているユウサクの口元へ、強引にディープキスを迫る。
(……待て、困った。レア、お前はお父様って呼んでるだろ!?)
スライムの内部で、ユウサクの意識が激しく拒絶反応を起こした。
シズクはもともと部下であり、アナスタシアは敵だ。だが、レアは自分の細胞から生まれた、いわば「娘」のような存在だ。そんな相手に直接手を出すのは、いくら魔王の身体であっても、ユウサクの内に残る「現代日本人」の倫理観が悲鳴を上げていた。
「レア、だめだ. 今は……その、手が離せなくてね. そうだ、ショウゴ. あそこに転がっているショウゴさんを相手にしてあげなさい. 彼は……その、修行中なんだ」
ユウサクはスライムの触手で、老婆ユリイケとの強制的な行為を終えてぐったりと倒れ込んでいるショウゴを指差した。
異質の生殖:寄生の卵
「ショウゴ、ですか。……わかりました。お父様の代わりなら、この男で試してみます」
レアは感情の起伏が少ない声で答え、這いつくばるショウゴへと歩み寄った。
「な、なんだ……!? ひ、ひぃっ……やめろ、来るなッ!!」
ショウゴは迫り来る異形の少女に恐怖し、後ずさろうとする。だが、レアの細い腕には、城の壁面すら粉砕する暴力的な筋力が宿っていた。彼女はショウゴの足を掴んで強引に引きずり戻すと、彼の腰を高く持ち上げ、無防備な背後を曝け出させた。
「っ……あぐぅッ!? な、何をするつもりだッ!?」
ショウゴが絶叫する中、レアの腰のあたりから、肉を突き破るようにして一根の長く、鋭い「産卵管」が突出した。
「じゅぷ……じゅるりッ!!」
レアは、ショウゴの窄まったお尻の穴へとその管を容赦なく突き立てた。
「ぎ、ぎゃああああああああああッ!!? そ、そこは、入る場所じゃ……あああああぁぁぁッ!!」
ショウゴの絶叫が玉座の間に突き抜ける。レアは無機質な表情のまま、ショウゴの体腔へと「生体卵」を次々と送り込んでいく。それはショウゴの肉体を内側から「苗床」へと作り変えるための寄生種だった。
ショウゴは内側を異物で埋め尽くされる感覚に、目を剥いてよだれを垂らし、激しく身をよじった。
「お父様。……これ、すごく気持ちいいです。この男の熱が、私の卵に吸い込まれていきます」
(……うわぁ。人間と生殖方法が全然違う。産卵管ってお前……。でも、正直、自分があの相手をしなくて本当によかった。セーフだ)
再構築の完了と、勇者の射出
やがて、混濁した蹂躙の時間が終わりを告げた。
脈動するスライムの中から、一体の完成された「資産」が静かに這い上がってきた。アナスタシアだ。再構築を終えた彼女の姿は、植物の百合を模したような幻想的な出で立ちへと変貌しており、恐ろしいほどに美しく、可愛らしい。
ユウサクはスライムを解き、再び人の姿に戻った。
彼は城に命じて吐き出させた「鉄の吐瀉物」――忌まわしき武具たちを手に取った。
「ショウゴ、これがお前の『剣』だ。ヨルダン、お前にはこの『杖』をやる。ユリイケ、お前はこの『マント』を羽織れ。……君たちの復讐の旅に、相応しい装備だろう?」
ユウサクは拒絶する彼らに無理やり装備を押し付けると、城の射出機構を起動させた。
「……カオス城。こいつらを空へ放り出せ。射出だ」
ズゥゥゥゥゥン!!
ショウゴ、ヨルダン、ユリイケ。魔王への殺意を植え付けられた三人は、弾丸のように品川の空へと射出され、地平の彼方へと消えていった。
「……シズクさん、浅葱さん。疲れました。寝かせてください」
ユウサクは力なく玉座に腰を下ろした。
「お二人とも。勇者をそだてるのですよ。壊してはだめです。いつかライバルが生まれたら、本気を出します。それまで、この世界を壊さないでくださいね。……では、私は休みます」
ユウサクは、閉じていく瞼の裏で自問する。
(やっぱりだめだ……非道なこと、僕にはできないよ。……しちゃったけど。こんだけ酷いことをしたんだ。きっと僕を殺してくれる人があらわれる。……寝て待とう、時が過ぎるのを……)
魔王ユウサクは、深い、深い眠りの中へと沈んでいった。
数年後の覚醒:変わり果てた世界
眠りの中で、ユウサクは意識し続けていた。
一向に現れない。自分を殺しに来る勇者が、いつまで経っても現れないのだ。
「どういうことだろう……」
どれほどの時間が流れたのか。不意に、耳元で凛とした声が響いた。
「魔王様。魔王様。いい加減おきてください。世界もだいぶ整えましたよ」
ユウサクは、重い瞼をゆっくりと押し上げた。そこにいたのは、より洗練された美しさを纏ったシズクだった。
「……シズク。何もかわっていないではないか」
玉座の間の光景に変化がないことに、ユウサクはぼんやりと呟いた。しかし、シズクは淑やかな微笑を浮かべて首を振る。
「はい。私たちは変わりませんが……人間どもの世界は、様変わりですわ」
シズクに導かれ、ユウサクは城の窓から外を見下ろした。
そこには、彼がかつて夢想し、あるいは地底世界で目にしていた「剣と魔法の世界」のような光景が、見渡す限り広がっていた。
街には人間のみならず、多種多様な亜人種たちが闊歩している。だが、かつてユウサクが見たファンタジーとは、決定的に何かが違っていた。
人間たちは一様に、首に太い鉄の鎖を繋がれている。彼らはかつての支配者としての誇りを失い、主である亜人種たちに家畜のように引き連れられ、泥濘の中を歩かされていた。
人間が管理され、異形が支配する。ユウサクが望んだ「勇者の誕生」とは程遠い、魔王の理が完成された世界がそこにはあった。




