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『カオスノイズ:東京拠点化計画~拠点を東京に移し、自分を殺せる勇者の育成に励むことにしました~』  作者: 猫寿司
第2章:神か悪魔か!? 地獄にあらわれた最強の男

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第14話:白き塔の第一夫人

聖浄軍ピュア・オーダーの象徴たる白亜の巨塔『ホワイト・バベル』。

周囲の廃墟を拒絶するようにそびえ立つその塔の正面に、シズクは音もなく降り立った。

彼女は何の躊躇もなく、正面玄関から堂々と足を踏み入れようとした。


その異質な姿は、瞬く間にロビー中の衆目を集めた。

シズクが纏っているのは、純白のフリルがついた瀟洒なメイド服だ。この殺菌され、機能性のみを追求した場所にはあまりにそぐわない格好だったが、その整った容姿ゆえか、一見して「異形」と断定する者はいなかった。ただ、場違いな美貌の侵入者に、誰もが言葉を失っていた。


シズクは迷いのない足取りで受付カウンターへと進み、そこに座る女性職員を真っ直ぐに見据えた。


「そこのあなた。ショウゴさんはいらっしゃいますか?」


鈴の鳴るような、だが有無を言わせぬ響きを伴った問い。受付の女性は、困惑しながらもマニュアル通りの対応を返した。


「……どちらさまでしょうか? ご予約は――」


その瞬間、シズクの眉間に深い不快感の皺が寄った。


「私が先に聞いたのに、聞き返された……? イラッ」


「え?」


返答を待たず、シズクはカウンターを乗り越えるようにして女性の細い首を掴み、片手でそのまま軽々と持ち上げた。


「失礼ですわ。私が先に聞いているんですよ。先になまえを名乗れとか、笑止千万ですわ」


足が宙に浮き、顔を真っ赤にして悶絶する職員。周囲にいた武装警備員たちが一斉に殺気立ち、武器を構えてシズクを取り囲むが、彼女はぴくりとも動じない。


「あ……が、は……っ」


シズクは不意に手の力を抜くと、女性を床に落とした。そして、自らの乱れたスカートの端を整えると、淑やかな微笑を湛えて言い放った。


「わかりましたわ。わたくしも礼儀を重んじなければなりませんわね。……わたくしは、魔王カオスの王ことユウサク様の、第一夫人であります!」


ドンッ、と不可視の圧力がロビーを震わせる。

だが、聖浄軍の職員たちに目立った反応はない。メイド服を纏った少女が「第一夫人」を名乗るという冗談のような事態に、周囲の思考が停止しているのだ。


「反応がない……おかしいですわね。夫人の名乗りなのに。……やはりメイド服だからでしょうか。これ、気に入っているんですけれど……」


シズクが真剣に思案していると、横から警備員が特殊警棒で彼女の肩を力任せに叩いた。


「ガァンッ!」という硬質な音が響く。


「うるさいですわよ」


シズクは眉一つ動かさず、警棒を叩きつけた男の胸を指先で一突きした。それだけで男の防弾装甲はひしゃげ、絶命して吹き飛ぶ。

次々と押し寄せる警備員たちが団子状態になって彼女を止めようとするが、シズクはそれらを一顧だにせず、人間たちの塊を引きずりながら、再び受付の女性の髪を掴んで引き寄せた。


「さて、どこなのかしら。ショウゴさんの部屋は」


「あ、あ……わ、わからない、私のような立場では……っ!」


首を振る女性。シズクは業を煮やし、周囲にたかる警備員を一人ずつ、ゴミでも捨てるように握り潰していく。


「わからない、ですか。……うーん。じゃあ、この塔で一番偉い方はどなたかしら? そこへ案内して。……あなた、お名前は?」


「ア、アナスタシア……です……」


「アナスタシア。いい名前ですわ。とってもショートカットが似合うわよ」


恐怖に震えるアナスタシアの短い髪を撫でながら、シズクは血と残骸で汚れた大理石の床の上を、楽しげな足取りで奥へと進んでいった。


昇降機の遊戯と「資産」の選別


「『エレベーター』というんですの、これ。……ふふっ、ボタンを。ほう、面白いですわね」


シズクは上層階へと向かう昇降機の中で、無邪気な子供のように操作パネルを弄っていた。

その傍らでは、シズクに髪を掴まれ、全身を激しい暴行によってボロボロにされたアナスタシアが、死を待つような目で震えていた。彼女にとって不運だったのは、ただ一つ――シズクに目をつけられたことだった。


「ひ……っ、ひぃ……」


エレベーターが目的の階に到達し、扉が開く。アナスタシアは這うようにしてそこから去ろうとしたが、シズクの細い指先が再び彼女の襟首を、逃がさぬ蛇のように掴み取った。


「だめですわよ。あなたは綺麗だし、何よりその髪型、気に入りましたわ。……あなたは魔王様の『コレクション』になるのですわよ」


「あ、あぁ……嫌……助けて……っ!」


泣き叫び、引きずり回されるアナスタシア。シズクは彼女を道案内のガイド兼荷物のように扱いながら、塔の最上層に位置する支配者『ユリイケ』の執務室へと向かった。


執務室の「御開帳」


「あら、鍵がかかっていますわね」


重厚なセラミック装甲の扉の前に立ち、シズクは首を傾げた。アナスタシアが、ガタガタと歯を鳴らしながら絞り出すように言う。


「あ……アポイントメントが、ない、と……入れ、ませ、ん……」


「あら残念。……なら、壊すしかありませんわね」


シズクは気負う様子もなく、細い右足を扉の中心へと叩きつけた。


「――ドォォォォォォォンッ!!!」


爆鳴と共に、最新鋭の防護扉が蝶番ごと吹き飛び、豪華な執務室の内部が剥き出しになる。

粉塵が舞う中、シズクは室内の光景を真っ正面から捉えた。


そこには、全裸になったショウゴが、同じく全裸の女――この塔の主であるユリイケの秘所を愛撫している最中だった。


「あら、やだ。……御開帳ですわね」


シズクは呆れたような、それでいてどこか面白がるような声を上げた。

ショウゴは突然の乱入者に愕然とし、ユリイケは羞恥と恐怖に顔を歪ませる。だが、シズクにとって彼らの情事など、どうでもいいことだった。


「困りましたわ。……三人いっぺんに持って飛べるかしら」


シズクは独り言を呟くと、一歩、二歩と室内へ踏み込んだ。

そして、戸惑うショウゴの首根っこを左手で、ユリイケの髪を右手で、それから足元で震えるアナスタシアを脇に抱え込んだ。


「――っ!? な、何をする、貴様ッ!」


「お静かに。魔王様がお呼びですのよ」


シズクは抵抗する三人を強引にまとめて掴み上げると、背中の黒い翼を大きく広げた。

バサリ、と力強く羽ばたき、シズクは破壊された執務室の窓から、品川の夜空へと一気に飛び去っていった。

ホワイト・バベルの頂点から、魔王の「資産」となるべき三つの獲物を抱え、彼女は意気揚々とカオス城へと帰還する。


幕間:月下の猟犬と堕ちた騎士


一方、品川の廃墟が落とす長い影の中、浅葱は月光を浴びながら、獲物を狩る猫のような足取りでヨルダンを追い詰めていた。


「……ハァ、ハァ、ヒィッ……!」


血相を変えて逃げ惑うヨルダンの背後から、パチン、と規則正しく扇子を閉じる乾いた音が響く。


「カカッ……。どうせ捕まえるなら、最初から逃がさねばよかったものをな。ユウサクの奴め、優柔不断にも程があるわい。わらわの手間を増やしおって」


浅葱は、逃げる男の絶望を味わうように、わざとゆっくりと距離を詰める。


「ふぁわ……、眠いのう。そろそろ終わらせるか」


大きく欠伸を漏らした彼女が影を跳ねた瞬間、ヨルダンは袋小路に追い詰められた。


「ひえ、ひえぇぇーっ! 来ないでくれ、化け物ッ!」


情けない悲鳴を上げるヨルダン。だがその時、浅葱の背後、崩落した壁の陰に潜んでいた聖浄軍の生き残りたちが、一斉に引き金を引いた。


「――ガガガガガッ!!」


数条の銃弾が浅葱の無防備な背中に着弾し、火花と衝撃が彼女の小さな身体を揺らす。だが、浅葱は顔を顰めることさえなく、面倒そうに首を回した。


「……やめていただけないかしら。痒いですわよ」


振り向くことすら億劫だと言わんばかりの冷徹な一言。

浅葱は、指先を扇子のように広げた。その先端から、月光を反射して銀色に煌めく極細の「糸」が、蜘蛛の巣のように射出される。


「あ……が、あぁぁッ!?」


糸は空中で意志を持つ生き物のように広がり、銃を構えていた兵士たちを一瞬で絡め取った。鋭利な糸は装甲ごと肉に食い込み、彼らを壁面に生け贄のように縫い付ける。


「さて、お主もついでじゃ」


逃げ出そうとしたヨルダンの四肢もまた、不可視の糸によって地面に縫い止められた。


「兵士どもも城に連れて帰ろうかしら……。いや、やめましょう。運ぶのは面倒じゃからのう。代わりに……少しばかり『つまみ食い』でもするか」


浅葱は、糸で固定され、恐怖に顔を歪ませる兵士の一人の元へ歩み寄った。彼女はその細い腕で男の右腕を掴むと、あどけない少女が菓子を食べるような無造作さで、その肉と骨をガリりと噛み砕いた。


「――っ、ぎゃあああああああ!!」


深夜の廃墟に、絶叫が突き抜ける。

浅葱は返り血を浴びた口角を釣り上げ、狂気の嘲笑を浮かべた。そのまま、糸に縛られ抵抗できない男の背後へと回り込み、凄惨な蹂躙を開始する。肉が裂ける音と、男が獣のような悲鳴を上げながら壊れていく様。


その地獄絵図を、ヨルダンは至近距離で、瞬きすることさえ許されず、ただただ恐怖と共に直視させられていた。


「さて、お主は魔王様の元へ連れて行かねばならぬな。……よい子にするのじゃぞ?」


浅葱は、精神を病み白目を剥いて泡を吹くヨルダンを、無造作に脇に抱え上げた。彼女は凄惨な宴の余韻を楽しみながら、夜の闇に溶けるようにしてカオス城へと帰還するのだった。

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