第8話「拠点の定礎と異形の咆哮」
崩壊へのカウントダウン
「……じゃあ、しばらく横浜を拠点にするか」
ユウサクは、血とオイルが混ざり合った廃墟の匂いを吸い込み、力なく呟いた。
地面には、尊厳を徹底的に破壊され、ただの「肉の器」へと成り果てたヨルダンが転がっている。その傍らでは、儀式に供された女性たちが、魂が抜けたような目で虚空を見つめていた。
(……だめだ。こんなことが続けば、世界が崩壊する)
ユウサクの内心は、かつてないほどの焦燥に駆られていた。
自分が一言「殺さないでくれ」と言っただけで、死よりも凄惨な地獄が生まれてしまった。自分が「ラーメンが食べたい」と願えば街が滅び、「熟女が好きだ」と言えば拉致と凌辱が始まる。
魔王という名の、あまりにも重すぎる理不尽な力が、自身のコントロールを離れてこの世界を確実に食い破ろうとしていた。
資源の有効活用
一方、浅葱は転がっている兵士たちの死体や、震えながら生き残っている人間たちを、値踏みするように眺めていた。
「ふむ……もったいないのう」
浅葱がポツリと漏らした。
「もったいないって、何がですか……?」
「これほどの質量とエネルギーが、ただ転がっておる。放置しておけば、腐って地に還るだけ。ならば、わらわたちの『糧』として、あるいは『苗床』として再構築すべきじゃ。……ユウサク、城を呼ぼうぞ」
「……え、ここへ呼ぶんですか? スタジアムに置いてきたんじゃ……」
「あそこはもはや手狭じゃ。この街そのものを、わらわたちの庭とするのじゃ。……いくぞ」
異形の共鳴
浅葱は扇子を閉じると、その細い喉を大きく逸らせた。
「――――――――ッ!!!」
彼女の口から放たれたのは、人間の声帯では決して再現不可能な、異質な金属音だった。
キィィィィィィィン、と鼓膜を直接針で刺すような高周波. それは空気を震わせ、廃墟のコンクリートを共振させ、物理的な衝撃波となって周囲の建物の窓ガラスを粉々に砕いていった。
「う、うわあああああッ!! 耳が, 耳がぁッ!!」
ユウサクは耳を塞いで地面にのたうち回った。
その音は、ASG粒子を媒体として、横浜スタジアムに鎮座する「カオス城」へと確実に届いていた。
城の進撃と選別の儀式
大地が、巨大な獣の心音のように規則正しく、激しく揺れ始めた。
横浜スタジアムの方角から、廃墟となったビル群をなぎ倒し、巨大な肉の影が迫ってくる。
ズゥゥゥゥゥゥン……!!
地響きと共に現れたカオス城は、その巨大な質量で周辺を押し潰しながらユウサクの目の前まで進撃してきた。城の底面から無数の触手状 of 肉茎が伸び、周囲に転がる死体、機械の残骸、そして肉厚な肉壁を持つ城内へと、怯える生存者たちを容赦なく絡め取っていく。
ユウサクたちが城の内部、脈動する肉壁に囲まれた玉座の間へと足を踏み入れると、そこには既に「収穫物」が並べられていた。
城の壁面に並ぶ「くちのあな」が、ギチギチと金属を噛み砕く音を立てて開く. そこには兵士たちが遺した銃器や車両の残骸が次々と放り込まれ、火花を散らしながら城の構成物質へと変えられていった。
一方、粘液に濡れた「肉のあな」は、兵士たちの死体を飲み込み、その養分を吸収して城全体の脈動を速めていく。
「……ひっ、あああああ!」
生き残った捕虜たちは、その光景に失禁し、狂乱の声を上げた。
城は、生きた人間という「高密度の生命エネルギー」を前にして、狂喜に震えていた。壁面の肉孔からは甘ったるい粘液が溢れ出し、生きた素材を求めて蠕動している。生物的な悦楽が城全体を支配していた。
支配と妥協の選択
目の前で繰り広げられる無慈悲な「分別」を眺め、ユウサクはひどく疲弊した溜息を吐いた。
「……もう直視できない。……全員、解放してやってくれ」
ユウサクは顔を背け、絞り出すように言った。その言葉に、シズクが冷淡に首を振った。
「魔王様、それは承服しかねます。これらは城の成長に不可欠な『資産』です。理由もなく手放すなど、理にかないませんわ。……ですが、一つ妥協案を提示しましょう」
シズクは捕虜の中にいた一際気品のある女性――ヨルダンの妻、ミランダへと歩み寄った。
「この女、ミランダだけを永久的な捕虜として残し、ここで魔王様に『徹底的に分からせる』儀式を執り行う。……そして、それを他の者たち全員に『見せつける』のであれば、残りの雑兵どもは、今すぐ城の外へ排出して差し上げましょう」
「……見せつけるって、何のためにそんな……!」
「彼らの脳に刻み込むのです。自らの命を救ったのは、この女の尊厳が魔王様に踏みにじられる『苦痛』と『屈辱』であるという事実を。……さあ、魔王様、決断を」
ユウサクは、震えるミランダの肢体と、自分を救世主のように見つめる他の女性たちの目を交互に見比べ、奥歯を噛み締めた。
「……分かった。ミランダだけは、ここに残ってもらう。……始めろ」
ユウサクの宣告と共に、玉座の間の肉壁から無数の細い触手が伸びた. それはヨルダンや他の女性たちの手足を拘束し、強制的に玉座を囲むように配置した。彼らの瞼までもが触手によって吊り上げられ、瞬きすることさえ許されず、目の前の光景を直視させられる。
「ミランダ……! やめろ、見るな! 全員目を閉じろぉッ!」
ヨルダンが叫ぶが、その声は城の脈動にかき消された。
儀式と再構築の深淵
シズクに促され、ユウサクは機械的にミランダへと歩み寄った。感情を殺し、震える手で彼女のドレスを力任せに引き裂く. ビリビリと無残な音を立てて露わになったミランダの豊かな肢体は、夫や同胞たちの眼前で晒されている事実に、恐怖と恥辱で真っ赤に染まっていた。
ユウサクは彼女を肉の床に押し倒し、拒絶する声を無視してその中に深く、乱暴に突き入った。
「あああああぁぁぁ……ッ!! いや、やめて……あ、あぐぅッ!!」
淑女としての誇り高い声は一瞬で悲鳴へと変わり、観客となった捕虜たちの耳を刺した。ヨルダンへの操も、高貴な血筋のプライドも、夫の目前で無残に踏みにじられていく。
「ぐちゅ、じゅぷッ……!!」
ミランダの秘所からは、拒絶とは裏腹に、魔王の暴力的な質量によって強制的に引き出された蜜が溢れ、湿った卑猥な音を玉座の間に響かせた。ユウサクは、彼女の絶望的な喘ぎに耐え難いほどの自己嫌悪に襲われた。
(俺は……一体何をやってるんだ……!)
ユウサクの精神が限界に達した瞬間、彼の肉体が歪み、ドロドロとした黒い粘液状のスライムへと変貌を遂げた。魔王としての「欲望」と「慈愛」が入り混じったカオスの奔流が、ミランダの肉体を完全に飲み込み、その内部へと包摂していく。
「え、あ……身体が……溶けて……あ、ぁぁぁッ!!」
スライムとなったユウサクの体内で、ミランダの細胞一つ一つが書き換えられていく。その光景を、シズクは恍惚とした表情で見つめていた。
「ああ……美しい……。なんと素晴らしい純化でしょう」
シズクは、黒く透き通ったスライムの中で、ミランダの銀髪が波打ち、漆黒の羊の角が熱を持ってせり上がっていく様を凝視した。ミランダの肢体はスライムの養分を吸い上げ、その表面は生体繊維のメイド服へと編み上げられていく。
「羨ましい……。魔王様の内側で、これほどまで密接に、細胞の芯まで作り変えられるなんて。……ミランダ、あなたは幸せ者ですわ。あなたの記憶も知性も、すべて魔王様の一部として定義され直すのですから」
シズクの言葉は、熱を帯びた吐息混じりだった。彼女自身もまたユウサクから生まれた存在であるが、他者がこれほど深く彼に飲み込まれ、完成されていく様子に、拭い去れぬ羨望を抱いていた。
「あああああぁぁぁ……ッ!! いく、いっちゃう、あ、あああああああぁぁぁぁぁぁッ!!」
絶頂の衝撃と共にスライムの体内でミランダの『再構築』が完了した。行為が終わると同時に、シズクは未練を断ち切るように、冷酷に指を鳴らした。ヨルダンや他の捕虜たちは、魔王の快楽に染まりきったミランダの姿を脳裏に焼き付けられたまま、粘液と共に城の外へと「排出」されていった。
ユウサクが人間の姿に戻ると、その腕の中から、再構築を終えたミランダが静かに着地した。
羊の角を戴き、生体メイド服を纏った彼女の瞳には、かつての淑女としての理知と美貌、そして屈辱の記憶が鮮明に宿っている。
「……お呼びでしょうか、魔王様。ミランダ、これよりお側に仕えさせていただきます……めぇ」
その口から漏れたのは、知性を維持しながらも、本能的に刷り込まれた甘ったるい家畜の鳴き声だった。ユウサクは、かつての高潔さを保ったまま完璧な『資産』へと成り果てた彼女の姿に言葉を失い、ただ立ち尽くした。
背後では、新たな管理端末を手に入れたカオス城が、歓喜の咆哮を上げながらその巨大な多脚で大地を踏みしめ、次なる蹂躙へと歩みを始めるのだった。




