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『カオスノイズ:東京拠点化計画~拠点を東京に移し、自分を殺せる勇者の育成に励むことにしました~』  作者: 猫寿司
第1章:カオス城、大地を駆る!

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第2幕:侵食される胎内、制御不能の咆哮

侵食される胎内、制御不能の咆哮


「うるさいっ、静かにしなさいと言っているのが分からないの!?」


カオス城の最深部、玉座の間。ユウサクの耳を劈くのは、鼓膜を刺すようなシズクの怒声と、城そのものが上げる不気味な鳴き声だ。

今、この城は「緊急事態」の最中にある。


玉座に深く腰を下ろしているのは、本来の主であるユウサクではない。その右腕たるシズクだ。


玉座から無数に伸びた神経の管が、蠢きながらシズクの全身へと接続され、制御の負荷を一身に引き受けている。

「くっ……あああああッ!」

シズクはその過負荷に顔を歪め、のけぞりながらも必死に咆哮を上げる城を御そうとしていた。


その玉座のすぐ横では、ユウサクが所在なげにちょこんと体育座りをして縮こまっている。

「……シズク、大丈夫かよ。そんなに繋がれて、壊れたりしないのか?」

「だ、黙って……見ていてくださいまし……ッ! この程度の駄馬、わたくしが……ねじ伏せてみせますわ!」


カオス城。それは、無機質な石材と機械の残骸に、浅葱が「生命いのち」を吹き込んだ異形のハイブリッド生命体だ。だがその生命は、今や城そのものを内側から「侵食」し始めていた。


石造りの壁には血管のような筋が浮き上がり、ドクンドクンと不気味な脈動を繰り返している。

天井からは冷たい塵ではなく、粘り気のある汗のような液体が滴り落ち、機械の歯車が噛み合うたびに、生き物の骨が砕けるような生々しい音が響く。


「ヒヒィィィンッ!」


突如、城全体が巨大な馬がいななくような震動を伴って咆哮を上げ、激しく跳ねる。


ユウサクは玉座の脚に必死にしがみつき、胃の辺りが浮き上がるような激しい上下動に耐えている。工場で巨大クレーンが暴走した時ですら、これほどの絶望的な質量を感じることはなかった。


通路の奥から、消火器を抱えたルカが涙目になって叫びながら、そしてその背後からルナが冷静な足取りで飛び出してくる。


先ほど着弾したミサイルの熱と衝撃が、ついに城の深奥にまで牙を剥いたのだ。装甲を貫いた火の手が、剥き出しになった神経回路を焼き、玉座の間の隅々から赤黒い炎が噴き出している。


「あわわ、燃えちゃう! 城が焼け落ちちゃうよぉ、どうしよう!!」


ルカは絶叫しながら、パニック状態で闇雲に消火剤を撒き散らして右往左往している。対照的に、ルナはすすで顔を汚しながらも、鋭い眼光で火元を的確に見極め、無駄のない動きで炎を封じ込めていく。


「アハハハハハッ! 素晴らしい、実に見事な生命の躍動ではないか!」


その喧騒をあざ笑うかのように、浅葱の高笑いが城内に響き渡る。

彼女は激しく揺れる床の上で、全裸のまま優雅に舞うように立ち尽し、混沌とした情景を心底楽しそうに見つめている。

「燃えよ、猛れ! これこそがわらわの求めた、停滞なき生命の熱量なのじゃ!」


この時、外から見た城の姿は、もはや悪夢そのものだ。

優美な建築物としての外郭は筋肉のように波打ち、基部からは数十本の巨大な「石の脚」が、節足動物のように不規則に突き出している。

巨大な質量が大地を叩くたび、岸壁は火花を散らして崩落し、逃げ遅れた森の獣たちが悲鳴を上げる暇もなく踏み潰されていく。

城の窓からは黒い煙ではなく、生き物の呼気のような熱い蒸気が吹き出し、その巨体が動くたびに周囲には小規模な地震と凄まじい土煙が巻き起こっている。


シズクは今、この肥大化した「半生命体」の未熟な意志と正面から対立し、飲み込まれそうになる自我を必死に繋ぎ止めている。

無機物から生まれたばかりの巨大な肉体は、自らの力を制御できず、ただ本能のままに大地を蹴り、無軌道に暴れ回っているのだ。


ユウサクは、激しい縦揺れと立ち込める熱気の中で、ただ必死に玉座の脚にしがみついている。

(……死ぬ、死んでしまう! 工場のボイラーが爆発した時だって、こんなに熱くはなかった! 一体、どうなっちまうんだよ!?)


窓の外で、先ほどまで立っていた世界が物理的に削り取られ、大樹が折れる凄まじい衝撃が、ダイレクトにユウサクの脳を揺さぶり続けている。


シズクの咆哮、餌という名の甘い蜜


「いい加減にしなさいッ!」


ついにシズクの堪忍袋の緒が切れる。

彼女は神経束に繋がれたまま、玉座に座った状態で、城の心臓部ともいえる石の床を思い切り踏み抜いた。


「ドンッ!」


凄まじい打撃音が城内に響き渡り、火炎を消し止めていたルカがその衝撃でひっくり返る。一瞬、城の動きが完全に止まる。

シズクは乱れた髪を振り乱し、血管が浮き出た首筋で城の意志を真っ向からねじ伏せようとしている。今の彼女からは、ユウサクですら気圧されるような強烈な圧が放たれている。


「いいですか、聞きなさい! おとなしく言うことを聞いて、このまま東京の隔離ドームまで走りなさい! そこまで行けば……そこには、あなたが今まで食べたこともないような、おいしい人間が山ほどいますわ!」


「ドンッ!」ともう一度、激しい踏みつけが床を鳴らす。


「餌につられたのか、それとも今の私が怖いのか……どちらでも良いですわ。いいからそこまで走りなさいッ!」


その言葉が効いたのか、カオス城は一瞬「ブルルッ」と身震いをしたかと思うと、よろよろと方向を定め、再び地面を力強く踏みしめる。

今度は無軌道な暴走ではない。獲物の臭いを追う捕食者の、よろめきながらも確固たる足取りだ。


「……シズク、お前、今すごい顔してたぞ」

ユウサクが引き気味に声をかけるが、シズクは額の汗を拭いながら満足げに微笑む。

「魔王様、しつけにはアメとムチが必要ですのよ」


追撃を振り切り、ドームの壁へ


カオス城が「カサカサ、カサカサ」と、多脚特有の不気味な音を立てて本格的な加速を始める。

背後からは、ショウゴ率いる聖浄軍の追撃部隊が放ったミサイルが、いくつもの煙の尾を引いて迫っている。


その様子を、崖の上から見下ろすショウゴは、震える唇を噛み締めていた。

「見苦しいな……。星の静脈を逆流する汚泥が、生命の真似事をするとは。その不協和音、私の世界の調律には不要だ」


自らが放ったミサイルの炎を突き抜け、むしろ加速していく城の躍動に、ショウゴのプライドはズタズタに引き裂かれる。エリート軍人としての冷静沈着さはどこへやら、彼は自らを嘲笑するように呟いた。


「……功を焦りすぎたな、私は。認めがたいものだな。正解を求めたはずのこの手が、私自身の内にある『愚かさ』を暴き出してしまうとは。」


だが、その絶望はすぐに苛烈な殺意へと変わる。


「……だが、このまま幕を引かせるつもりはない。私の聖域を汚した不純物には、等しき虚無を与えてやろう。私の庭を汚した落とし前は、きっちりとつけてもらおう」


ショウゴは背後に待機していた大型のコンテナへと歩み寄る。システムが作動し、重厚なハッチが左右に開く。そこにあるのは、全高約3メートル。人型ロボットの系譜を継ぐその純白のボディーは、一切の汚れを拒絶するような冷徹な輝きを放っている。


「起動せよ、ホワイト・グレイブ。正解という名の絶対的な暴力で、その醜悪な混沌を永遠の沈黙へ。……葬送を飾るのは、やはりこの『純白』が最も相応しい」


ショウゴが機体内部へ滑り込むと、流線型の装甲が吸い付き、神経系と核融合炉が直結される。


「来てるぞ! 右から二発!」

城内ではユウサクの叫びに合わせ、城が巨大な身をよじるようにして爆風を回避する。回避のたびに発生する凄まじい遠心力。ユウサクは玉座の足元に身体を押し付けられ、全裸の肌に冷や汗をにじませている。


軍服を脱ぎ捨て、ぴっちりとしたパイロットスーツを纏ったショウゴの瞳が、機体と同調して青白く発光する。


そして、前前方には巨大な「壁」が見えてくる。

東京を隔離する巨大なドーム状の障壁。物理的な接触を拒むヘスティアの防壁だ。


「シズク、止まらないのか!? ぶつかるぞ!」

「いいえ、このまま突き抜けますわ! 皆様、衝撃に備えて!」


ドームのエネルギー壁と、城の放つノイズが激激突する直前――。

ユウサクは、炎のように赤く輝き始めた窓の外を見つめながら、その瞬間に備えて息を止めた。

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