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『カオスノイズ:東京拠点化計画~拠点を東京に移し、自分を殺せる勇者の育成に励むことにしました~』  作者: 猫寿司
第2章:神か悪魔か!? 地獄にあらわれた最強の男

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第4話「小さな飢餓の行進」

親と、子と、作業


「ママだー!」「ママーッ!」「お腹すいたよー!」


幼い子供の泣き声が、血生臭い横浜の街に不協和音となって響く。ユウサクの足元には、彼の顔を歪に模した30センチほどの「小さき自分たち」が、文字通り黒い波となって押し寄せていた。


「……シズク、あれ。シズク……あの、俺の服を引っ張ってるやつ。目が、目が合ってるんだけど」


ユウサクが引き攣った声で指差した先では、一匹の「ミニ・ユウサク」が、本物と同じ情けない表情を浮かべながら、ユウサクのズボンの裾を必死に口に含んでいた。


「……うっとうしいですわね。魔王様、少々お待ちを」


シズクは夕飯の献立でも考えるような、徹底して無関心な表情のまま、足元にたかる「自分の分身」の頭を、道端の小石でも払うかのように掌で叩いた。


――ペチ。


乾いた音が響き、小さな頭部が呆気なく砕けてアスファルトに黒い粘液が飛び散る。シズクはそのまま、群がる異形たちを無造作に、機械的に、次々と叩き潰していく。まるで、農家が害虫を駆除する時のように淡々とした「作業」だった。


「し、シズク! よくそんな……平気で殺せるな!? 俺の顔してるんだぞ!?」


「邪魔ですわ、魔王様。食事の後の運動にしては、少々品がありませんけれど」


「品とかの問題じゃないだろッ!!」


ユウサクが腰を抜かして絶叫する傍らで、浅葱もまた、扇子の端で「ミニ・アサギ」の背中を無慈悲に突き刺していた。


「そうじゃ。こいつら、放っておけば何でも食いよる。そこに愛着などという、甘っちょろい概念はないはずじゃぞ。ほれ」


浅葱が腕を差し出すと、一匹の「ミニ・アサギ」が親愛の情を見せるかと思いきや、そのまま浅葱の指を根元から食い千切ろうと顎を鳴らした。


「ママって言ってるじゃないですか! 慕ってるんじゃないんですか!?」


「おそらく、鳴き声が『ママ』なだけじゃろうな。食い物を呼び寄せるための擬態のようなものよ。ほら、こいつなどはわらわの肉を噛み砕こうとしておる。親を食らって肥える……生命の多様性としては、実に正しい姿ではないか。くふふ」


浅葱の指には、小さな歯形がくっきりと刻まれている。ユウサクは「ひっ……!」と短く悲鳴を上げ、後ずさりした。


「これ……大きくなったら、何になるんですか?」


「知らん。まだまだ想定外の連中じゃ。……たのしみだな」


「……決して、楽しみではありません……!」


標的の転換


不思議なことが起きた。

シズクや浅葱に「ペチペチ」と仲間が叩き潰されるのを見て、小さな異形たちは次第に知恵をつけたのか、ユウサク一行にたかるのをやめたのだ。彼らは本能的な脅威を感じ取り、より「安全」で「柔らかい」餌を探して、その濁った視線を周囲へと向けた。


だが、不思議なことに、最初からユウサクだけには誰もたかろうとしなかった。

「ミニ・ユウサク」たちは、本物のユウサクを恐れているのか、あるいは自分たちの「核」として崇めているのか。ユウサクが歩くと、黒い波が割れるようにして空白の円が出来上がった。


そこへ、空から重低音を響かせて「正解」の軍勢が舞い降りた。


ドォォォォンッ!!


砂塵を巻き上げ、数体の「グリーンアーマー」が着地する。聖浄軍の誇る対異形用パワードスーツだ。


「目標、カオスノイズ一行を確認! 排除を開始す……なんだ、このガキ共は!?」


兵士が武器を構えるより先に、地面を埋め尽くしていた小さな異形たちが、一斉に飛び跳ねた。


鉄の絶叫


「な、なんだ!? この小さな連中は……ぐわぁぁぁぁッ!!」


着地したばかりのグリーンアーマーに、数百の「ミニ・ユウサク」たちが取り付いた。彼らは聖浄軍の誇る堅牢な装甲など、まるでお菓子の包み紙であるかのように、その小さな顎で削り取り始めた。


バリバリ、ガリガリと、金属が咀嚼される異様な音が横浜の廃墟に響く。


「馬鹿な! 私の装甲は超硬質セラミックだぞ! なぜだ、なぜ笑いながら食べているんだ!? ぎゃああああああああッ!!」


機械の隙間から潜り込んだ異形たちが、中の兵士を直接「食害」し始めたのだ。屈強なはずのグリーンアーマーが、小さな異形たちに覆い尽くされ、まるでもがく毛虫のように地面を転げ回る。


「……ひどい、もう見てられない」


ユウサクは目を覆った。機械の装甲を食い破り、中身の人間を啜り、小さな異形たちはみるみるうちにその肉体を膨張させていく。


「見なさい、魔王様。これが新たな軍勢の食事風景ですわ。……魔王様が『むやみに殺すな』と仰ったので、わたくしたちの代わりに彼らに『処理』を任せました。効率的、ではありませんか?」


シズクの誇らしげな賞賛と、グリーンアーマーの兵士たちの絶叫。

ユウサクの「慈悲」が、シズクの手によって、生きたまま捕食されるという最悪の拷問へと変換されていた。


横浜は今、聖浄軍の「正解」すらも食い荒らす、飽くなき食欲の揺りかごへと変貌していた。

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