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『カオスノイズ:東京拠点化計画~拠点を東京に移し、自分を殺せる勇者の育成に励むことにしました~』  作者: 猫寿司
第2章:神か悪魔か!? 地獄にあらわれた最強の男

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第3話「虚無の玉座とラーメンの残響」

惨劇の静寂


店内に響き渡っていたアイアン・ブラッドの軍歌は、今や不気味なほどに静まり返った。

赤い暖簾が風に揺れる音と、天井から滴り落ちる何かの「滴」が床を叩く音だけが響く。


「……ああ、あああああ……っ!!」


ユウサクは、血の海と化した床に両手をつき、喉の奥から絞り出すような声を上げた。

ついさっきまで共にヘスティアへの恨みを歌い、俺を「兄ちゃん」と呼んでくれた男たちの成れ果て。それらが、踏み潰された虫のように無造作に転がっている。


「問題解決、ですわね。魔王様」


シズクは、竜の鱗を輝かせたまま、事も無げに言った。

彼女の指先からは、まだ熱を帯びた「熱量」が立ち上っているが、その白磁の肌には返り血一滴すら付着していない。彼女にとって、この惨劇は食事代を払わなくて済むように「掃除」した程度の、極めて事務的な作業に過ぎなかった。


残されるもの


「……ふざけるな」


ユウサクはうなだれたまま、震える声で絞り出した。


「もんだいかけつ……? どこがだ! 頼むから……頼むから、もうむやみやたらに殺さないでくれ! ラーメン……誰が作ってくれるんだ! 誰が俺の『かため』を覚えててくれるんだ! 職人を殺して、客を殺して……片っ端から殺して、一体何が残るっていうんだ! なにもない世界に……この世界に魔王として君臨して、何が嬉しいんだよ!」


ユウサクの指差す先には、寸胴に突っ込まれたまま絶命した店主の姿があった。

もう二度と、あのスープは味わえない。あの店主の威勢のいい声も聞けない。


「何もない世界に……誰もいない瓦礫の山に、魔王として君臨して何が嬉しい! 何が楽しいんだ、シズクよ! 世界に俺たちだけしかいなくなったら、それはただの孤独な檻だろ!」


ユウサクの魂の叫びが、死臭の漂う店内に虚しく響き渡る。


誤解の果て


(……なるほど。無作為な破壊は、統治すべき『資産』を損なう。何もない荒野の王ではなく、管理すべき民を抱える真の支配者として……)


沈黙が支配する中、シズクはパチリと瞬きをした。

そして、その口元にわずかな笑みを浮かべる。


「……なるほど。まあ、やっとその気になられたのですね。魔王様」


「……え?」


「単なる復讐や破壊ではなく、民を、経済を、そしてこの世界のすべてを掌握し、効率的に管理する……。すなわち、『世界征服』への意欲。そういうことですわね?」


シズクの声には、隠しきれない歓喜の響きが混じっていた。


「わたくし、感動いたしましたわ。そう、何もない玉座など魔王様には相応しくありません。生かさず殺さず、すべてを魔王様の手足として跪かせる。そのための第一歩として、この横浜の街……いえ、アイアン・ブラッドのすべてを接収いたしましょう」


「いや、そんなこと言ってな……」


ユウサクの戸惑いを無視して、シズクは優雅に一礼した。


「さあ、行きましょう。真の『君臨』を始めるために」


「くふふ……面白い。そちらの方が、ただ壊すよりもずっと多くの『異物』が混ざるからのう。そちの欲の深さ、気に入ったぞ」


浅葱もまた、扇子の陰で愉悦の笑みを深めていた。


ユウサクは、絶望のどん底で「世界征服を目論む大魔王」という誤解の上塗りをされ、さらなる泥沼へと引きずり込まれていくのを、ただ呆然と見送るしかなかった。


鉄血の包囲網と空からの死神


ふと気が付くと、店を囲むバラックの影から、無数の足音が近づいていた。

ガチャリ、という金属音が幾重にも重なる。


店の外には、武装したアイアン・ブラッドの兵士たちがひしめき合っていた。彼らの手には、最新の光学兵器ではなく、ASG粒子の霧の中でも確実に火を噴く旧式のライフルやマシンガンが、殺意を込めて構えられている。店内の騒ぎを嗅ぎつけて集まった増援部隊だろう。


その中心で、一人の中年男が、惨状を目の当たりにして打ち震えていた。

ヨルダン――この地区の治安を預かる現場責任者の一人だ。


「……な、なんていうことだ。これは、一体……」


ヨルダンは血の海の中で立ち尽くす男を見つけ、その顔を二度見した。


「お前……お前は、ユウサクではないか! あの時、一緒に飲んだ……!」


かつての知った顔がそこにいた。だが、その背後に控える異形の女たちと、足元に転がる「肉の山」が、再会の喜びを恐怖へと塗り替える。


「戦争だって、こんな惨殺はなかなか起きないぞ……。ユウサク、貴様、一体何をしてくれたんだ!」


震えるヨルダンの指先が、サブマシンガンの引き金にかけられた。ユウサクは、地面に手をついたまま、虚脱した目でその銃口を見つめることしかできなかったが、その瞳から再び大粒の涙が零れ落ちた。


「……ヨルダン。すまん……。やっちまった……っ!!」


子供のように声を上げて泣き出すユウサク。その悲痛な謝罪がヨルダンの耳に届いた、その瞬間だった。


ドォォォォンッ!!


凄まじい爆発音が後方で轟いた。振り返ったヨルダンの目に飛び込んできたのは、直撃を受けたアイアン・ブラッドの拠点が炎上し、兵士たちが吹き飛ばされる光景だった。


「ん!? なんだ……対空迎撃ミサイルはどうした!? は、はあ!? 迎撃ミサイルまで機能しないのかッ!!」


ヨルダンが絶叫する。ASG粒子の霧は、本来あらゆる電子追尾を無効化するはずだった。しかし、飛来するミサイルは精密に、確実にアイアン・ブラッドの急所を突いている。


聖浄軍ピュア・オーダー――。彼らはこの短時間で解析を終え、変質した法則下でも機能する攻撃座標を導き出したのだ。


空を見上げれば、無数の「グリーンアーマー」が降下してくるのが視認できる。聖浄軍の降下猟兵たちだ。


「……クソッ! ユウサクにかまっている暇はない! 全員、第二秘匿拠点へ移動するぞ!」


ヨルダンは吐き捨てるように叫ぶと、倒壊した本部を背にジープへと飛び乗った。


「こいつらを拘束しろ! 生かしておいて後で吐かせる!」


そう言い放ち、ヨルダンのジープは爆煙の中へと消えていった。残されたアイアン・ブラッドの兵士たちが、銃口を向けたままユウサクたちににじり寄る。


「……あ、あら魔王様、また囲まれてしまいましたわ。……どういたしましょう?」


シズクは相変わらず怯える小娘の演技を続けているが、その瞳の奥には冷徹な殺意が宿っている。ユウサクはただ、この終わりのない暴力から解放されたいと願うことしかできなかった。


だが、その時。


上空から、ミサイルの爆音とは異なる、別の異質な風切り音が迫ってきた。

ものすごい速さで近づいてくる「黒い点」。


それは、わずか30センチほどの、掌に乗るような小さな人影だった。

だが、その姿は異様だった。ユウサク、シズク、そして浅葱――その三人の姿を不気味に、歪に模した、小さな異形たち。


「ママだー!!」

「ママー! お腹すいたー!!」


幼い子供のような、しかし鳥肌が立つほどに無機質な声を上げながら、小さな異形たちが兵士たちの顔面に飛びついた。


「な、なんだこれは!? 小さな……子供!? ぎゃあああああああッ!!」


30センチの「ミニ・ユウサク」が兵士の鼻に食らいつき、「ミニ・シズク」がその眼球を穿つ。カオス城から放たれた「小さき子供たち」は、嬉々として兵士たちの肉を喰らい始めた。


横浜の廃墟に、また一つ、予測不能な地獄が付け加えられた。

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