幕間「ホワイト・バベルの断罪」
潔白なる檻
東京地区の心臓部、かつての東京都庁舎を改造した聖浄軍の拠点『ホワイト・バベル』。
その最上階にある審問室は、影一つ許さぬ強烈な無機質の白光に満たされていた。
「――ショウゴ少佐。いえ、もはや貴様を階級で呼ぶ必要はないか」
高圧的な声が、静寂を切り裂いた。
壇上に座るのは、AIヘスティアの遺した管理アルゴリズムによって「東京地区の最も効率的な統治者」として選別された女――ユリイケ。
彼女は一点の曇りもない白いスーツに身を包み、冷徹な眼鏡の奥から、床にこれ以上なく無様に這いつくばる「汚物」を見下ろしていた。
「……っ……ぁ……」
そこにいたのは、かつての「白き彗星」の面影など微塵もない、薄汚れた男だった。
浅葱に三日間搾り取られ、カオス城の排出口から「ぺっ」と吐き出されたショウゴは、海水と粘液で黄ばんだボロ布を纏い、ガリガリに痩せ細った体で震えている。
「貴様の罪状を並めるのも時間の無駄だが、記録のために読み上げよう」
ユリイケは手元の端末を冷ややかにスワイプした。
「第一。正体不明の未知生物に対し、十分な威力偵察も行わず不用意に接触・刺激したこと。それにより、敵側に我々を『明確な脅威』と認識させ、侵攻 of 激な口実を与えた」
「そ……それは……」
「黙れ。第二。こともあろうか、敵に捕縛され、聖浄軍の至宝である重装アーマー『ホワイトグレイブ』を含む貴重な軍事装備を鹵獲されたこと。我が軍の最先端技術が未知のバグの手に渡ったのだ。その情報流出による損害は、貴様の命を数千回使い潰しても補えぬ」
ユリイケの言葉は、ショウゴの心に鋭いナイフのように突き刺さる。カオス城の中で自分の愛機がどのように「調理」されたかを知る由もないが、最精鋭機を奪われたという事実だけで、軍人としての死告には十分だった。
「そして第三。……これほどの大失態を演じながら、貴様は敵地から何ら合理的な理由もなく解放され、おめおめと帰還した。生存を許されたこと自体が、我が軍への背信か、あるいは軍人としての価値が皆無であることを証明している。……AIの計算によれば、貴様の現在の存在価値は、消費する酸素の量にすら見合っていない」
「あ、あの化け物どもは……おそろしい…….あまりに、おそろしい……。俺は, 俺はただ……」
ガチガチと歯の根も合わないほどに震え、ショウゴが虚空を掴むように叫ぶ。その瞳は恐怖で激しく泳ぎ、あまりの怯えように鼻からは醜く水が垂れていた。かつてのエリートの面影はどこにもない。
ユリイケはゆっくりと壇上から降り、這いつくばるショウゴに近づいた。彼女はその鋭い指先でショウゴの顎を強引に持ち上げると、抗う力のない彼の唇を、支配を刻み込むような濃厚な接吻で塞いだ。
「……ふ、ぁ……っ」
いくら高度な発達を遂げた再生医療や化粧の技術で外見を繕おうとも、密着した口内から溢れ出す、老年の熟女特有のむせ返るような様相までは隠しきれない。鼻腔を直接蹂躙する、饐えた肉の臭い。ショウゴは眩暈を覚え、内臓がせり上がるような不快感に襲われたが、必死に表に出さないよう、喉の奥で悲鳴と嘔吐感を堪え忍ぶことしかできなかった。
息が詰まるような接吻を終えると、ユリイケは蕩けたような、しかし氷のように冷たい笑みを浮かべて囁いた。
「むちゃしちゃだめじゃない……。あなたは、わたしの言うことさえ聞いていればいいのよ。そうすれば、いずれは軍の指揮官にでも、大臣にでもなれるわ」
そう言いながら、彼女の手はショウゴの股間へと伸び、震える肉体を上下にゆっくりと愛撫し始めた。
恐怖と嫌悪に支配されながらも、ショウゴの身体は熟練した権力者の手つきに抗えず、無慈悲にもその存在感を増していく。
ショウゴはきつく目を閉じ、意を決した。この年老いた女を再び喜ばせ、この地獄を生き延びるために。
「ユリイケ様……申し訳ありませんでした。貴方のような高貴な方を悩ませてしまって……本当に、申し訳ありません……」
ショウゴは震える手を伸ばし、ユリイケの下着の上から、その下部を這いずるように擦り上げた。
「……バカだけど、本当に仕方のない子ね。今回だけよ、特別に可愛がってあげるのは」
ユリイケは満足げに目を細めると、審問台の縁に腰をかけ、自らの足を大きく左右に広げた。純白のスーツが乱れ、露わになったそこを指し示し、「舐めろ」と無言の命令を下す。
ショウゴは、かつてカオス城で浅葱に味わわされたあの狂おしい三日間を脳裏に浮かべた。人知を超えた女王の肉体、細胞の一つ一つが歓喜するような超越的な経験。あれはまさしく、魂の「天国」だったのだと、今になって痛感する。
それに比べれば、目の前に広がるこの現実はどうだ。医療で張りを持たせただけの、死臭の混じる老いた肉体。
(……これこそが、本当の地獄ではないか……)
おののきながらも、ショウゴはユリイケの股間へと割り入り、その突起物を舌で丹念に舐め上げた。
「あ、はぁ……っ……いいわよ、ショウゴ……っ!」
ユリイケが弓なりになって歓喜の声を上げる。その姿を見上げながら、ショウゴは自身のあまりの卑屈さと、失われた「天国」への郷愁に、今にも泣き出しそうになりながら奉仕を続けるしかなかった。
高みの窓からそれを見送るユリイケは、後に冷たく呟いた。
「……さて。カオス城、だったかしら。その『汚れ』、私が『お掃除』してあげましょう」
東京蹂躙編。それは、AIの冷徹な正義と、肉の欲望が混ざり合う、泥沼の戦いへの序曲に過ぎなかった。




