第12話「女王の求愛と城の拒絶」
女王の発情
城が撒き散らした生臭い「潮」の雨が降り注ぐ中、王座の間は異様な熱気に包まれていた。その中心に立つ浅葱の様子は、もはや正気とは思えぬほどに昂っていた。
「はぁ……はぁ、たまらぬ。もう……だめじゃ。わらわの『発情期』が来てしまったようよの……」
浅葱の肌は内側からの熱に浮かされたように不気味に色を増し、触角は激しく震えている。その異常な殺気と色気に当てられたのは、ずぶ濡れで床に這いつくばるショウゴだった。
「ひっ……!? な、なんだ、貴様……来るな! 近寄るな化け物!!」
聖浄軍の精鋭として、あらゆる恐怖を「最適化」によって克服してきたはずのショウゴが、今やただの怯える子供のように震えていた。浅葱の一歩一歩が、彼の理性を内側から削り取っていく。
40男の説教
その光景を、ユウサクは神経束に縛られたまま、死んだ魚のような目で見つめていた。
「……あのさ、ショウゴさんでしたっけ。あなたたちが最初に襲ってきたんですよね、確か。ねえ、一体何が目的なんですか?」
ユウサクが、溜息混じりにおそるおそる問いかけた。
「だまれッ!! お前のような醜い獣たちが、何を言うか! 宣戦布告をしたのはお前たちだ……!」
「……????」
ユウサクは絶句した。会話が残念ながら成立しない。シズクが勝手に出した宣戦布告のせいで、自分たちが加害者にされているようだが、この男の狂気の前では何を言っても無駄だ。
「……こまりましたね。話し合いなんて無理だ。そもそも、未確認生物がいたら普通は捕獲して調査とか観察でしょ。調査もせず『殺す』なんて、愚の骨頂じゃないですか? 有益な存在になるかもとか、考えないんですか?」
「……部下が……! 部下が勝手にやったことだッ!!」
ショウゴが叫ぶ。それは組織のトップとして、あまりにも情けない自己保身だった。
「うわぁ……なさけないなぁ。軍隊なんだから、上が責任取らないとダメでしょ。そんな言い訳、俺のいた会社でも通じませんでしたよ」
ユウサクが心底呆れたように呟くと、隣にいたシズクが顔を輝かせて抱きついた。「素敵……! さすが魔王様!!」
収穫と連行
そのやり取りを、浅葱が喉の奥で笑った。
「ふふ、円満解決なぞないぞ。ユウサク、そちは甘いのう……。はぁ、はぁ、それにしても……たまらぬわ!」
浅葱の瞳が完全にショウゴを捉えた。
「その脆弱さ、わらわがすべて飲み込んで進ぜよう。さあ、奥の部屋へまいろうか」
「や、やめろ! 離せッ!!」
ショウゴの悲鳴も虚しく、浅葱は彼を掴んで王座の間の奥にある暗がりの部屋へと消えていった。
城の拒絶と新しい穴
取り残されたユウサクは、ポツンと呟いた。「……行っちゃった。俺、これどうすればいいの?」
手持ち無沙汰になったユウサクは、転がっていた無人のアーマードスーツを見つめた。
「……じゃあ、今度はあれ、入れてみようぜ」
ユウサクのイメージに従い、城の触手がグリーングレイブ(アーマードスーツ)を拾い上げ、中央の「肉の赤い穴(子宮)」へと無理やり放り込んだ。
肉の壁が咀嚼するように蠢く。だが次の瞬間、城全体が激しく身悶えし、凄まじい勢いでスーツを吐き出した。
『――ちがうッ!!!』
「ひっ!? し、喋ったぁぁぁぁぁーーーーっ!!!」
ユウサクの絶叫が響く。城が明確な言葉を発したのだ。
『こんなの、いらないわ!! 鉄なんて、おいしくないわ!! そこの穴じゃないのよ!!』
城の怒りに呼応するように、赤い肉の穴のすぐ隣に、別の「穴」がうごめきながら広がった。それは巨大な人間の「口」の形をしていた。口の穴からは、真っ赤で巨大な舌がズルリと這い出し、空中のアーマードスーツを舐めとるように絡めとった。
「ぐ、ぐぅ……ッ! じゅる、じゅるぅぅ……」
城は今度は満足げに舌を動かし、鉄くずをそのまま飲み込んでしまった。
『……でも、お口も素敵……っ』
「うげぇ……」
城は自らの新たな部位を自賛し、艶めかしい余韻を響かせた。
その光景を見ていた生き残りの兵士たちは、恐怖のあまり失神してしまった。
「……あーあ、みんな寝ちゃったよ。めんどくさいなぁ。おい、城。ちゃんと『分別』して入れてやるからさ。生身はそっちの赤い方、鉄くずはこの口の方な」
ユウサクは溜息をつき、失神した兵士たちをそれぞれの穴へと放り込み始めた。城は満足げに「くちゅ、ぴちゃ……」と咀嚼音を響かせ、混沌の夜は深まっていく。




