第11話「女王の求愛と泥濘の捕虜」
異常な高揚と白き糸
カオス城が凄まじい勢いで汚泥を排出した後、制御中枢には異様な熱気が立ち込めていた。
それは戦闘の余熱ではない。城の主導権を握る「女王」浅葱から放たれる、生理的で、剥き出しの生命の奔流だった。
浅葱は王座の傍らで、うわ言のように繰り返していた。その瞳は焦点が定まらず、完全に「あちら側」へ飛んでしまっている。
「はぁ、はぁ……たまらぬ。たまらぬぞ……。今すぐ、今すぐやるぞ……っ」
驚くべきことに、彼女の秘められた部位からは、粘り気のある白い糸が蜘蛛の糸のように幾筋も垂れ下がり、脈打つ床を白く汚していた。
「あ、浅葱さん……? どうしました? 大丈夫ですか……?」
ユウサクはおそるおそる声をかけた。40男の直感が、今の彼女に近づくのは極めて危険だと警鐘を鳴らしている。
「ユウサク……見よ、この城の歓喜を。新たな生命の誕生ではないか! もっと、もっと強く……完成へと近づくのだ……っ!」
浅葱は自身の肩を抱き、狂おしく身を悶えさせる。
ユウサクは激しく困惑していた。
(なんでこの状況で……どこに興奮する要素があるんだよ。汚物をぶちまけた直後だぞ? なんなんだこの生物……)
変態する女王と巫女の介入
「だめ――――ですわっ!!」
そこへ、割って入る影があった。シズクだ。
彼女は浅葱とユウサクの間に強引に割り込み、二人を切り離した。
しかし、浅葱はそんなシズクの制止を鼻で笑った。
「ふん、邪魔をするなシズク。ユウサクが怖気付くというのなら、そちでもよいのだぞ? 種を繋ぐ形など、わらわが望めばいくらでも変えられるわ」
浅葱の体が、不気味な音を立てて変異を始めた。
彼女の下腹部から、雄としての機能を持つ「あれ」が、見る間に太く突き出していく。浅葱は不敵な笑みを浮かべ、そのままシズクへと一歩詰め寄った。
「いいですが……今ではありませんわ」
シズクは冷淡な手つきで、突き出された「器官」を無造作に押し返した。
その瞳には、浅葱の異常な誘惑に対する動揺は微塵もなかった。
「後ろの奴ら、どうしますの? 汚いですし、あのまま放っておきますか?」
シズクが指し示した空中投影には、城が撒き散らした汚泥に飲み込まれ、海で乱暴に洗われたショウゴたちの無様な姿が映し出されていた。
成立せぬ対話
触手によって王座の間に引きずり上げられたのは、見るも無残な姿となった聖浄軍の精鋭たちだった。
ずぶ濡れのアーマードスーツを着た三人の部下。そして中心に跪くのは、白銀の装甲を海水で濡らしたショウゴだ。ハッチがこじ開けられ、中から這い出した彼は、海水と汚泥でぐちゃぐちゃになりながら、屈辱に顔を歪めている。
ユウサクは、濡れた床に這いつくばる彼らを見下ろし、問いかけた。
「……あの、ショウゴさん……でしたっけ? あなたたちが最初に襲ってきたんですよね、確か。ねえ、一体何が目的なんですか?」
ユウサクの言葉には、どこか呆れたような困惑が滲んでいた。しかし、ショウゴは血走った目でユウサクを睨みつけ、喉を引き裂かんばかりの勢いで叫んだ。
「だまれッ!! お前のような醜い獣たちが、何を言うか! 宣戦布告をしたのはお前たちだ……!」
「……????」
ユウサクは絶句した。会話が残念ながら成立しない。シズクが勝手に出した宣戦布告のせいで、自分たちが加害者にされているようだが、この男の狂気の前では何を言っても無駄だ。
「……こまりましたね。これじゃあ、話し合いなんて無理だ……」
その様子を見て、浅葱が喉を鳴らして笑った。
「ふふ、円満解決なぞないぞ。ユウサク、そちは甘いのう」
快楽の生贄と、生臭き雨
浅葱は冷酷な好奇心を剥き出しにし、動けない捕虜たちの一人を指差した。
「まず試しに、そのアーマードスーツを脱がせてみよ。……生きたものは、どういう反応をするかな」
シズクがその手をかざすと、一人の兵士の装甲が乱暴に剥ぎ取られた。震える生身の兵士が一人、床に放り出される。浅葱の意志に呼応した城の触手が、その兵士を吊り上げ、王座の間の中央で淫靡に口を開けている「肉の穴」へと無造作に放り込んだ。
「ひっ、やめ――あ、あぁぁッ!?」
兵士が穴に落ちた瞬間、城全体から凄まじい音量の「喘ぎ」が響き渡った。
空間が震え、うごめく城の壁。穴の内壁は巨大な喉、あるいは子宮のように脈打ち、絡みつく粘液が兵士を逃がさない。
「くちゅ、ぴちゃ、じゅるぅぅぅ……」
驚くべきことに、飲み込まれていく兵士から漏れたのは、恐怖の悲鳴ではなかった。
収縮を繰り返す熱い肉の壁に挟まれ、粘膜に全身を愛撫される。そのあまりの情報の多さに脳が焼き切れたのか、兵士の口からは、えもいわれぬ甘美な、快楽に蕩けきった喘ぎ声が漏れ出した。
「あ、は、ぁ……ッ! あ、はぁぁぁあぁぁぁッ!!」
苦痛などどこにもない。ただ過剰な生命の奔流に飲み込まれ、個としての形を失っていく幸福感。兵士の体はぬるぬると、進んだり戻ったりを繰り返しながら奥へと引きずり込まれていく。そのたびに城は狂おしい震動を上げ、穴の縁からは「ピチャ、ぴちゃ」と不快な音を立てて、「ピュッ」と熱い汁が激しく飛び出した。
そして、城が絶頂を迎えるかのように大きくのけぞった瞬間。
ドシュウウゥゥッ!!
穴から、かつてないほど大量の「潮」が吹き荒れた。
生臭く、生命の濃縮された熱い汁が、雨のように王座の間に降り注ぐ。床は瞬く間に濡れ、自分を縛る神経束も、ユウサクの顔も、その生暖かい液体で塗り潰された。
(……最悪だ。汚い……もう嫌だ……)
降り注ぐ生臭い雨の中、ユウサクはただ絶望していた。自分を蝕むこの混沌とした地獄から、そしてこんな化物たちの王から逃れ、ただの、さえない「人間」に戻りたいと、心の底から、切に願った。




