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第3話 私達

 城壁内に侵入した王牙達はバリスタに悩まされていた。

 その巨大な見た目に反して照準が早い。そして、

「リンキン! 止まれ!」

 王牙の言葉でリンキンが足を止めるとその目の前にバリスタの矢が刺さる。

 そう。その矢は真っすぐに飛ぶだけでなく、軌道を変え予測できない位置から偏差射撃を超える位置予測射撃をしてくる。

 リンキンは手を上げ感謝をすると走る。

 このバリスタによって死の小隊は初手からばらける羽目になってしまっていた。


「マズイな。思ったよりも動きが早い 王牙、お前はバリスタの挙動が読めるか?」

 頷く王牙。今は王牙とシノだけだ。リンキンは潜伏、残りの三人は固まっている。タウラスの回復を受けながらバリスタの矢を凌いでいる。

「奴らが凌いでいる間に近くのバリスタを落とすぞ。取り合えず一基落とさねば味方は動かん」

「あれは魔法ではないのか? 止められるならいくつか止めて欲しい所だ」

「・・・違うな。何かの仕掛けだ。だが人間が動かしている。近づけば止められそうだ」

「ならこれだな」

 王牙が地面に突き刺さったバリスタの矢を抜くとそこに地面が現れる。そこを抉るように手を入れると大地の支配で先の太い棒のようなものを作る。

「それはなんだ?」

「煙幕だ。お前がバリスタを止めたら近くのバリスタに投げつける。間違いなくカバーが来るだろうからな」

「ああ。なるほど。バリスタに相互に援護が来るのか。では同時に行おう。目標は一番近いアレだ」


「止めたぞ! 行け!」

 シノの言葉で王牙が煙幕棒を隣接するバリスタに投げつける。纏わりつくような白煙がバリスタを包むとそれをカバーする更に外側のバリスタが警戒に入る。

 つまり、シノが止めたバリスタは完全にノーマークだ。

 王牙が停止したバリスタに取り付くとギィィィーーーン!!!という耳障りな音を立ててバリスタの弦が切れる。

「よし! 次に行くぞ!」

 シノの言葉で王牙はシノの魔素膜圏内に戻る。未だ味方の簡易魔素ジェネレーターの起動は確認できない。

 だが、それ以上に王牙の感が捉えていた。危機感が大音量を上げる。そしてそれは上空から。それが物理的な音に変わる。空に穿たれたバリスタの矢が二人のいるエリア全体に降り注ごうとしている。

「シノ!」

 王牙がシノを抱きかかえるとその一帯にありったけの大地の支配を使い地面を抉る。それを全て上空に放つと王牙はその穴に身を潜めた。


ーーー


「チキショーーー!!! 赤鬼野郎に先を越されたぜ!」

 スコルピィの悔恨の叫びが響く。

「煙幕をああ使うのか。だが不味いな。バリスタが全部上を向いてやがる」

「どういうことだい?」

「上に撃ってあの挙動で王牙達のいるエリアを根こそぎ撃ちまくる奴だな」

 タウラスの疑問にマカツが答える。

「だったら今がチャンスじゃねぇか。一番槍は盗られたが後は全部俺のもんだ!」

「まずは王牙達が先だろう!?」

「いや、スコルピィの言う通りだ。今のうちにバリスタを減らすぞ。俺達が行っても一緒に撃たれ続けるだけだ。バリスタの注意を引けるだけでも充分だろう」

 真っ先に飛び出すスコルピィに追随するマカツとタウラス。


ーーー


「旦那! 姉御! 無事か!」

 潜伏していたリンキンが王牙達の元へ行くと傷ついたシノと王牙の姿が見える。

「俺は無事だ。だがシノの負傷が大きいな。タウラスはどうした?」

「ああ。あいつ等ならバリスタを落としまくってるぜ。簡易魔素ジェネレーターも起動し始めているみてぇだ。本隊の方も中に入ってきてるぜ。ここら辺はもうしばらくしたら安全圏だろ」

「やれやれ、貧乏くじだ。なぜ私を庇ったお前が無傷なんだ王牙」

 シノの言う通り王牙はかすり傷。シノは左腕と左足が損傷している。

「狙ったわけではないぞ。だが俺という足がある。逆だったらお前が俺を担いでいくか? シノ」

「満更打つ手がないわけでもないか。王牙。では担いでもらうぞ。遊んでいるアイツらを拾って王城だ。そこの神殿に聖剣がある筈だ」


ーーー


「全くアイツらめ。バリスタ掃除に夢中になっているな」

 王牙に担がれたシノの言う通りマカツたちは次々にバリスタを潰している。

「だけどよ。アレ片付けてからの方が良くねぇか?」

 リンキンのいう通り戦況はかなり良い。魔物が次々に入城している。正門も解放しているようだ。

「それまで人間が大人しくしていてくれればな。何より聖剣が未知数だ。これを人間が持ち出したらどうなる。既に使われているかもしれんぞ」

「つまり魔素キャンセラーよりも不味い状況が出来るという訳か」

 王牙が口をはさむ。

「そうだ。そのための速攻だったが、まさかあのバリスタが城内の敵を迎撃できるとは思わんだろう」

 確かに、と王牙は笑う。


「とにかく急げ! この・・・!?」

 シノの言葉が魔法で遮られる。間一髪でその魔法をシノが防ぐ。

「どこに敵がいる! リンキン! 見えるか!」

 屋根の上を走っていたリンキンが辺りを見回す。

「ああ。目視は出来るぜ。ただアイツら気配を消せるみてぇだ。姉御には見えねぇのか?」

「ああ。位置の把握が出来ない。数は!」

「見えてる感じ十か二十。ただ動きがヤベェな。もたつくと包囲されそうだ。これは逃げた方がいいぜ姉御! 普通の人間の動きじゃねぇ!」

「わかった! 王牙! 王城から離れろ! 奴らを撒く! リンキン! お前も攪乱しろ! 私たちの目的を知られたくない!」


ーーー


「どうしたスコルピィ」

 バリスタを破壊していたマカツが、辺りを伺うように立ち止まるスコルピィに声を掛ける。

「何かが居やがるぜ。見えてるが感じられねぇ。王牙達の方だ。あん? なんでアイツら城から遠ざかってんだ?」

「何かに追われているね。本当だ。僕にも見えるけど気配がまるでない。シノが負傷しているようだ。僕が行った方が良さそうだね」

 動こうとしたタウラスをマカツが遮る。

「まて。それなら俺達は王城に向かうぞ。聖剣の確保だ」

「王牙達を見捨てるのかい!?」

「本当に助けが欲しいならこっちに来るだろうさ。来ないって事は行けって事だ」

「俺もマカツに賛成だ。この作戦を成功させなきゃ意味がねぇ」

 渋るタウラスにスコルピィがマカツに同意する。

「そうだね。目的地は一緒だ。そっちの確保を優先しよう」

「決まりだな」

 マカツたちはバリスタ破壊を中断して王城へ向かう。


ーーー


「奴ら私達に付いてきているのか」

 シノを担いでいるとはいえ全力で走るオーガに付いてきている。それだけでも相当な手練れだという事がわかる。

「王牙。私を捨てればお前なら奴らを撒けるな?」

「ああ。その時は今の比ではないな」

「ならば私を捨てるしかないな。・・・悪いが私よ。置いていくぞ」

 赤髪のシノが中から髑髏を見上げる。すると赤髪が胸部から解放されて王牙の腕に掴まる。

「王牙! 髑髏を捨てろ! 逃げ去るように置いていけ!」

 王牙は返事をせずにまるで邪魔な荷物を捨てるかのように髑髏を投げ捨てる。そして全力で走りだす。

「また会おう私よ! いつか巡り合う私達の為に!」


ーーー


「姉御!? どいうこったよ!」

 投げ捨てられた髑髏を見て血相を変えたリンキンがやってくる。

「リンキンか。私なら王牙と共に居る。丁度いい。手伝ってくれるか?」

「いやいやいや。おかしいだろ。どうなってるんだよ!」

 髑髏は黙って空になった胸部を見せる。

「私は私達の目的を遂行するために居る。今の私は捨て駒だ。私を活かすためのな」

「何をする気だよ」

「私が魔法を組むまで援護してくれ。そして生き残っていたら止めを刺してほしい」

 リンキンは黙り込む。だが自身がゴブリンにされた時のことが脳裏に浮かぶ。

「・・・わかったぜ。ただアンタもまた転生するんだよな?」

「ああ。私は私達に戻る。記憶は無くしているがな」

「はー。憶えてなくても貸し一つだぜ! 姉御!」

 リンキンの返事を聞くと、自分を中心にした巨大な座標魔法を髑髏が展開する。


ーーー


 王牙が敵を撒き、神殿に辿り着くと派手な魔法音が響いた。

「私だな。あの髑髏の魔法だろう」

 シノが振り返り叫ぶ。

「私達は進んだぞ! その一歩先に!」

 王牙はそれを横目だけで見て先へ進む。そこには既に戦闘の後がある。

 間違いなくマカツたちが戦っているはずだ。

 遅れを取り戻さねば。

 王牙は更に速度を上げた。

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