溶け込み
翌日、いつも通り登校した裕介は、教室に入る決心がつかなかった。中からは、大神や武田らが授業前に談笑しているのが聞こえる。
母親の機嫌はじき直るとして、無断欠席を咎められるのは必至だ。しかも皆の目の前で……。
――ったくあの女のせいで……。
しなくても良い決心を迫られ、怒りを蒸し返したが、ムカついても仕方がない。裕介は意を決して教室に入った。
「こんばんはあ」
いつもならイヤホンをしたまま無言で入って来る裕介が、挨拶しながら入って来た。大神を始め、武田ら数名は驚きながら振り返り、「こんばんは」と返した。
裕介は脇目も振らず、自分を見詰めている大神の元へ向かい、
「先生、金曜日は済みませんでした」
と頭を下げた。
「まあ無事で良かったよ。……私は良いけど、中山君、ご両親を心配させちゃ駄目だよ」
穏やかに諭した大神は、安心した表情を見せた。大神の言葉に、裕介は「はい」と答え、再び頭を下げた。
「リフレッシュ出来たか?」
「ええ」
様子を窺っていた武田が声をかけ、裕介は苦笑した。
「不登校かと思っちゃった私」
武川が微笑みながら言った。
「それはないですよ。もう直ぐ修学旅行ですし」
裕介も自然と笑顔になっていた。文夏とは違い、大神達は裕介の苦笑すら見たことがなかった。
大神は「うんうん」と頷き、初めて見る裕介の笑顔に成長を感じた。
ホームルームも終わり、文夏は家路につこうと山下・鈴江と共に廊下を歩いていた。
「やっと終わったあ」
山下が伸びをしながら呟いた以外は、三人共無言でスマートフォンのチェックをしている。
その時、文夏のスマートフォンに着信があった。画面上に出た名前を怪訝に思ったが、「先行ってて」と二人を行かせ、通話ボタンを押した。
――おっそいなあ。
裕介は一人、一階へ降りる階段の踊り場にある掲示板の前にいた。ここにいれば文夏が通りかかると思ったのだ。
特に用事はないが、ウザかった挨拶も今となっては、されないと何となく調子が狂う気がした。
しばらく掲示物をぼんやり眺めていると、「お疲れさま」と挨拶しながら文夏が現れた。
裕介に安心感が広がる。だが表情には出すまいと、クールに「お疲れさまです」と返した。
「今日の調子はどう?」
「まあまあですね」
笑顔で尋ねて来る文夏に、裕介は不覚にも笑って答えてしまう。
「ところで、きのう怒られた?」
文夏が申し訳なさそうに訊いた。
「ああ、親父はそうでもなかったけど、お袋がね」
裕介は微笑を浮かべて文夏を睨んだ。
「そっか。改めて、申し訳ない」
「然るべき報いは受けるでしょうけど、もう良いんです」
ペコリと頭を下げた文夏に、裕介は呟いた。
「それで、修学旅行はどうするの?」
文夏が話題を変える。
「行きますよ。……おかげで少しは楽しくなるかもね」
――「ありがとう」なんか言わねえぞ!
裕介は心の中で食って掛かった。
にんまりとして頷く文夏は、廊下から二人の男がニヤニヤしてこちらを窺っているのに気付いた。
文夏の視線に気付き裕介も振り向くと、石村と村田だった。
――またか……。
「何か用ですかー!?」
裕介はわざと大声を出して声をかけた。
不意打ちを食らった二人はひねくれた笑みを浮かべ、無言で階段を駆け降りて行く。
その光景を見て、裕介と文夏は顔を見合わせて吹き出した。
「帰ろっか?」
「そうですね」
文夏の呼びかけに、二人は並んで歩き出した。




