父母の見解
「どこ行ってたの! どれだけ心配したか解ってるの!!?」
中山家のリビングでは、小枝子の怒号が響いた。
「――もっと息子を信じてやったら?」。「兄貴なりの一大決心だったんじゃないの?」。秋久の言葉に、感情が先走る自分を反省した小枝子だったが、裕介を目の前にし、すっかり頭から消え失せていた。
帰りは文夏の母、洋子も加わり、家の前まで送ってもらった頃には、空はすっかり暗闇に包まれていた。
ためしに玄関のドアノブに触る。いつもなら鍵がかかっているが、今日は裕介が帰って来ることを予感してか、ドアは『ガチャ』と音を立てて開いた。
「ただいま帰りましった」
小声で呟いた裕介に襲いかからんとするばかりの勢いで、『バタバタ!』とスリッパで走る音が聞こえた。
いきり立った表情で現れた小枝子は、靴を脱いで上がってきた裕介の腕を掴み、「来なさい!!」と言ってリビングに引きずり込んだ。
「っちょ、行くから離せよ!」
リビングでは、譲一が腕組みしてソファに座り、引っ張って来られた息子を一瞥した。
小枝子の怒号からどのくらい経ったか。ソファに座った両親に対し、裕介は絨毯に座らされていた。
さすがに「拉致された」とは言えず、「ごめん」と頭を下げることしか出来なかった。
――あの女ー!
改めて文夏に怒りを持ったその時、黙っていた淳史は、隣の妻に対して「もう良いだろ」と呟いた。
今日の譲一は珍しくしらふだった。その理由は、明日健康診断を受けるからである。
「何が良いのよ!」
怒りが収まらない気配の小枝子に、譲一は「ふー」と溜息を吐くと、目の前の息子を諭した。
「大勢の人に迷惑をかけて、自分の立場を弁えろって、いつも言ってるだろう」
無言で俯く裕介に、譲一は意外なことを口にする。
「友達と旅っか……お前にもそんな「悪友」がいたとはな。……少し安心した」
「友達と一緒」。俄かに信じることは出来なかったが、家の前に停まった車の音で確信に変わった。
小枝子は、「何言ってるの!?」といった表情で夫の顔を見た。裕介も怪訝な目で父の顔に釘付けになった。最近は裕介を否定し続けている譲一の口から、久しぶりに息子を肯定する言葉が出た。




