追究
施設を後にし、車は市街地を走り出した。裕介は少しでも楽な姿勢をと、シートを倒した。それを見て文夏は、「お疲れですか?」
とからかおうとしたが、さっきしゃがみ込んだ姿を思い出し、止めた。
交差点で停車している時、文夏は唐突に、
「ちょっと山道をドライブしたいんだけど」
と言い出した。
両親が離婚する直前、尚吾は文夏を助手席に乗せ、山道をドライブしたことがあり、それを思い出したのだ。尚吾にすれば、当分会えなくなる娘との思い出作りだったのかもしれない。
裕介は「どうぞ」と承諾した。日光を浴びながら車に揺られるのが心地良く、もう少しこのままでいたかったので好都合だった。
当然、文夏は道筋を覚えていないが、取りあえず山の方へ向かって行き、やがて一車線の山道へ抜けた。
文夏の記憶が徐々に蘇って来る。当時も、今日のようによく晴れた日だった。
裕介はというと、色付き始めた木々が陽光を反射する光景に見惚れていた。景色を見てゆったりとしたのは、これが初めてかもしれない。
しかし、少しリラックスし過ぎた。裕介は以前盗み聞きした石村の話が本当なのか、確かめたくなった。
「渋谷さん」
「んー?」
「差し支えなければ訊いても良いですか?」
「何よ改まって」
内容など知る由もない文夏は、裕介の口調に笑った。
「風俗で働いてません?」
ダイレクトな質問に、文夏は急に表情が険しくなり、急ブレーキをかけた。
――ベタの王道を……って前にもあったなー?
首と腹に食い込んだシートベルトを外しながら、裕介は以前トイレへ行ったが為に文夏と出くわしたことを思い出し、鼻で笑った。
だが、怪訝な目で自分をジーっと見ている文夏に気付くと、気まずいことこの上なくなる。
――ヤベエなこりゃ……。
裕介がそう思っていると、文夏はゆっくりと口を開いた。
「ユウ君……どうしてそれを?」
「その前に、脇に寄せたらどうですか?」
ど真ん中にいては確かに邪魔である。裕介は空気を変えようと、わざと笑みを浮かべて言った。
だが、文夏はにこりともせず発進させる。
その様子に、裕介はきのうの車内でのやり取りを思い出した。
――時既に遅し……っか。
後にも引けない状況に、裕介は深呼吸をし、話を続けた。
「石村さんって知ってるでしょ? 気に入った女の人に声かけて回る」
「……ああ。いつか私達のことニヤニヤして見てたオヤジ?」
「あの時気付いてたんですか?」
「気付くも何も、あれだけガン見してたら……」
「そりゃそうか……」
裕介は、未だ笑顔を見せない文夏に遠慮するように、微笑を浮かべた。
「その石村さんが、風俗サイトに出てる渋谷さんを観たんですって」
文夏は入学前、万が一に備えアリバイ会社に登録していたが……。
「……そうなんだ。……都心の店なんだけど、バレる確率が低いと思って、郊外の学校選んだんだけどね」
文夏はすんなりと認めた。
「甘いですね。ネットの世界ですもん」
「百パー安心してた訳じゃないけどさっ」
やっと笑顔になった文夏に、裕介は一安心した。きのうまで鬱陶しく腹立たしかったはずが、嘘のようだ。
「店長にゴリ押しされて断われなかったんだよー。……やっぱ顔出しNGにしときゃ良かったなあ」
そうは言いながらも、あっけらかんとした口調で、裕介にはちっとも後悔していないように思えた。
「そうと解ると、いつもニコニコしてるのは、職業柄なのかなあって思いますけど」
「そんなつもりはないけど、まあ、確かに笑顔は絶やしちゃいけないし、自然と技術が生かされることはあると思う」
「ふーん。そんなもんなんですね」
「でも結構大変なんだよ。口臭にはいつも気を付けなきゃいけないし、病院の検診は受けなきゃいけないしでさ」
愚痴を溢す文夏に、裕介は「へー」と返すだけだった。「解る」とも言えないし、それ以外言葉が見付からなかった。
その態度に文夏は、
「口火を切っといて引くな!」
とツッコミを入れた。
「いや、そうなんだあって思ったから」
――この子にはまだ難しいか……。
文夏はそう思い直し、話題を変えることにした。




