表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
拉致旅行  作者: 弘田宜蒼
19/30

断崖絶壁

 昼食はファミレスにしようと言う文夏に、裕介はせっかく帰ったのだからと、町内の観光レストランへ行ってみようと提案した。

 五歳で町を離れた文夏には地元の味に馴染みはなかったが、誘いに乗ることにした。

 

 食事を終え、次の目的地へと向かう。引き続き、裕介は連れて行かれるがままであったが……。

 町中を二十分くらい走った後、小高い丘を登り、数台駐車された広場に停車した。

 文夏は「着いたよ」と言いながら降車する。車はあっても人の気配はない。どこなのか気になるが、訊いても答えないことは解っている裕介は、黙って付いて行った。

 

 目の前には少し急な坂道が更に続いている。しかもかなり長い。ここを登るのかと思うと、裕介はげんなりとした。だが、スタスタ登っていた文夏に「早く早く」と促され、仕方なく登る。

 上へ辿り着くと、そこは無人の水道施設だった。フェンスで仕切られた施設より先へ行くと広場があり、文夏はそこにいた。

「良いでしょここ。よく来てたんだあ」

 広場は高いフェンスに覆われ、文夏は寄り掛かり景色を眺めた。

「一人で来てたんですか?」

「ううん。友達と」

 

 広場からは市街地が一望出来、遠く町を囲うように連なる山々も望める。フェンスがなければ風光明媚な場所である。

「確かに、良い眺めですね」

 裕介はそう言いながら、フェンスにしがみ付き、力なくしゃがみ込んだ。実は八月半ば頃から、だるさが「復活」していた。さっきのアパートでは何とか立っていられたが、ここに来て辛くなった。

 下に目をやった裕介は、そこが断崖絶壁なことに気が付いた。

 その瞬間、また「あの声」が響いた。

 「死ぬチャンスじゃないか? ここから飛び降りちゃえよ!」

――……そうすれば、楽になるのかな?

 虚ろに眺めながら、悲痛な問いかけをした。裕介の様子を文夏は怪訝に思う。

「具合悪いの?」

「いや……別に」

 呟くような答えに少し心配になったが、

――坂を登って疲れたのかな?

 とも思い、それ以上は訊かなかった。


 文夏が初めてここに来たのは、保育園の「お散歩の時間」だった。弁当持参で登り、ここで食べたのだ。

 以来、子供の足にはかなりきつい坂ではあったが、友達との遊び場の一つとした。たまに、男子と縄張り争いがあったかと思えば、その男子と一緒に氷鬼をしたこともあった。

 仲間達と嬉々とした場所。


「生まれて五年しか住んでなかったけど、結構覚えてるもんだね」

「町の雰囲気は変わってませんか?」

「幼かったからねえ。はっきりとは覚えてないけど……」

 そう言って景色に目を移した文夏を見詰め、裕介は病気のことを、彼女に言ってみようかと考えていた。

――この人なら、解ってくれるかな?……。

 中三の時に心に蓋をして以来、一度も開けたことはない。だが、自分の中に溜め込んでおくのも、正直限界に来ていた。

 しかし、

「止めとけ! 人に縋ってまた傷を負いたいのか?」

 心の声が嗤って忠告した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ