その一方
その頃、緑ヶ丘高校の職員室では話し合いが成されていた。
「どこに向かったか、見当はつきませんか?」
大神は呆然とする小枝子に尋ねた。
この日、連絡もなく姿を見せない裕介を心配し、大神は中山宅に一報を入れた。
それを受け、譲一と小枝子は駆け付けた。
「解りません。荷物も学校の物しか持ち出していないようですし」
「少なくとも、家を出た時には学校へ行くつもりだった……」
武田が途方に暮れて呟いた。大神から話を聞き、心配で授業を抜け出していた。
譲一は皆が立っている中、一人ソファに座り傍観している。
「所持金は?」
武田と同様、抜け出して来た武川が訊いた。
「多くても、五千円くらいだと思います」
大神は壁掛け時計に目をやった。全ての授業が終わる三十分前の、午後八時三十分を指している。
「家を出て、もう直ぐ五時間は経ちますね?」
大神の言葉に、小枝子も時計の方を振り返り、「ええ」と言いいながら頷いた。
大神は少し考えた後、小枝子を気の毒に思いつつ、
「……申し上げ難いですが、警察に相談された方が良いかと」
最終判断を提案した。
小枝子の脳裏を最悪のケースが過り、顔を青ざめさせた。
その時、譲一が口を開く。
「その必要はありません。息子にはスマートフォンを渡しています。何かあったら連絡して来るでしょう」
四人は譲一の顔に釘付けになった。
譲一の言葉に武田はハッとし、
「電話を持ってるんなら、かけてはみたんですか?」
小枝子に尋ねた。
「ええ。ここに来るまでに何度も。メッセージも残しましたけど……」
伏目がちで答えた小枝子は、ソファに置いていたバッグからスマートフォンを取り出した。履歴を確認するが、誰からも着信はない。小枝子は三人の方を振り返り、無言で首を横に振った。
「私達はこれまで、自分のことは自分で責任を取れと教育して来ました」
譲一は凛とした表情を崩さない。
息子の行方が解らない時に、なぜそんなに冷静でいられるのか? 大神には不思議だった。
「息子さんを信じたいお気持ちは解ります。ですが、中山君はまだ未成年です」
大神の言葉に、譲一は溜息を吐きながら腕時計を見た。
「息子は学校が終わっても、真っ直ぐ帰らずにどこかに立ち寄ることが多いようです」
「だから問題なんじゃありませんか?」
武川も譲一の態度が信じられなかった。
「私達だって手を焼いていますよ」
譲一は忌々しそうな表情を浮かべた。
「……学校をサボッて、どこかで遊んでいるんでしょう」
四人から視線を逸らし、譲一は下唇を噛んだ。職員室が沈黙に包まれる。




