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拉致旅行  作者: 弘田宜蒼
15/30

その一方

 その頃、緑ヶ丘高校の職員室では話し合いが成されていた。

「どこに向かったか、見当はつきませんか?」

 大神は呆然とする小枝子に尋ねた。

 この日、連絡もなく姿を見せない裕介を心配し、大神は中山宅に一報を入れた。

 それを受け、譲一と小枝子は駆け付けた。


「解りません。荷物も学校の物しか持ち出していないようですし」

「少なくとも、家を出た時には学校へ行くつもりだった……」

 武田が途方に暮れて呟いた。大神から話を聞き、心配で授業を抜け出していた。

 譲一は皆が立っている中、一人ソファに座り傍観している。


「所持金は?」

 武田と同様、抜け出して来た武川が訊いた。

「多くても、五千円くらいだと思います」

 大神は壁掛け時計に目をやった。全ての授業が終わる三十分前の、午後八時三十分を指している。

「家を出て、もう直ぐ五時間は経ちますね?」

 大神の言葉に、小枝子も時計の方を振り返り、「ええ」と言いいながら頷いた。

 

 大神は少し考えた後、小枝子を気の毒に思いつつ、

「……申し上げ難いですが、警察に相談された方が良いかと」

最終判断を提案した。

 小枝子の脳裏を最悪のケースが過り、顔を青ざめさせた。

 その時、譲一が口を開く。

「その必要はありません。息子にはスマートフォンを渡しています。何かあったら連絡して来るでしょう」

 四人は譲一の顔に釘付けになった。

 

 譲一の言葉に武田はハッとし、

「電話を持ってるんなら、かけてはみたんですか?」

小枝子に尋ねた。

「ええ。ここに来るまでに何度も。メッセージも残しましたけど……」

 伏目がちで答えた小枝子は、ソファに置いていたバッグからスマートフォンを取り出した。履歴を確認するが、誰からも着信はない。小枝子は三人の方を振り返り、無言で首を横に振った。


「私達はこれまで、自分のことは自分で責任を取れと教育して来ました」

 譲一は凛とした表情を崩さない。

 息子の行方が解らない時に、なぜそんなに冷静でいられるのか? 大神には不思議だった。

「息子さんを信じたいお気持ちは解ります。ですが、中山君はまだ未成年です」

 大神の言葉に、譲一は溜息を吐きながら腕時計を見た。


「息子は学校が終わっても、真っ直ぐ帰らずにどこかに立ち寄ることが多いようです」

「だから問題なんじゃありませんか?」

 武川も譲一の態度が信じられなかった。

「私達だって手を焼いていますよ」

 譲一は忌々しそうな表情を浮かべた。

「……学校をサボッて、どこかで遊んでいるんでしょう」

 四人から視線を逸らし、譲一は下唇を噛んだ。職員室が沈黙に包まれる。


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