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拉致旅行  作者: 弘田宜蒼
12/30

画策

 裕介が病院へ行った日の夜。文夏はマンションで一人、テレビを観ながらブツブツ言っていた。

 休み期間中だけ夜の勤務に戻し、今日は休みだ。

「こっから高速に乗るう?」「ここ混むかなあ?」。


 カーナビをテレビに繋ぎ、目的地である海水浴場を設定し、ルートを確認する。

 一通り確認した後、文夏は中部地方の某県の町役場を目的地にし、ルートを出してみた。

 画面をスクロールさせて行き、現れた町名。

「十五年……っか」

 そこは、文夏が五歳まで過ごした地元だった。離婚した洋子と上京してから、一度も寄り付かなかった町。

 

 休みに入る一週間前から、文夏は郷愁の念を強くさせていた。きっかけは、祖父の誕生日を祝う為、母の実家を久しぶりに訪ねた時だった。


 文夏は自分が使っていた部屋に入り、本棚に並んだアルバムを一冊手に取った。中には乳幼児だった頃の自分や、離婚する前の家族写真が貼ってあった。

 思わず見惚れ頬を緩ませていると、保育園時代の友達二人と写った写真が目に留まる。

 頭上の看板を見ると、町が主催する七夕祭りだった。入園した翌年、友達の母親達に連れて行ってもらったのだ。


 あの日、尚吾とは別の病院で看護師をしていた洋子は、仕事で付き添えなかった。

 一抹の寂しさはあったが、綿菓子やリンゴ飴を買って貰い、ハイテンションとなった文夏。

 迷子にならないか心配する母親達をよそに、友達とあちこち走り回った。

 その途中、酔った男性二人が喧嘩を始め、「見ちゃダメ!」と言われながらも、怖いもの見たさで見入ったりもした。


「懐かしい……」

 結局、友達とは三年足らずで別れてしまうが、この写真を見た時から、文夏の頭からは地元の町が離れなくなる。

 居場所を探し、必要とされる自分を求めた十代。その欲求は、仕事に打ち込んでいる内に考えなくなっていた。

 でも、人間は欲望多き生き物。新たな欲求が生み出された。

――自分を再確認したい……。

 

 時を遡って両親の離婚。ここ二年では中絶、風俗嬢となり、高校再入学。文夏には気の休まる時がなかった。郷愁は、少し心労が溜まったことが原因かもしれない。

 何かをきっかけに郷愁に駆られ、久しぶりに地元へ帰る。こんなストーリーのドラマや映画を何度か観たことがある。

 そして、主人公は新たな発見をする。文夏もそんな旅がしたくなった。

 

 でも、そういった旅には何か演出が加わる。そう考えた時、真っ先に脳裏に浮かんだのが、裕介だった。

 大概の男性は文夏に気を許すが、彼は違う。裕介に心を開かせるには、どうしたら良いか?

 画面を見詰め、文夏は不気味な笑みを浮かべた。


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