プロローグ
「いい加減止めろよ!!」
助手席に座る少年は声を荒げた。その命令に運転する女性は素直に従い、路肩に停車させる。
暗い車内には、エンジン音とハザードランプの点滅音が響き、しばし沈黙が流れる。
「どこに連れてく気ですか?」
先に口を開いた少年は、忌々しさを抑えつつ、一応、敬語で尋ねた。
一方の女性は、少年の態度に動じる様子は微塵もなく、余裕の笑みを浮かべている。そのことが、少年の感情に火を点けるに十分起爆剤となっていた。
「それは、着いてからのお楽しみってことで」
――!!!!?……こんな時に何惚けたこと言ってんだよ!?
少年の心は、呆れと諦めの半分半分となった。
「ハー。……お楽しみに出来ないから訊いてるんです」
「拉致したから、あなたを。だから私の行きたいとこに連れてく」
「……?」
不敵な笑みを浮かべて発せられた「拉致」という言葉に、少年はうろたえ、頭が真っ白になる。
――やっぱこの女おかしい……。
こんな状況になるのは、これが初めてではなかった。少年はいつも女性のペースに呑み込まれ、大爆発する前に意気消沈させられていた。
拉致された少年の名は中山裕介。そして、犯人の名は渋谷文夏。
二人は当然恋仲ではないし、友達、とまでも行かない。文夏は裕介に興味津々だったが、裕介にとっては文夏程、煙たい存在はなかった。




