1. 女子中学生の秘密の趣味
小学校の卒業式から数日後、何か新しい趣味を始めたいとふと思った。
楽しくて、手軽で、続けられて、でもやめようと思ったらすぐにやめられて、部活動や委員会とは別枠で、学校生活の妨げにならなくて、お小遣いの範囲でやりくりできる趣味。
色々考えた結果、これまで読み専だった小説投稿サイトに自作小説を投稿してみることにした。
春休み中に「愛論」というハンドルネームでXと小説投稿サイトのアカウントを作成した。
そして『守護聖女の私を追放した帝国はもうすぐ滅ぶみたいですよ?〜隣国の第四王子に溺愛されて幸せな結婚生活を送る〜』というタイトルの異世界恋愛小説を執筆して投稿を始めた。
守護聖女の主人公を追放した帝国が滅びて隣国の第四王子に溺愛されて幸せな結婚生活を送る内容で、週2更新で連載している。
家族にも友達にも言っていない、女子中学生の秘密の趣味だ。
昔から本を読んだり頭の中で物語を作るのが好きだったからか執筆は全く苦にならなかった。
自分が書いた物語を誰かと共有できることがとても嬉しかった。
この投稿サイトを通じてたくさんの人を笑顔にすることを目標に物語を書いた。
そのために特に表現力に拘った丁寧な文章を心掛け、登場人物の設定は誕生日から好きな食べ物までしっかり決めた。
ストーリーのクオリティもランキング上位の人気作品に負けていない自信があった。
しかし投稿を始めてから1ヶ月後の結果は、ブクマ0、感想0、レビュー0、もちろん評価ポイントも0。
1日あたりの閲覧数はほとんど1桁ばかり。
最新話の更新日に30程度まで増えることはあっても、そこからさらに伸びることはない。
感想が全くないから本当に読まれているのか、それとも誤タップが閲覧数にカウントされているだけなのかすらわからない。
物語を誰かと共有できるとか、たくさんの人を笑顔にするとか、それ以前の問題だった。
誰も私の作品に興味がない。
早い話が無名底辺。
現代日本は娯楽に溢れていて、投稿サイト内の作品数も膨大だ。
ほとんどの読者はランキング上位に流れていく。
だからこの結果は仕方のないことだと頭では理解している。
それでも納得できない気持ちの方が遥かに強かった。
努力は必ず報われると信じて、これまでに合計54話分を投稿してきた。
ブクマ、感想、レビューは全くなく、かろうじて6ポイントを得ただけだった。