出発1
遂に私の機体が来る!シャワーを浴び、自室に戻った一葉は準備を程々に済ませた後、早々とベッドに潜りうつ伏せの体制で機体を操縦する自分を想像してみる。味方のピンチ、迫り来る敵の大軍を単騎で蹴散らす一葉パイロット!かっこいい!惚れる!
妄想にふけってしまい、結局一睡も出来ずに朝を迎えてしまった。眠い…
…
PXに移動し、眠い目を擦りながら朝食のサンドイッチを食べつつ「やっと自分の機体が持てるんだ!」と、元々小柄で愛嬌がある彼女が何やら嬉しそうな姿に「なにかいい事あったの?」と、声を掛けてくる人達に話す。きっと私に尻尾があったら今ブンブン左右に振ってるんだろな。
移動の為に午前中で今日の訓練が終わり、荷物をまとめ下松に出発する直前、新所沢駅のホームまでわざわざお見送りに来てくれた唯夢に
「向こうはヤツらの被害が出ていないから、同年代の子が普通に学校生活しているのを見ると羨ましい気持ちになるかもだけど、僻むんじゃないわよ。」
と、言われた。
「でも、制服姿で食べ歩きをしつつ数人で楽しそうに話しながら歩いているのを1回見ちゃうと、何も無ければ今頃3人とも高校生活を謳歌していたのかなって考えたくもなるよね。」
同じくお見送りに来た一那が気持ちは分かると言わんばかりに相槌を打ちながら話す。
「そうなの…かな?」
周りの同年代は、目の前の彼女達含めみんな徴兵組なので純粋に聞いてみる。
「そりゃ、住む場所を取り返す為に僕達は徴兵されているのに、産まれた場所がよかったってだけで同年代の子は学校に行って青春謳歌してるんだから思う所はあるよ。僕もそうだけど、一葉ちゃんだって学校まともに行ってないでしょ?」
確かに、まともに教室で授業受けたのは徴兵されてからだよな…
「でね?それを見た唯夢が、気持ちだけでも味わってみない?って言って2人でたまごサンド買ったのはいいんだけど、パンパンに卵が詰まってるのに、勢いよくかぶりつくもんだから中身飛び散っちゃってさ!写真あるんだけど…見る?」
おっと?風向きが変わったな?
「ちょっと!?その話する!?」
珍しく慌てふためく唯夢。
その慌てぶりから、よっぽど盛大に飛び散らしたんだろう。
見てみたかったが、画像を見せようと操作していた一那の手元から、唯夢が鮮やかな動作で端末を没収したので叶わぬ願いとなってしまった。残念。後で個人チャットに送ってもらおう。
「まもなく、3番ホームに各駅停車飯能行きが参ります。黄色い線の内側までお下がりください。」の放送が流れ、ターンターンターンと西武特有の接近音が鳴り始めた後、電車状態の2000系が入ってくる。
「では、行ってきます!」と、少し寂しさを滲ませながら車内に入る。
ドアが閉まり動き出す瞬間ホームを見ると、唯夢は頑張れ!と言わんばかりに両手でガッツポーズを、一那は笑顔で左手を振っていた。
たった1週間のお別れなのにと思いながら、彼女達が見えなくなるまで、潤んだ目をしつつ敬礼をした。