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街の裏

 ヒュータンという街に来てから1週間が経ちました。

 普通の人なら飽きてしまう頃だと思うけど、今までずっと村で暮らしていた私には毎日が楽しいです。見るもの全てが目新しく映って、ワクワクと心が高揚してしまいます。市場にあるお店一つ取っても村では見たことのない食材が沢山あります。八百屋、肉屋、パン屋、服屋、本屋、雑貨屋、薬品屋、武器屋、それにレストラン。小さなことだけど全てが初体験で、少し前までは考えられなかったことで…。

 これも全部リナさんが私を村から連れ出してくれたからです。だからリナさんには感謝してます。してます、けど…毎晩毎晩、私の体を弄ぶのはやめてほしいです。しかも行為中、リナさんはなぜかキスをし続けてきます。そのせいで最近はリナさんの唇を見ただけで、口が寂しいと感じてしまいます。どうしてくれるんですか…。

 まあそれは置いておいて、街に着いて2日目からの私たちの生活は、まず私が起きた時にリナさんはすでに外出しています。これは毎日のことです。代わりに部屋のテーブルの上には朝食のパンと瓶に入った牛乳が置いてあります。ちなみにクロエさんも毎日のように外出しているので、朝はいつも一人です。

 朝食の後は特にすることも無いので、リナさんが買ってくれた小説を読んで時間を潰します。街のお店に行けたらいいんですが、リナさんに一人で出歩くなと言われているので部屋で大人しくしています。

 リナさんはいつも正午近くに戻ってきて、そこから二人で街のレストランに向かいます。レストランの食事は美味しいの一言に尽きます。昼食の後は、二人で辺りのお店を見て回ります。ほとんど買わずに商品を眺めているだけですが、それが1日の中で一番の楽しみだったりします。

 しばらくしたら、夕食の食材を買って宿泊先に帰ります。ここら辺でようやくクロエさんと合流します。夕食後、雑談をしながら就寝の準備をします。そして夜はいつものごとくです。

 そんな生活を約1週間続けています。

 今日も起床して一人で朝食を食べ、リナさんが帰ってくるまで小説を読みます。ですが…。


「あ…」


 次にめくるページが無いことに気がつきました。どうやらこの本を読み終えてしまったようです。

 これが、リナさんが帰ってくる直前だったら良かったんですが、生憎その時までまだ3時間以上あります。それまで暇を潰せるものを私は持っていません。

 こんなことなら昨日新しい本を買ってもらうべきでした。


「う〜ん…」


 私は窓の外を見ます。

 本屋の場所は分かっています。それまでの道順もちゃんと。お金も、本を買えるくらいの金額を持たせてもらってます。

 …一人で出歩くなとは言われてますが、すぐ行ってすぐ帰ってくれば大丈夫ですよね。1週間同じ道を歩いてるんですし迷子になることは無いでしょうから。

 でも、もしバレたら怒られるかも……いえ、きっとリナさんなら許してくれるでしょう。ああ見えて寛大ですから。

 私はそんな子どもじみた考えで、リナさんの言いつけを破って外に出ました。

 いろんなお店が立ち並ぶ街の中央に来ました。目的地の本屋までもうすぐ…といったところで、私は意識を失いました。



◇ ◇ ◇



 次に目を覚ましたら、誰かに担がれて運ばれているようでした。頭には袋を被せられているようで視界は真っ暗で、両手を縛られている上に口には布を入れられているみたいで声も出せません。そもそも変に騒げば何をされるか分かりません。

 私は殺されるかもしれない恐怖とリナさんの言うことを守らなかった後悔に、静かに震えていました。

 気がついてから数分運ばれ続けていたら、遠くから話し声のような声が聞こえてきました。段々と声は大きくなっていき、すぐ近くまで来たと思ったら床に雑に落とされました。


「ゔっ…!」


「ボス、もう一人持ってきました」


「ああ、後で分けるから置いときな」


「へい」


「ここ3日は景気いいんじゃないですか?」


「こんな商売に景気なんて言葉使うんじゃないよ」


 恐怖に駆られる中、私は私を運んでいた男以外の二人の声に聞き覚えがあると感じていました。いえ、一人に関しては聞き覚えなんてレベルじゃなく…。


「ん?あれ、それってもしかして…」


 その一人が近づいてきて、私の頭に被せられた袋を勢いよく取りました。

 涙を流しながら私の目が映したのは、クロエさんの顔でした。


「あーやっぱりレンさんだ」


「確かお前の連れだったかい?」


「そうですよ、大丈夫ですか」


 そう言いながらクロエさんは口の中の布も取ってくれました。


「クロエさんっ、助けてください!!」


 私は大声でクロエさんに懇願しました。


「えぇ、それはもちろん」


 クロエさんの返答は異様に軽いものでしたが、次の瞬間にはそこの人たちを斬り伏せてくれると思いました。

 …ですが。


「できればこの子は見逃してくれると助かるのですが」


「まあ、戦友の連れならしょうがない。悪かったね嬢ちゃん」


 クロエさんは剣を抜くどころか笑顔のまま話をしていました。私には全てが理解できない状況でした。

 クロエさんに手を縛っている縄を切ってもらい、支えながら立たせてもらってようやくクロエさんの話し相手の顔が見えました。


「あ、あなたは…」


 そこにいたのはサンダーバードを一瞬で倒した、英雄と謳われたナターシャという老婆でした。


「今日は早いですが、お暇させていただきます」


「また来なよ。ガウダ、案内しな」


「へい」


「それじゃ、行きましょうか」


 私を運んでいた男が先に歩き、そのすぐ後をクロエさんと私が歩きました。等間隔で仄かな松明の明かりがあるだけで、通路はとても暗いものでした。そして両脇には檻のようなものがあって中には人影がありましたが、動いている様子は全くありませんでした。

 迷路のような暗い通路を歩いて30分ほど、ようやく石でできた階段が見えてきました。その階段を上ると木で出来た扉があり、その先はどこかの建物の中でした。


「そこから出ろ」


 案内をした男が外に続く扉を指差して言いました。


「どうも」


 クロエさんが返事をすると、男は暗い通路に戻っていきました。


「さあ、外に出ましょう。勝手に外出したと知られれば、怒られちゃうんじゃないですか?」


 クロエさんが外に続く扉に手をかける。


「待ってください!」


「はい?」


「一体どういうことか、説明してくれますか?」


「何をです?」


「何をって…あの檻の中にいたのは、奴隷じゃないんですか?」


「奴隷になる予定の人たちですよ。もう奴隷も同然ですけど。…訊きたいことはそれだけですか?」


「…あのナターシャという人は、英雄なんですよね」


「…」


「どうしてそんな人が、人身売買なんて…」


「レンさんは、英雄というものが敵国でどう呼ばれているか知っていますか?」


「…」


「殺戮者です」


「っ…」


「自国にとっての英雄は、敵国にとっての殺戮者なんです。もっと客観的に言えば大量殺人犯。戦争という場で、何百人も何千人も殺した人間のようなものです。あの人も、私も」


「でも、ここは敵国じゃないですよね?だったら、どうしてあんなことを…」


「大量殺人犯が普通の生活を送れるとでも?」


「…」


「数多の人間を手にかけた者でも、戦争が終われば平穏な暮らしができると、本気で思いますか?戦場に立った者しか理解できませんが、血の匂いも、燃え盛る街並みも、慟哭も、人を殺す感触も味も一生消えないんですよ」


「…………」


 吐き気がしました。戦争というものの惨さと、世間知らずで愚かな自分に。


「それでも、彼女の場合は運が悪かったとしか言えないですけどね」


「それは、どういう…」


「家族を人質にされてるんですよ、この国に」


「…え?」


 クロエさんの言っていることが分かりません。戦争というものがとても酷いことは知りました。でもどうして、国のために戦った人が他でもない自国に家族を人質に取られなければならないのか…。


「戦争が始まった時は、保護という名目がありました。ですが戦争が終わっても、彼女は家族に会わせてもらえませんでした。そして休む間も無く、彼女はこの街の防衛を命じられました。以降20年もの間、1日も休むことなく彼女は魔物から街を守っています。無償でね」


「……だから、あの人は」


「命令に背けば家族がどうなるかわからない。ただ給料がないから日銭は自分で稼がなくてはならない。でも今更一般人と同じような仕事もできない。だから犯罪に手を伸ばす。これが英雄の末路です。納得しましたか?」


 私は俯くと同時にクロエさんの質問に頷いた。

 私ではあの人の苦しみや悲しみを想像することすらできません。ただ、落ち込むことしかできませんでした。


「さあ、行きましょう」


 私は下を向いたままクロエさんについて行き、扉の外の路地裏から通りに出ました。

 そしたら…。


「あっ」


「え?」


「…」


 クロエさんの声を聞いて顔を上げると、リナさんが目の前に立っていて、ジッと私を見つめていました。


「あ、リナさ…」


 するとリナさんは、私の言葉を遮るように頭にポンと手を置いて…。


「今夜お仕置き」


 と、今の私の気持ちを一切尊重しない言葉をぶん投げてきました。


「お昼ご飯に行くよー」


 リナさんはそのままいつものレストランに向かいました。

 私がクロエさんをチラッと見ると、彼女は親指を立てて…。


「グッドラック」


 と言いました。私は初めてクロエさんにイラッとしました。



◇ ◇ ◇



 夜です。お仕置きの時間です。

 お仕置きと言われた時にどんなことをするのか見当はついていましたが、一縷の望みをかけて夕食の時にお仕置きの内容を訊いてみました。


『いつもより激しくするだけ』


 私は絶望しました。こんなことになるなら、お昼まで大人しく部屋にいるべきでした。後悔先に立たずとはこのことだと思います。

 今日もリナさんの前で服を脱ぎました。いつもならこのまま行為に移るのですが、今夜は先に小瓶を渡されました。ピンク色の液体が入った小瓶、そう媚薬です。これを見ると村でのことが蘇ります。


「早く飲んで」


 リナさんが急かしてきます。私は躊躇いながらも液体を飲み干しました。拒否しても無理やり飲まされるだけだと思うので。

 数秒経てば体が熱を帯びていきます。数十秒経てば呼吸が荒くなっていきます。そして数分経てば、体は無意識に快楽を求めるようになってしまいます。

 通常時ではあり得ない、とてつもない性欲を抑えることに私は必死でした。でもリナさんにとってはそんなこと関係なくて、動けない私に近づいてきて、荒く呼吸する口を塞いできました。


「ん゛…ん゛ん゛っ」


 リナさんの舌は生き物の様に蠢いて、私の口の中を蹂躙しました。


 クチッ


「っ!!」


 そこから重ねてリナさんは、私の中に指を入れてグチュグチュと音を立ててかき混ぜ始めました。

 その瞬間、ものすごい速さで快楽が駆け上がってきました。それはそのまま私の脳を貫いて、体は大きく跳ねて一瞬で達してしまいました。その強烈な快感に立っていられず、私はリナさんに掴まりながら絶頂しました。

 いつもは一度達してしまったらリナさんは余韻の時間を与えてくれます。でも今夜は違いました。お仕置きだからそりゃそうだとは思いますが。

 リナさんは私が達しても構わず中の指を動かし続けました。


「ん゛っ!!??ん゛ん゛ぅ!!!」


 私はまたすぐに絶頂を迎えました。それでもリナさんは指を止めてくれません。絶え間ない快楽の波に頭が吹っ飛びそうです。

 また絶頂…。どれだけ脳が拒んでも、体は言うことを聞かずに快感を溜め込んで飛び跳ね続けます。部屋の中では私の水音が、二人の口の中では私の呻き声がずっと響いてました。

 また絶頂…。その間もリナさんのキスは続けられており、せめて口で息をしたくてリナさんから口を離そうと試みるも、彼女はそれを許さずすぐ追ってきて口を塞ぎます。

 また絶頂…。次第に抵抗したくてもできなくなってきて、視界がチカチカとしてきて意識が火花を散らし始めます。

 また絶頂…。気絶してしまえば楽だと思いますが、こんな時に限ってなかなか気絶してくれません。

 また絶頂…。段々と頭が快楽一色に染まっていきます。

 また、絶頂…。快感以外の感覚が消えていきます。

 また…。もう、何も、考えられ…。

 …。…。…。…。…。…。…。…。…。…。…。


 1時間後。


「ゼヒューッ!!ゼヒューッ!!」


 ようやく指が止められ、口も離してもらって、私は床に倒れ込みながら死にかけかのように呼吸していました。

 指を止めてもらってもまだ快楽の波は収まっておらず、未だ絶頂は続き私はビクビクと体を震わせていました。

 リナさんの服と部屋の床は、私が吹き出した液体でびしょびしょになっていました。

 少し経ってようやく落ち着いてきたら、リナさんが私をゆっくり起こして緑の液体、回復薬を飲ませました。

 疲労感や眩みは無くなりましたが、さっきまで絶え間なく注がれた快楽はまだ体の中に残っている感じがしました。

 でも、ようやくお仕置きが終わりました。


「じゃあ、第2ラウンドいこうか」


「……え?」


 あの地獄がまだ続く?

 割と本気で嫌でした。だからリナさんにちゃんと謝って許してもらおうと思いました。


「か、勝手に外に出て…」


 ガバッ


 謝ろうとしたら急にリナさんが私を抱きしめて、何かから庇うようにクルッと私と自分の位置を入れ替えました。


 ガシャーン


 そしたら急に窓が割れて見知らぬ女性が部屋に侵入してきました。


「はぁ〜あ、や〜っと見つけた」

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