街
「見えてきましたよ、あれがヒュータンという街です」
レンがいた村を出発して4日。
クロエがそう言うと、隣のレンが窓の外を覗き込んだ。窓の外には外側を壁と堀で囲われた大きな街があった。
「すごい大きい街ですね」
「ヒュータンは元々戦争時代の重要拠点だったところだからね。周りの壁と堀もその名残だよ」
街に近づくほどその大きさが分かってくる。
壁の高さは20m以上あり、堀は幅が50mで深さは底が見えないほどだ。
私たちは堀の上にかかる橋の上を進む。
「うわぁ…。これ、底が全く見えませんね」
「噂じゃ、底なしって言われてるんだよ」
「底なし、それってあり得るんですか?」
「真偽は分からないけど、戦争時代に作られたのならあり得るかもしれないね」
「その時代、各国が強力な魔法技術を躍起になって考えていました。そこから生まれたものは、今までの摂理を変えてしまうほどでした。ですが、他でもなく戦争によってその多くが失われてしまいました。失われた魔法技術を遺失技術と言い、それを復元するためにそれぞれの国の学者が奮闘しています」
「その、遺失技術って、どんなものがあったんですか?」
「……えーと」
「使用者の命と引き換えに石の雨を降らせる魔導書、人の血肉を吸って成長する剣、100人の命を蓄えて1人を蘇らせる杖とか…他にも色々あるけどね」
「…なんというか」
「クソの役にも立たないでしょ?。生活のための技術は戦争にも使えるけど、戦争のための技術は戦争にしか使えない。まあ、中には役に立つような便利な魔法技術もあるようだけど。でも、庶民にとってはそんなものよりコップ1杯の水の方が価値があるのにね」
「…私には、まだよく分からないです」
「分からなくていいんですよ」
「そうそう、レンは知る必要が無いことだよ」
「……私は」
レンが何か言いかけた時、ゴオォォッと言う音と共に突風が吹いて馬車が激しく揺れる。
「きゃっ」
「…ただの風、ではなさそうだね」
レンを馬車の中に置いて、私とクロエが外に出て状況を確認する。
「あれの仕業のようですね」
「あ〜、サンダーバードか」
堀の上で巨大な鳥が羽ばたきながら、私とクロエと目を合わせている。
「遠いなぁ」
「ですが、すでに奴の射程圏内ですよ」
ギエェェェエェェェ
「来るぞ」
「分かってら」
「あ゛?」
サンダーバードがけたたましい叫び声をあげると、両翼から雷がこちらに向かってくる。
「水刃」
クロエが剣を勢いよく引き抜き、サンダーバードに向けて振った。するとそこから、弧の形をした水の刃が飛んでいき、サンダーバードの放った雷とぶつかる。大きな衝撃音と共に双方の魔法が爆ぜる。
「ここから倒せる?」
「30秒ほど時間を稼いで頂けたらいいんですが」
「う〜ん、私はろくな魔法使えないからな。どうしたものかな…」
どうしようかと悩んでいると、壁の上に人影が見えた。
その人影は、身長と同じくらいの杖を空に掲げた。すると小さな光の玉が出現した。
「あの人は…」
光の玉はものすごいスピードでサンダーバードに向かい、胴体を貫いた。その後すぐに方向転換して再びサンダーバードの体を貫く。
およそ10秒の内に、光の玉は50回以上サンダーバードを貫いた。そして最後に眉間から頭を貫いて、巨鳥は奈落へと落ちていった。
「すごいな、高密度の光魔法でサンダーバードを一方的にズタズタにして殺した」
「…まだ生きていたのか」
「知ってる人?」
「えぇ、ちょっと…」
「…まあいいや、早く街に入ろう。このままじゃ宿を見つける前に日が暮れる」
馬車に乗り込み、怯えていたレンの頭を撫でて落ち着かせ、そのまま街に入った。
馬車を指定の位置に停めて宿を探しに行こうとすると、ローブを纏った背の低い人がこっちに近づいてきた。片手に身長大の杖を持って…。
「まだ生きてたんですね」
「会って一言目がそれか。相変わらずじゃのう、クロエ」
「えっと、誰ですか?」
レンが小声で私に質問する。
「ナターシャ・ウィリレウス。世界で最も卓越した魔法使いと言われている、戦争時代の英雄だよ」
「その年でよく知ってるねぇ。この街以外の若者は、儂の名前も知らないって奴がほとんどだってのに」
「歴史は必修科目でしたので」
「そうかい。で、10年も王都に引きこもってたアンタがどうしてここにいるんだい?」
「仕事です。お嬢様の護衛を任されたので」
「アンタみたいなのが仕事か。でも、護衛ってのはピッタリの仕事なんじゃないか?」
「そうですね」
「クロエ、久しぶりに呑まないかい?」
「…明日でしたら」
「よぅし、明日の正午またここに来な。とっておきの酒場に連れて行ってやるよ」
「楽しみにしておきます」
クロエと話し終えると、老婆はゆっくり歩いて去って行った。
「…私の護衛って誰だっけ?」
「さあ?ちょっと忘れてしまいましたねえ。まあ、この街の治安はそこまで悪くないですし」
「悪くはないけど良くもないんだよ」
若干クロエを睨んで言う。
「よ、良くないんですか?」
「レンさんのことはお嬢様が守りますから大丈夫ですよ。だってレンさんはお嬢様の物ですから」
「……ハァァァァァ」
クロエに呆れて長いため息を吐いた後、3人でギルドに向かった。
レンはこういう街に入ったのは初めてだったようで、忙しなく周りを見ていた。
レンガ造りの住居や倉庫、田舎ではまず見かけない高い建物ばかりが立ち並んでいる。街の中心に近づくにつれて、様々な店が軒を並べている。
歩いてすぐに、「ギルド」と書かれた看板をぶら下げた白い建造物があった。
「ここがギルドですか?」
「そうだよ」
「…ギルドって、何をするところなんですか?私がいた村には無くて」
「ギルドの役割は主に2つ。諸々の手続きと人間の管理。私たちは今から、この街に入ったってことをギルドに知らせに行くんだ。そうじゃないと不法侵入になって罪に問われるからね。そこでついでに宿泊できる場所も訊くんだよ」
「な、なるほど…」
私たち3人がギルドに入る。まず目に入るのは豪華な装飾、そして広さだ。王都のギルドとまではいかないが、ヒュータンも大きい街だから納得だ。
私たちは複数ある窓口の内の一つに向かう。
「こんにちは。今日はどういったご用件でしょうか?」
「街に入る手続きを」
「畏まりました。少々お待ちください」
受付嬢が書類を用意する。
…この子、おっとりした顔をして胸がとても大きい。クロエよりも大きい。激しい動きをすればボタンが弾けそうなほど、服を張らせている。
隣を見ると、レンが受付嬢の胸をガン見していた。
「こちらに、街に入る人の名前を全て書いてください」
今日の日付のみ書かれた紙を差し出される。
近くの羽ペンを持って、私が3人の名前を書く。
リナ・シュレイセンデラー、クロエ・ワンドレイン、レン・テトレア、と。
「ありがとうございます。では街から出る時も手続きをお願いします」
「宿泊施設はどこにあります?」
「ギルドを出て左に数分歩けばいくつか見えてきます」
「どうも」
私たち3人はギルドを出て宿泊施設に向かう。
「…」
「さっきさ、受付の子の胸見てたでしょ」
「えっ!?…み、見てないです、けど」
「ふ〜ん、あっそ。…そうだ」
クロエに銀貨を数枚渡す。
「あ、お給料ですか?ではありがたく」
「チ・ガ・ウ!明日呑みに行くんだろ。代わりに今日の夕飯3人分、お前が買ってこい」
「…了解です」
クロエは銀貨を握り、そのまま市場に向かった。
「はぁ、舐めてんな」
「…」
「まあいいや、泊まれるところ探そう」
「はい…」
それから私とレンで宿泊先を選び、2部屋を借りた。
ちょうどクロエの奴が戻ってきたから3人で食事を摂った。そして歯を磨いたり体を洗ったりしてるうちに夜になった。
「…今日も、するんですか?」
「もちろん、こういうのは継続してこそだからね」
レンがスルスルと服を脱ぎ始める。
少し顔を赤くして、まだちょっと恥ずかしそうだ。
「じゃあ、昨日言った通りにやってみて」
「は、はい…」
ベッドに座る私にレンが近づく。
「ん…」
レンが私の頭に腕を回し、初々しくキスをする。
…10秒くらい続けた後、レンが唇を離す。
「まだ」
「…」
再びレンがキスをする。
また10秒くらい経った頃に、レンの胸の凸をカリカリと弄り始める。
「んっ…」
少しビクッと体が反応したが、レンはキスを続けた。
さらに5分後。
「………あ、あの」
「まだだよ」
「う…」
再度レンがキスをする。
そこから舌を入れたり、抱きしめ返してベッドに倒したり、弱いところを攻めて何度も達するのを見たりしていた。約1時間、一度も唇を離さないまま。
「はぁ……はぁ……」
ヘトヘトになってぼんやりとしたレンの頭を優しく撫でる。
「おやすみ」
私がそう言うと、レンはゆっくり目を瞑った。
「スゥ…スゥ…」
レンの寝息が聞こえてくる。
彼女の液が付いた手をペロッと舐めて、レンの体を軽く拭いてからブランケットをかける。
そのまま明かりを消して、部屋を出る。
◇ ◇ ◇
「いらっしゃいませ、星の夜へようこそ!一名様ですか?」
「うん」
「ではそちらで好きな娘を指名してください。それでは、素敵な夜を」