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魔物

 レンがいた村を出発して8時間、木々が生い茂った森の道を馬車が進んでいる。


「…」


「…」


「…」


 私は小説を読み、クロエは窓の外をただ眺めている。そんな中、私の隣でレンが気まずそうに座っている。


「…」


「…」


「…あ、あの」


 とうとうこの空気に耐えきれずレンが喋り出す。


「村に来る前もこんな感じだったんですか?」


「こんな感じって?」


「ずーっと無言、みたいな」


「あー、特に会話しなかったかな」


「しませんでしたね、12時間くらい」


「い、嫌でもお喋りしたくならないんですか?私はもう限界なんですが…」


「ん〜、私は別に…」


「出兵の時は1日喋らないこともザラでしたから、何とも思いませんね」


「そ、そうですか…」


「レンが喋りたいなら喋ってもいいんだよ?」


「喋りたいというか、出発時から困惑してるんですが」


「何に?」


「この馬車、いやもはや馬車なんですかこれ!?」


「馬車じゃないのこれ?」


「私は馬車だと思ってましたが」


「馬いませんけど!これが最新の馬車なんですか!?」


 引く馬がいなくても、この馬車は問題なく進んでいる。


「そういうことね。この馬車、王都の技術者の試作品でさ、魔力で動いてるんだよ。端的に言えば」


「魔力で?」


「うん。だから、魔力を込めたり魔石をセットすればこの馬車は動くんだ」


「へ〜、そうなんですね」


「ていうか、もう午後3時過ぎたね。今日はこの森で一夜を過ごすことになりそう」


 そう言うと、レンが嫌そうな顔をした。


「ふっははは。野宿は嫌か」


「まだ何も言ってませんけど…」


 レンが不服そうに言う。


「まあ、その前に食料を集めないとね。非常食はあるけど、あくまで非常食だからね」


「今夜の夕飯は現地調達するしかありませんね」


「え〜…」


 レンが嫌そうな顔で嫌そうに言う。


 私たち3人は馬車を降りて、私とレン、クロエの2組に分かれて食べられる物を探した。


「…本当に、食べ物なんてあるんですか?」


「きのこか薬草くらいあると思ったんだけどなぁ…」


 草を掻き分けて森の中を進むが、それらしい物は見つからない。


「あ、あの…この森って、動物とかいるんですか?」


「いると思うよ、動物とか魔物とか」


「ま、魔物!?」


 魔物とは、簡単に言うと魔石を体内に取り込んだ動物のことだ。元々大人しい動物であっても、魔物化すると凶暴になるそうだ。


「や、やっぱりクロエさんと一緒の方がよかったんじゃないですか!?」


「大丈夫、そうそう出るもんじゃないし」


 辺りをキョロキョロ見て怖がっているレンを背に、進んでいく。

 ある程度歩いたら、開けた場所に出た。


「おぉ…」


「わぁ…」


 先を見ると、大きな滝が聳えていた。


「こんなとこに滝があったなんてね」


「さっきまでの音は、これだったんですね」


 崖上から轟音と共に大量の水が流れ落ち、水飛沫を上げながら川を形作る巨大な瀑布は、自然の雄大さを連想させた。


「…」


 レンはすっかり目の前の光景に見惚れているようだ。


「…」


 サワ


「ひあっ…」


 お尻を触るとレンが可愛らしい声を出す。


「え…何で、今、お尻を…」


「ん?可愛いお尻だな〜と思って」


 私はレンに近づいて、背後から指で下腹部をなぞる。


「あっ…」


 続いて、もう片方の手を服の中に入れて胸の頂きをカリカリと擦る。


「ンッ…ハッ…」


「レンって元々感度いいんだね、これなら媚薬もいらなかったかな。それとも…昨日のこと、体が思い出しちゃった?」


 私がレンの耳元で囁く。

 同時に下着の中に手を入れて、股の割れ目を指で擦る。


「あっ、やっ!」


 レンが分かりやすく感じた声を出す。

 段々と指の動きを速くする。


「ああっ、ンアッ…!」


 レンの体はビクビクと反応し、慣れてないであろう快楽を必死に受け止めている。


「り、リナさっ…!もうっ…」


「こっち向いて」


 レンの顔をこちらに向かせてキスをする。

 その瞬間、レンの体が大きく跳ねる。私は両手の動きを止めて、ゆっくりと唇を離す。私とレンの舌を透明な線が繋いでいた。

 レンの意識は甘い絶頂の余韻を愉しんでいるようだった。


「ハァ…ハァ…」


「…いいとこなんだけどなぁ」


「はぇ…?」


 レンが私の視線を追って横を見る。


「……」


 低く唸り声を上げる狼が5匹、私たちを半円形に囲っていた。狼たちはそのままジリジリと近づいてくる。

 レンの顔を見ると、死を悟ったような顔で目に涙を浮かべていた。

 私は懐からナイフを取り出す。それと同時に狼たちが走り出す。


「っ…!」


 レンが私の腕に強く掴みかかる。

 私は持っていたナイフを落下させる。空中のナイフは自然と狼の方を向き…。


 ドスッ


 ナイフが1匹の狼の額に突き刺さる。


 ズボッ


 すぐにナイフは抜けて、残りの狼の喉を切り裂く。

 ナイフを落としてから全滅まで、およそ5秒である。本当に便利だ。

 パシッと戻ってきたナイフを掴む。


「よし、オッケー」


 狼は倒したが、レンはまだ固まったままだ。


「レン?」


「何が、何が起こったんですか…?ナイフが勝手に狼を一掃して…」


「浮遊魔法の応用だよ。頑張ればあんな感じで出鱈目な動きもできるんだよ」


「そ、そんなに強いなら、最初から言ってくださいよ。本当に死んだと思いましたよ」


「ごめんごめん。でもやっぱり、怖がってるレンも可愛いね」


「や、やめてください…」


「イキ顔が一番可愛いかったかな」


「やめてください!」


 レンをからかうのもこれくらいにして、倒れた狼の内の1匹に近づく。


「その狼、どうするんですか?」


 ザクッ


「!」


 さっきのナイフで狼の腹を裂く。そして手前の内臓から引きずり出していく。


「うっ…」


 レンが思わず目を逸らす。


 グチャッ グチュッ


「んー…。あったあった、これだ」


「え?」


 後ろのレンに、狼の心臓を見せる。


「ひ、ひいぃぃぃ…」


 レンが悲鳴を上げながら後ずさる。


「どうやら、この狼たちは魔物だったみたいだ」


「…どうして分かるんですか?そもそも動物と魔物の違いって、具体的には何なんですか?」


「魔物っていうのは動物が魔石を取り込んだものを言うんだけど、魔物になってすぐの奴らは凶暴性こそ増すものの、外見は全くと言っていいほど変わらないんだ。もちろん、魔物化して時間が経てば体も変形する。ドラゴンとかオークがいい例だね」


「じゃあ、魔物化してすぐのものを見分けるのは…」


「そのために真っ先に見るのがこれだよ」


 私は再びレンに心臓を見せる。


「そ、それが何なんですか…?」


 レンがまた目を逸らす。


「…。魔物は多かれ少なかれ体内に魔石の結晶を形成する。それが一番できやすいのが心臓なんだ。これもよく見ると表面に結晶ができてる。これの汚れを落として綺麗にすれば魔石になるんだよ」


「そ、そうなんですね。分かりましたから早く戻りましょうよ」


「まだ4匹残ってる。そうだ、レンもやってみればいい」


「嫌です」


「これも経け…」


「イヤですぅ!!!」


「……りょーかい。でも、結晶を洗うくらいはしてよ。早く戻りたいんだろ?」


「…分かりました、それなら…」


 それから私が残りの狼から心臓を取り出して結晶を切り取り、レンが近くの川で結晶を洗う作業をした。


「うん。上出来」


 片手に収まるほどの魔石を見て言う。


「狼5匹でも全然取れないんですね。これは全部売るんですか?」


「いや、馬車の動力にする」


「そのくらいじゃ、1日も保たないんじゃ…」


「いや、5日は保つ」


「い、5日もですか!?」


「ね、あんなことしてまで取った甲斐があっただろ?」


「そう、ですね。そう言えば、食材を全く見つけてないんですが」


「…クロエが何か見つけてるでしょ」


 そうして私とレンは馬車の方に戻った。

 戻ったらクロエが猪を狩っていたから、今夜は3人でそれを食べた。

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