追放された令嬢
「お嬢様、おやめください!!」
屋敷に仕える侍女を顔の骨が折れるほど殴った。
「き、貴様…こんなことをして、タダで済むと思うな!!」
婚約相手の第三王子の手にナイフを突き刺した。
「リナよ。聡明だったお前が、訳もなくこんなことをするはずがない。理由があるなら話してくれ…頼む」
「…理由などありません、父上。これが、今の私です。どうか、親子など関係なく、相応の処罰を」
父は顔を歪め、母は涙を流した。
そうして1週間も経たずに、私は王都から追放された。
◇ ◇ ◇
ガラガラと、車輪が地面を擦る音がする。およそ半日前からずっと続いている。
追放されてから約12時間、ずっと馬車に揺られている。王都はすでに見えなくなっており、窓の外には何も無い平原が広がっている。
読んでいる小説も、もう4冊目だ。こんなことならもっと持ってくればよかった。
「お嬢様、もうすぐ最初の村に着きますよ」
「…ようやく?」
「半日など短い方ですよ」
いま話しかけてきたのは、唯一私につけられた護衛兼従者のクロエ。無愛想で可愛げのかけらもなく男みたいな女である。ただ、実力は折り紙つきだ。王都でも上位の強さだという。
馬車が止まり、私とクロエが降りる。
「フツーの村だな」
「これでも富んでいる方ですよ。王都からも近いですし」
クロエが近くの村人に話を聞く。
「すみません、この村に宿泊施設はありますか?」
「あ〜…宿は無いけど、あっちの方に空き家があったな。自由に使ってよかったはずだ」
「分かりました、ありがとうございます」
「でも、アンタら…そこらの平民じゃないだろ。服からして、どこかのお貴族様じゃないのか?」
「いえ、私たちはそういうのじゃありませんのでご心配なく。それでは、空き家は使わせて頂きます」
「あ、ああ…」
そうして私とクロエは空き家の確認をした後、村を歩いて回ることにした。
「思ったより子どもいるもんだな」
「そうですね」
子どもたちが無邪気に笑って走り回っている姿を見ていると、微笑ましく思える。それと同時に悲しさも込み上げてくる。
村の中央の広場に来た。
「あれは…」
「おそらく商会の下請けでしょう」
広場には馬車が3台停まっており、その近くで人々が売買している。
「せっかくだし、何か見てこうかな」
「お嬢様、お財布は持ってきましたか?」
「そのくらい持ってきてるわ、馬鹿にしてる?」
「そうですか。まあ、私は忘れたんですけど…」
「…え、王都に?」
「いえ、馬車の中に」
「じゃ早く取りに行きなさい」
「ッス」
クロエがわざとらしい駆け足で来た道を戻る。強いけど間抜け、それがクロエ・ワンドレインという女なのだ。護衛には丁度いいが、私の趣味じゃない。
まあ、あのアホはほっといて市を見よう。
村に来たにしては、色んなものが揃ってる。王都に近ければこんなもんなのかな。
何か果物でも買っていこうと思ったら…。
「お願いします!今回だけ、今回だけですから!」
「そう言ってこの前もおまけしてやったじゃねえか。今日という今日はダメだ」
「…」
少女が売人の男に懇願している。
「そこをなんとか、お願いします!」
「いい加減…」
「私が出そう」
「え?」
「これで足りるか?」
私は少女と男の間に銅貨を十数枚出した。
「あ、ああ…」
男は戸惑いながらも、袋に入った野菜と果物を渡してくれた。
「どうも。はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます。何とお礼を言ったらいいか、このお金はいつか…」
「それより、話し相手になってくれない?」
「あ、はい…」
そうして、私と少女は近くのベンチに座った。
「私はリナ、君は?」
「レンです」
「レンちゃんはお金無いの?それともさっきのは値切るためのお芝居?」
「ほ、本当にお金が無いんです」
「一人暮らしなの?」
「お父さんがいますが、働いてなくて…。私が他の家の手伝いをしたりして日銭を稼いでます」
「大変だね」
「リナさんはこの村の人じゃないですよね。どうしてこんな村に?」
「王都から追放されたからさ、旅をしようかなーって思ってさ。とりあえずこの村に立ち寄ったんだ」
「つ、追放ですか!?何をしたんですか?」
「まあ、色々とね〜…。実家からお金もくすねてきたから、行けるとこまで旅しようと思ったんだ」
「そ、そうなんですね…」
「………ちょっと、お花摘みに行こうかな。もしアレなら、帰ってもいいからね?」
「あ、はい…」
立ち上がって、レンに背を向けて歩き出す。
ポトッ
そしたら財布を落とし、そのまま歩いていく。
レンの視線は落ちた財布に向いた後、すぐに私の背を見た。私が十分離れたことを確認したら、財布を拾って中を見る。中には金貨が10枚以上入っており、その中から2枚を手に取った。
その瞬間、初めて自分の首元に剣を置かれていることに気づいた。
「ひっ…」
「お嬢様の財布に、御用がおありですか?」
「…」
「返答次第では、今ここで斬首に処すことになりますが」
「…ひ、拾った、落としたので、拾っただけです…」
「そうですか。では何故、財布から金貨を取り出したのですか?」
クロエがレンの顔を覗き込む。
「ハアッ……ハアッ……」
「おーい」
「!」
「お嬢様?」
「あんま虐めてやるなよ。財布は私がわざと落としたんだから」
「そうでしたか」
「わ、わざと…?」
「うん。まさか本当に盗もうとするとは思わなかったけど。恩を仇で返されて悲しいなー、どう落とし前つけるぅ?」
私はしゃがんでレンの頭をポンポンと叩く。
レンは恐怖でフルフルと震えている。
「ゆ、許してください。何でもしますから…だから、命だけは…」
レンが私に土下座する。
「今、何でもするって言ったね」
◇ ◇ ◇
夜。空き家の寝室。
「傷はつけないから、リラックスしていいよ」
「…は、はい」
「それにしても、もっと嫌がるもんだと思ったけど、案外素直に了承したね」
「何でもすると言ったのは、私なので」
「まあいいや、自分で脱いで」
私はベッドに座り、前にレンを立たせて服を脱がせる。
彼女が自ら衣服を剥ぐごとに白い肌が露わになっていく。
「下着も脱いでね」
恥ずかしそうにしながら下着も脱ぎ捨て、ついに一糸も纏わぬ姿となった。さすがに手で秘部は隠しているが。
「やっぱりな…」
レンの体には痣や火傷の跡が複数あった。
「父親に?」
「はい…お酒を飲んで機嫌が悪いと、殴ったり、煙草を押し付けたりします」
「…ハアァ、ちょっと待ってて」
私はバッグから緑の液体が入った小瓶をレンに渡した。
「こ、これは…?」
「いいから飲んでみ。毒じゃないから」
レンが恐る恐る液体を飲む。
「ゔー。不味いです」
「あっはは、言うねえ」
すると、レンの体にあった痣や傷がどんどん治っていく。
「……」
「一応安全な市販の回復薬なんだけど、痛みとか痒いとことか無い?」
「…はい」
「よかった。じゃあ…」
「リナさんは……私はあなたのお金を盗もうとしたのに、どうしてこんなに優しくできるんですか」
「優しく見えたの?」
「だって、回復薬なんて高価なもの…」
「分かってると思うけど、お金は有り余ってるからさ。それに…」
レンの顎をクイッと上げる。
「レンは可愛いんだから、傷があっちゃ勿体ないだろ?」
少しだけレンの顔が緩む。
「そうだ。念の為、こっちも飲んどいてもらえる?」
今度は薄いピンク色の液体が入った小瓶をレンに渡す。
「これも何かの薬ですか?」
「まあそんなとこ。とりあえず飲んでみて」
レンが、今度はグイッと液体を飲む。
私は空になった小瓶を受け取る。
「どう?」
「少し、甘いような…」
「最近の媚薬は味にも気を配ってて良いよね」
「………………え?」
「体を好きにしていいって、了承したのは君だからね?」
驚きと怒りが混ざった表情の彼女を眺めてると、段々と顔が紅潮し、息が荒くなってくる。
胸の突起はツンと勃って、股からはポタポタと汁を滴らせ始める。
「ハァ、ハァ…んむっ」
辛そうな彼女を抱き寄せて、唇を重ねる。
「ん〜、ん……」
キスの最中、レンは息を止めていた。だから10秒も経たずにキスを終わらせた。
だが、ウブな彼女を蕩けさせるには十分だった。
精一杯息を吸うレンの頭を優しく撫でる。
そして耳元で囁く。
「安心して。ちゃんと気持ち良くしてあげるから」
その夜は、日付が変わるまでレンの華奢な体を弄んだ。
◇ ◇ ◇
「…………わっ!」
レンが飛び起きる。
「…あ、朝?」
「あ、起きたね」
私は寝室に入ってホットミルクをレンに渡す。
「あ、ありがとうございます」
「体の調子はどう?」
「全身バッキバキです」
「あれだけイキまくってたらそりゃあね」
「い、言わないでください…」
レンがゆっくりホットミルクを飲む。
「これから家に帰るんだろ?」
「はい、そうですね…」
「もしレンさえ良ければ、私たちと一緒に旅をしないか?」
「え?」
「正直これからの旅、私とクロエだけだと退屈で死んじゃいそうなんだよね。それに…」
レンの桃色の髪に触れる。
「私自身、レンのことを気に入ったってのもあるかな」
「……」
「強制はしない、決めるのはレンだよ」
「…………私も一緒に行きたいです」
「いいの?お父さんを置いていくことになるけど」
「いいんです…。確かに悪い思い出だけではありませんが…今のお父さんは、私をお金を稼ぐ道具としか思ってませんから」
私はレンの頭を優しく撫でる。
「それでも、少しでも、救われてほしいとは思います。他人事になってしまいますが」
「救済かぁ……。そうなればいいね」
◇ ◇ ◇
「本当にお金を持ってこなくてもいいんですか?」
「いいのいいの」
私とレンは、空き家を離れて馬車の方に向かう。
「それより、お別れはよかったの?」
「それこそいいんです。怒鳴って殴られるだけなので…」
馬車の近くでは、クロエが剣を拭いて待っていた。
「付いていくことにしたんですね」
「は、はい、よろしくお願いします」
「昨日は随分とお楽しみなようでしたが」
「…そ、そんなに、声大きかったですか?」
「下の階にいましたが、とても気持ち良さそうでしたよ」
レンが両手で顔を覆う。
「それよりクロエ、ちゃんと処理した?」
「…処理とは?」
「…え、まさかそのまま?」
「言われたことしかしてませんが」
「ハァァ……」
クロエの融通の利かなさに頭を抱える。
「あの、何の話ですか?」
「天使の代わりの話。末が天か泥黎かは知らないけど」
「?」
「終わったことだしいいよ。じゃあ、出発しよう」
2人と一緒に馬車に乗り込む。
話が進むにつれてダークさが滲み出てきますのでご注意を。不定期更新です。