久しぶり
久しぶりに会った人間は私を認識できるようで、警戒している。しょうがないこちらから話しかけるかぁ
美味そうな匂いを放つ人間の女は、何度も死にそうになっても此処まで生きてきたようだ。色んな事を諦めても、周りの人に感謝する事を忘れない。好かれるタイプの人間だ。でも根強い暗い部分も持ち合わせている。なんだろう。知りたい。好奇心は猫をも殺すって言うけどな
「久しぶりにここまで来た人だから丁重に扱うよ。話し合い手になって」「帰りはちゃんと送って行くからね。」
丁重に扱ってるのに細かいことを言う人間だ。
「話しってどんな話し?」
「いつ帰してくれるの?」疑り深い。生死は問わないなら直ぐにでも返せるがな。と言ったらどうするかな。意地悪するのはやめとくか。
「君の人生変わってる考え方も幾つかの質問に答えてくれ」「帰りは1月後パーティの後送ってく」やっと彼女は
「わかった」っておれの手をとった。楽しい1月になりそうだ。水面から見てるだけで毎日がつまらない。前は、私を認識してくれる人間もいたが今は滅多にいない。しかもここまで来てくれる人間は尚更だ。
屋敷の者達は久しぶりの来客に大喜びだ。
とうとう奥方を迎える気になってくれたのですね。なんていいやがる。
私はこの湖の主である龍神だ。昔はもっと龍神仲間が居たが、信仰心も薄くなり、存在が曖昧になり、子孫を残せず絶えた家も多い。この土地は、まだ龍神祭りなどもあり、お囃子も奏でてくれる。龍神になれない者達を保護して、屋敷に住まわせている。人間とは時の経過が違い過ぎて、共存は難しい。だが、龍神にならなくても、皆働き者で才能豊かだ。
さて、久しぶりの楽しい食事の時間だ。
上気した血行の良い顔で、彼女が入室した。
お腹空いていたのか、とても美味しそうに食べている。
普段は執務室で済ませている食事も、彼女と居ると特別美味しく感じた。
誰かと食卓を囲むのはこんなに気持ちが明るくなる物だったんだな。なんて思いながら、彼女の匂い、本質を探ろうと
「これからは君が答えたくない事も聞くかもしれない非礼は先に謝っておく。拒否権はない。」とつたえたら、不満顔になった。ハハ百面相だな。
ここまでが、行ったり来たり簡単にできない事。帰すためには龍神の力が必要で、それには条件がある事などをはなした。
彼女は改まって「で、何が聞きたいのかしら?」警戒感も露わに答えた。
「君の恨んでる人嫌ってる人についてかな」
驚いた顔の彼女に「君は人を嫌ったり排除したりしないよね。でも唯一許せないでいる人がいるでしょ何故?」
彼女の人生をのぞいたら幸せだと呼べる期間は極端に少ない。人生薔薇色と言われるように、幸せの期間は紅く色づいて苦しい期間は白から青に近い色をしている。冬は必ず春となると言う言葉が好きらしいが、報われない事の方が多い人生をポジティブに生きて来たようだ。
それなのに1人の男に囚われ、怒りを抱えている。何故だ。イライラする。
「暴力を振るったのも数えるくらい。それ以上に暴力を振るった人もいるのに過ぎた事。って名前も覚えてない。」「何事も執着、独占欲がなく、諦観主義、そんな君が許せないと思う人は何をしたのか」と問いかける私に、一瞬嫌な顔をしたが思い当たる人物がいるらしい。
「一方的な意見として聞いてね。離婚するときに協議離婚にして裁判で取り決めをしなかった。決めたのは親権を私が貰う事。慰謝料も養育費もなかった。相手はすぐ再婚して、男の子がうまれてた。奥さんに夫とお母さんからも養育費も何も払う必要がない子供がいることは聞いてます。って言われた。子供は一人で作れないのに何言ってるんだろう。って養育の義務を放棄してる人と結婚したり、父親とする事に不安がないのかな、って思ったの。こんな人を父親だと思ってきたなんて、子供に会わせられない。そう思っているだけ。恨んでる訳じゃないです。」そう言う彼女は傷ついていた。人間の時間で短くない時、30年も経つのにいまだにその事実に傷ついてる彼女に追い討ちをかけた。
「祖父母は?支援してくれなかったの?」
「嫁として認められてなかったんだと思います。」また傷ついた様に話す彼女に、少しイラッとしたが、
「恨みも嫌いって感情も何もないです。私の人生で残ったのは子供、めちゃくちゃ働き物で、優しいセンスの良い子なの。自慢〜ふふふ考えてるだけで会いたくなった。親バカ上等ふふ」と楽しそうに笑いながら、話してくれる彼女は子育てが楽しい幸せな時期だったのだろうとわかるくらい桃色を放ちはじめた。
子供に嫉妬してもしょうがないと思いながら、
「今日はこの辺で庭に行かないか」と散歩に誘った。
初めて彼女と会った時を思い出す。
彼女はまだ子供で、旅行で訪れていた。傘をさしながら祠を参ってくれた。覚えているだろうか、あの時龍と麒麟の違いを教えてと父に強請っていたのを聞いていたんだよ。と伝えたら運命を感じてくれるだろうか。




