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え、呼び出しですか?

「出番、なかったわね」

「・・・何よりですよ」

 鏡の中、私の後ろのアンがちょっと残念そうなので声をかけてみた。


 あの騒ぎを解決した最大の功労者は私の部屋の扉である。

 なんだかなーという気分なのは私も同じ。


「結局、出かける準備をするなんて!」

 うん。違った。

 ゴロゴロした後、寝るだけの予定が無くなったのが気にくわないようだ。


「もう! 無駄に長いんですから! この髪!」

「おぉい!」

 言っちゃいけない愚痴まで漏らし始めている。


 うちの両親は、お城に私室があるので、今日は卒業パーティー出席後お泊まりだ。

 そして、明日はとある(・・・)理由により、夕方まで帰らない予定だったので、メイドさんは半休からの~。


 翌日全休。


 私と遊ぶのを選んだアンをのぞいて、人がいない。


「みんな今ごろ楽しんでるんでしょうね」

「アンだって楽しいでしょ?」

 いつも私に化粧とか着付けをしてくれる人もお出かけ中なので、一人で全部私の身支度をしなくてはならなくなった彼女には同情できるところはある。


「・・・も・ち・ろ・ん、ですとも。さぁ、立ってくださぁい」

 ・・・なぜ区切る? 

 そして、コルセットを持ってる顔が、なんか怖いような・・・。


「うぐぇぇぇ!」

 絞めるとき足で背中を押すのは間違いでは無い。


「ちょ! ちょお! 手加減! 手加減!」

「はい? 何ですか?」

 く~ぅ。犬耳が、犬耳が!


 そっぽ向いてる───っ!


 ◎ー ◎ー ◎ー


 ふーっ。


 一仕事終えたアンが額の汗をぬぐった。


 鏡の中の私は───。


 色白の肌から伸びる金髪は、そのままだと床に引きずってしまうので巻かれている。


 それでも腰まで覆う金色の房はドレスの紫色と、対になって私を引き立てているのだから・・・。


 ・・・無駄じゃぁ無いわよね?


 少々つり上がってきつめに見える目の中の瞳も紫。

 これは公爵家の特徴。

 その下は当然形のいい鼻。紅が塗られて艶々な唇とのバランスもとれていると思う。


 殿方の視線を誘導する御胸はちょっと控えめ。

 ・・・服を脱ぐとあれ? っとなるのは公爵家のトップでは無いが、上位に位置するであろう秘密だ。


 ほっそい腰はアンの努力の賜物。

 お尻はスカートにくれて見えないが、それなりと言っておこう。


「完・璧」

 アンが自画自賛している。

 ・・・そうだろうか?

 我ながら、ちょっとげんなりしているように見えるが・・・。


「美しいです!」

 アンがそう言うならそうなのだろう。

 フッっと目の前のご令嬢が笑った。


 こんこんこん。

 ちょうどいいタイミングでノックが聞こえた。


「お城から使者の方が」

「御要件は?」

「至急参上するようにと」 

 まあ、そうなるわよね。王子暗殺とか言ってたし。

 アンと話す取り次ぎが、完全装備の私を見て、あれっ? とした顔をしているのが、ちょっと面白い。

 

「はい、お嬢様」

 アンが手渡そうとしているのは、夕食の入ったバスケットだ。


「お休みの予定で良かったですね」

 そう。今日は部屋、というかベッドで食べようと、手を汚さない料理を準備してもらっていたのだ。


 私はにっこりと、バスケットを押し戻す。 


「へっ?」


 令嬢が一人で行くわけないでしょ。


「えっ?! えっ! えーっ」

 何て言ったってバスケットの中身は二人分、なのだ。


 ◎ー ◎ー ◎ー 


「あれ、どうするんですかお嬢様?」

 公爵家から出た馬車は二台。

 さすがにあれ(・・)と同乗するのは、嫌なので。




 屋敷を出た私達を出迎えたのは、王城から(つか)わされた馬車と、見慣れない二頭の馬だった。


「これは───」

「スレイプニルですね」

 馬車近くにいた男性は、御者(ぎょしゃ)だろう。

 王城所属の馬車を任されるだけあって、馬好きなのが世話をされている馬の様子からもわかる。


「騎士団の偉い人とか、伝令が乗るヤツです。本気で走ると、あまりの速さに足が八本に見えるって名馬ですよ。馬車を引いたりには向きませんが」

 馬車の動きがついていけず、壊れたり、ひっくり返ったりしてしまうそうだ。




「使えるかも知れないから、とりあえず、ね」

 これはいいことを聞いた、と。

 私は大型の扇子で口元を隠した。


 ◎ー ◎ー ◎ー


 うちの屋敷と王城は近い。

 準備する時間を含めると、歩いていった方が早く着くぐらいだ。

 もちろん、貴族のたしなみとしてそんな事はしないし、もしやってしまったら、潜んでいた罠にかかったと自覚するに違いない。


「かかりますねー」

 ・・・小さいお子様のように、椅子に膝を乗せるのはおよしなさいな。

 向かい合わせで進路方向が見えないアンが、椅子の背に胸を預けている。


「もう、お城の中よ」

 そう。家とお城は近い。

 ・・・近いのだが。


「ついてから、建物まで。さらに建物に入ってからが長いのよね・・・」

 これが、みんな、馬車を使う理由である。


「もしかして、さっきの門が入り口ですか?」

 アンが座り直した。


 なんとなく不安そうなのは、明らかに壁が木製だからだろう。


「大丈夫よ。ちゃんと特別製だから」

 お城と同じく、巨大な桜の根っこ。

 元の世界ではあり得なさそうだが、巨大な幹を支える為か、こちらの世界では板根と呼ばれる三枚板状の根が等間隔でしばらく伸びた後、九十度曲がって丸く幹を取り巻いている。


 同じ面積で区切られた二つの区画には、それぞれ騎士団の本部と魔術師団の本部があり、外部とつながる門を守っているのだ。


「あれ? 区画は三つですよね? 残りは?」

「今、いるじゃない」

 そう、残りの一つが私達のいる区画だ。


 訓練場もかねている二つに比べれば、庭園になっているこの場所は手薄に見えるが、ちゃんと門は守られている。


「もうすぐ、到着です」

 さらに言うと、お城の入り口だって防御拠点なのだ。


「誰にも見咎められず・・・」

「?」

 おっと。考えが漏れたか。

 御用でしょうか? と耳を立てているであろう後ろのアンに、何でも無いと私は、手をヒラヒラとさせた。

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