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え、これで終わりですか?

「お嬢様」

 アンが読んでいた本を閉じ、ナイトテーブルに載せる。

 ピン! 頭の頭頂部に二つ並んだ三角形の耳が世話しなく方向を変え、最終的に裏門がある方角に固定された。


「この屋敷に賊が?」

「まだ、騒がしいとしか」

 ここで私付きのメイドのアンの説明をしておこう。

 耳が頭頂部にある事からもわかるとおり、人間族ではなく、犬人族。

 人間を基本とした直立歩行姿を覆う体毛は、服に隠れた部分では濃い箇所もあるが、顔や手はすごく短く細かい産毛で覆われていて、肉球も含めて触ると落ち着く。


 ・・・何で服の下の事情まで知ってるかって?

 小さい頃、一緒にお風呂に入ったからですが、何か?


 耳は頭の上の方。垂れ耳も立ち耳もいる。

 鼻は人っぽいが大抵、先端が体毛色が濃くなった色。

 手は人と同じ五本指だが爪は尖って厚め。肉球は指の先端と手のひらの上側にアリ。

 足は踵を浮かせるスタイルで、その分接着する先端部は幅広。

 アンは専用の靴を履いてるが、靴無しでもおかしいと思われない。

 もちろんしっぽあり。長さ形も様々だが、訓練しないと感情がバレバレになるので隠す人も多い。


 アン個人の特徴は。

 耳は立ち耳、毛色はうす茶。

 鼻の頭は濃い茶でほぼ黒。

 しっぽは右にカールしている。といったところ。


 忘れちゃいけないのが、おでこの模様。

 本当の眉毛は長いのがまばらに生えているのだが、白く大きめの、まあるい模様が目の上にそれぞれ乗っかっているのでそれが垂れ眉っぽく、彼女をいつも困っている風に見せている。


「っ! こちらにきます!」

 まあ、実際には困っている事は少ない・・・と思いたい。

 ちゃきっ! っとどこからともなく取り出した変な形のナイフを両手の指に挟んで。


 私を守るべく臨戦体勢の彼女が。


 壁に飾ってあった剣に手を伸ばす私を見て、またぁ(onz)という顔をしたのは気のせいだろう。


「やはり近づいてきます! けど・・・お嬢様?」

 うん。わかってる。

 ここでやっと私の耳にも、分厚い扉を通して男同士が怒鳴り合う声が聞こえていきた。


 先手必勝。

 入ってきたらこれでガツンとヤるわね。


 ちょうどいけそうな形をしてるし。


「逆です。逆。何で? まあ、それは鞘から抜けないからいいですけど」

 アンが、なんか諦めた?!


 え、逆? ああそういえば訓練場で見た殿方は・・・。


 ガシャん!


 あ、手が滑った! わ! 

 あれ? こっちの方が持ちやすい?


「お嬢様! 隠れて下さい!」 

 え! う? どこに? 


 ああ!


「私の背中以外です!」

 なら、ええと?


 スッ。


 ああ、ナイフは太もものベルトに、いつも・・・。


 って! そんなに引っ張らないで。

 べ、ベッドに・・・。


「乗ってどうするんですか!」

 え? ああ! 影になるとこに、しゃがむのか・・・。


「私が良いって言うまで出てきちゃダメですからね!」

「わかったわ! これがすんだら、あのお店でまたお菓子を・・・」

「それ、フラグ───!」


 うん。彼女を。

 ・・・あまり困らせて無いと信じたい。


 ◎ー ◎ー ◎ー


 ちゃき。

 アンがまたきわどい高さまでスカートをめくり、私が口を閉じているのに耐えられるぐらいの時間はどのぐらいだっただろうか?


 細かい茶葉がお湯をお茶に変えるか変えないか。

 それぐらいの時間の中、こちらへと足音が迫った。


「王子暗殺犯! 逮捕する!」

 ひときわ高らかに宣言された後。


 ガァン! と自室の扉が、いまだかつて、たてた事の無い声をあげた。


 あげた、のだが・・・?


「お嬢様、もう良いですよ」

 再びぴくぴくさせてた耳を止めて、アンがふーっっと息を吐いた。


 ◎ー ◎ー ◎ー


「ちょっとだけですよ?」

「わかってる」

 こちらに肉球付きの手のひらを向けて、アンが少しだけ扉を開ける。

 やっぱり、侵入者は捕らえられたようで、アンの手が私を手招きする。


「痛そう・・・」

「ざまぁみろです」

 扉の隙間に縦並びになった片目ー'sに飛び込んできたのは、両肩を押さえつけられてる・・・自分の右足を押さえた若い男だ。


「この扉に感謝ね」

「まあ、そうですね」

 一見、装飾に見えるが、金属部分は補強なのだ。

 大げさかな~と思っていたけど、自室に丈夫な扉をつけてくれた両親に感謝。


 そんな風に扉を誉めている間に、侵入者はロープでぐるぐる巻きにされていた。


「あれ? 身分によって縛り方って違うんじゃなかった?」

「公爵家に無理やり押し入った時点で、身分なんか関係無くなりますよ」

 そんな会話をしていると、両側を家付きの騎士にはさまれながら、新たな人物が登場した。


「あれは・・・」

 関係者らしき白髪交じりの制服をきた男性。

 見比べようとした視線が、侵入者と交わってしまった。


「この! 暗・・・」

「申し訳ありません!」

 縛られたて、転がされた男よりも低く、白髪交じりの頭が下げられた。


「あんなヤツに・・・」

「黙れぇぇぇぇ!」

 ちらっと目があっただけで、この騒ぎである。

 もういいですね? とアンが無言で聞いてきたので、私はうなずいた。


「知り合いでしたか?」

「顔だけなら」

 見るべきものは見た。

 廊下で騒いでいた侵入者は、王子の新しい取り巻きの───近習候補ともいう─── 一人だ。


 ・・・まあ、うちでこんな騒ぎを起こした以上、その道は断たれそうだが。


 追いかけてきたらしいお父上は、男爵だったか。

 長年真面目に勤めて、騎士団の副団長まで出世したのに・・・。


 とはいえ。侵入者もその親も着飾ってる。

 

 と、なると───。


「どうやら、王城で何かあったらしいわね」

 今日、そんな装いで出かける場所は一つだ。


「どうされます?」

 私とアンの視線の先で、出番? 出番? とトルソーのドレスが主張し始めていた。

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